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[350] Date:2010-04-25 (Sun)
四月から朝日新聞東海版の川柳壇の選者という大役を任された。
その第一回目である4月20日付の紙面から、
評を書かせていただいた5句をご紹介。

 見る側が試されている河馬の尻/鈴木ますみ

 食卓でイチゴと交換する秘密/安藤なみ

 割り箸がぱりんと割れて花ふぶき/丸山 進

 一円玉訴へるよう落ちている/金五 満

 ひらがなの文字の味する煮ころがし/石田 興


投句していただいた方々にはもちろん、
何気なく目にしてくださった方々にも、
楽しく読んでいただければうれしい。




一日ごとに寒かったり暑かったり、不安定な日々が続く。
しかし、植物たちはこの異常気候にびくともしていないような気がする。
あちこちにあるハナミズキは満開だし、
銀杏並木の銀杏は新緑に輝いている。
ベランダではオオデマリが緑色の重そうな花をつけ、
モッコウバラやオリーブの木にもつぼみがついた。
もうすぐここは白の花々でうまるだろう。


遊びに来ていた母が「さみしい花ばっか」と言う。
びっしりの芝桜とか、
乱立する桜草とか、
母はなにしろ賑やかで華やかなのが好きなのだ。

「資質の違いですな」と言うと、
「あんたも年とりゃさみしいのはかなわんことがわかる」と言う。
いや、これでもけっこう年とってんですけど、
と、思うが言わない。
ごくまれにだけど、
彼女のあたまのなかは二十年ほど過去にタイムスリップすることがあるのだ。
そんなとき、実に生き生きとかがやく瞳を、
もうすこし長く見ていたいと思う。




忘れてもいいですあれは雲だから   れいこ



[349] Date:2010-04-06 (Tue)
北海道の松木秀さんの第二歌集『RERA』。
あとがきに「私が短詩型の実作をはじめたのは、まず川柳の分野においてでした」とあって、
章のタイトルには自作川柳が置かれている。
一ページ四首立で173Pある。単純に計算して680首あまり。
掟破りである。
このあたりが松木秀の、松木秀たるゆえんであるのかもしれない。
膨大な量の歌のなかから、こころ惹かれた10首を。


 包まれていないとひとは生きられぬ 言葉、国、雨、そして群青

 われよりも歳をとりたる十円を自販機に投ず がんばれ十円

 ところどころ粒の整列乱れたるとうもろこしよそれでいいんだ

 つるつるの荒野にみんな立っていて動いたひとは転んだひとだ

 また後で来るとひとこと言い捨てて一人で戻る帰り道、雨

 重箱の隅をつついて重箱はつつかれてもつつかれても重箱

 さらさらとペンは動いてあちこちがにじむ夏とはそういうものだ

 ささやかな尼さんがささやかな花をささやかに持ってくる夕まぐれ

 ははそはのシングルマザー累々とブルーチップを集めてしずか





近くに桜の名所、新境川堤がある。
あまりにいい天気だったので、
コーヒーをポットに入れて、
サンドイッチとバナナとケータイと本を持ってふらりと出かけた。
満開の樹と、満開をすこし過ぎた樹がある。
土手に寝転がって、目を閉じる。
風が吹く。
花びらが降る。
ほのかに桜のにおいがする。

あたまの右にはタンポポがあり、
左にはカラスノエンドウがあり、
右足のあたりにはオオイヌノフグリがいて、
左足のあたりにはホトケノザがいる。
背中の下にはヨモギとノビル。

すごい春だ。




はなびらのどれか一枚が答   れいこ

[348] Date:2010-03-29 (Mon)
脱稿。
夕方、メールで原稿を送る。
しばらくまともに文章を書いていなかったので、
へんなたとえだけど、
指がひっかかるかんじが最後まで抜けなかった。
書いてゆくうちにすこしは成長すると思うことにする。



日差しは春でひかりがいっぱいなのに、
風が冷たくて、体感温度は真冬なみだ。
それでも桜は咲く。

ソメイヨシノの開花より、枝垂れのほうがいくぶん早いらしい。
満開の枝垂れ桜のトンネルをゆく。
堤がゆるやかにカーブする場所などは、
視界がうすももいろ一色になる。
まるで桃色の雪が降り積もったような。
声を出すことはおろか、息をすることさえ忘れて見入る。

世界はときどき、
泣けるほどうつくしい表情を見せる。




街中の携帯電話が鳴る 桜   れいこ

[347] その他 Date:2010-03-23 (Tue)
ねじまき3月句会

今月の題は「他」
参加者9人、うち出席者は6人+未成年の見学者1人
いつものように意見交換があり、
いつものように時間が足りなくなり、
ばたばたと会場をあとにする。

わざわざ迎えにきてくださった朝日新聞のIさんと、
対談(!)の相手である荻原さんと名古屋本社へ。
質問に答えたり、笑ったり、しゃべったりをする。

帰宅してエレベーターに乗ったら、
いったん昇って、ガクンと下がったまま動かなくなった。
どのボタンを押してもなんの反応もない。
インターフォンは機能せず、
しかたなく壁に貼られた電話番号にかける。
閉じ込められた時間は40分。
バールのようなものでドアがこじ開けられて、
初めて自分が、一階の床から1メートルほど昇ったところにいたことがわかったのだった。

と、
いまだから冷静に語れる。




ねじまき3月句会、題詠「他」に提出した句

足元にその他のそのが咲いている   れいこ



[346] 咲く Date:2010-03-14 (Sun)
新玉のボールが飛んできたら打つ/広瀬ちえみ『垂人』13号より


『垂人』の13号が届く。
『垂人』は、俳人の中西ひろ美さんと、
大好きな川柳作家である、
広瀬ちえみさんのお二人で編集と発行をされている雑誌。
楽しみながら誌面作りをされているさまが伝わってくる。
作品も散文も読み応えがあることはもちろん、

 14号原稿締切・梅雨に入る頃

というチャーミングな一行を奥付にみつけて、
おもわずニッコリしてしまう。




サボテンの花が咲いたら起こしてね   れいこ

[345] Date:2010-03-12 (Fri)
冬の日、春の日、とめまぐるしく気温が変わる。
きょうは春の日らしい。
両親を乗せてドライブに出かける。
ふたりとも去年の秋に行った、
郡上大和の道の駅がたいそうお気に召したらしく、
片道一時間半、R156を北上する。
長良川に沿ったこの道の景観はすばらしい。

道の駅でふきのとうをみつけ、蕗味噌を作るため大量に購入。
片手にかかえきれないほど大ぶりのミモザ(の枝)もあって、
黄色いちいさなぼんぼんみたいな花をいっぱいつけている。
陽気なハミングが聞こえてきそうな。
そのかわいらしさと、大胆な大きさに惹かれて、
手持ちの花瓶には収まらないことを承知で買う。
帰ってから陶器の傘立てに水を張って居間の片隅に、
小さめの枝はデキャンタに活けて出窓に置く。
部屋の中が一気ににぎやかになった。




ちがうなあ、と思う。
おなじ景色のなかにいて、
おなじ言葉をつかいながら、
ちがうことを思っていた。
事実はひとつかもしれないが、
真実はひとの思いの数だけあるのだ。




ハリマオを待ってたころの膝の傷   れいこ

[344] Date:2010-03-08 (Mon)
午前中に掃除と洗濯をすませ、
午後、朝日新聞のIさんに会うため、
自転車でJRの駅ビルに出かける。
彼女のひとなつこさげな表情や、
ふんわりと相手を包み込むような話し方に誘われ、
川柳の歴史の概略や、現在の川柳事情など、
問われるまま、あるいは問われないことまで、
実にまとまりのない話をする。
気づいたら、すでに二時間が過ぎていた。




難しそうな漢字が横にいっぱい並んだ名刺をもらう。
りっぱそうな肩書きがついて、
超多忙になった元野球部員のO君と、久しぶりの会食。
週に二回は東京だという。
名刺の住所は有楽町だった。
ウーロン茶で乾杯し、
ひたすら料理を食べることと、話すことに専念する。
異性意識が希薄な相手であるので、お互いにらくちんだ。
寒ぶりやとり貝を食べながら、ちょっとだけ深刻な話をし、
くだらない話をしながら、串揚げを食べる。
気づいたら十二時をまわっていた。
それでもコーヒーを飲まんと気がすまん、
というO君につきあって、
かろうじて開いていたファミレスへ。
まずいコーヒーを飲んで午前一時に帰宅。
なんという不良、
と留守番をしていたうさぎに責められる。




風がやわらかくなった。
空がうすみず色になった。
梅が咲いている。
もうじき桜が咲くだろう。

生まれ変わるなら植物がいい、と思う。
生まれ変われないのなら、
今日をたいせつにしようと思う。
たいせつな今日があつまって、
「わたし」は出来ている。




右耳のことは知らない左耳   れいこ

[343] 書く Date:2010-03-04 (Thu)
雨。
休みになるとなぜか雨が降る。

雨であることを言い訳にして、
どこにも出かけず、
終日、読書にふける。

なんでもないはずのページで、
いきなり感情の制御ができなくなる。
十代の頃ならいざしらず、
本を読んで泣くなんて久しく体験したことがなかったので、
それ自体にも驚いたけど、
この物語の、ここで泣く読者がいるとは作者も想定外だったことだろう、
と、冷静に思う自分もいて、すこし安心する。

「なかはらさんは情緒的すぎるんだよ」
と、ついさいきん、
友人のO氏に言われたことを否応なく思い出してしまう。
いやはや。




どんなに居心地のいい場所であっても、
変わりたくないと願っても、
ひとはひとつところには留まれない。
それが、外的要因のためであれ、
内的要因のためであれ。

だから、過去はいつだって、
まぶしくかがやく。





ねじまき2月句会、題詠「何」に提出した句

空が来て何を書いてもいいと言う   れいこ

[342] 並ぶ Date:2010-02-28 (Sun)
休日。

仕事で近くまで来たというゆきちゃんと、
近くの梅林公園に出かける。
ほんとうは仕事なんかじゃなかったくせに、
この幼なじみには心配ばかりかけてしまう。

梅は三分から五分咲き。
公園の敷地内は梅の香りで満ちていた。
ほんのり緑がかった白梅や、薄いピンクの紅梅、
花簪のような枝垂れ梅、
どの枝も丸いかわいい蕾をいっぱいつけている。
ひときわ赤みの勝った蘇芳色の花にこころ惹かれる。

ベンチでたい焼きを食べながら、
女どうしの話をする。

目の前の池を見ながら、
梅も桜もどうして水のある方に傾くんだろう
と、ぼんやり考えるともなく考えていた。
幹も枝も、
どいつもこいつも。




アイコンが並ぶ波打ちぎわみたい    れいこ

[341] こめかみ Date:2010-02-23 (Tue)
ねじまき二月句会。

午前中になんとか句稿をまとめ、名古屋へ。
すっかりまるごと春であるような、あたたかな一日だった。
大阪の伊丹からはるばる、
桐子さんとふでこさんが二度目の参加。
恐縮したり、感謝したり。
次回こそコメダに行きましょうね、きっと。




じぶんが何を書きたいのか、
どこに向かいたいのかわからないんだよね。
と言うと、
劣化することを恐れるなと、言われた。
とことん壊れた先に顕れるもののことを思う。

やっぱ、おぎーはすげえや。
と、思ったことだった。
もちろん、本人には言わないが。



言わないことがあって
言えないことがあって
自分に課したことがある




こめかみの月の砂漠とねんごろに   れいこ

[340] ゆび Date:2010-02-20 (Sat)
来週のあたまから10階の催し物会場でセールが立ち上がる。
ダンボール(大)5個分の納品の値札をせっせと付け替え、
その合間に接客をし、あわただしく一日が終わる。


帰り道である、柳ヶ瀬の劇場通りを歩いていると、
「れいこー」と背後から大声で呼ばれて、ギョッとする。
半ば予期しながら振り向くと、案の定、
このあたりに店を出している、高校の同級生のヨーイチだった。
彼にはもう何度も何度も、
ひとの名前を大声で呼ぶなと頼んでいるのだが、
いっこうに効き目がない。
「だからー」と、恨めしげに訴えかけるも、
テキは気づく様子もなく、
「いま帰りか? めし食いに行くか?」と屈託がない。
「やーだ。帰る」と答えて、さっさとその場をあとにする。

お互いに社交辞令である。
てごわい現実を生きているものどうしとしての。

しかし、岐阜は狭い町だと、
つくづく思う。




かわうそがものを食べるときの様子をみながら、
かわうそ好きなともだちを思い出していた。
かわいい顔が一変して悪魔のような形相になる。

ああ、これってクリオネみたいだ、
と、なんだかふかく納得する。




えいえんの角度にゆびを曲げてみる   れいこ

[339] ひざ Date:2010-02-15 (Wed)
朝、エレベーターを待つあいだ、
廊下のつきあたりから見える伊吹山と対峙する。
雪で白くなった山の、たぶん谷のあたりに、
青い山肌が露出して、筋肉のような筋が何本もはしる。
「おはよう、いぶき」と声をかけてみる。

日本中に数え切れないほどの山があって、
それらの山々が同じように雪をかぶっていて、
むしろ、ありふれた景色だと思うのに、
この、圧倒的なかけがえのなさ感は、
いったいなんだろう。


棚卸しのため、午後六時で閉店。
いつもはひとりで歩くアーケードを、
仕事仲間といっしょに歩く。
わたしより10センチほど背の低い彼女は、
わたしより歩く速度が遅い。
「はやーい」と言うので、
「おそーい」と言い返しながら、
歩調をあわせようとスピードを落としたとたん、
ドラッグストアに寄ってから帰るから、じゃあねと、手を振られ、
なんだか見放されたような気分になる。




ヒアシンスが満開です。
青紫の星のような花がひしめきあって咲いている。
暖房を落として部屋の温度が下がると、
涼しげな香りが濃くただよう。


そんなふうに一日が終わる。




ふるさとがきている膝のあたりまで   れいこ

[338] ひかり Date:2010-02-11 (Thu)
雨。
ここ数日、自己嫌悪の沼に首までつかっていた。
そういうときには、手を動すにかぎるので、
一心不乱に料理をつくる。

いわしのつみれ汁と、
帆立のクリームコロッケ、
アボガドと玉葱とツナのサラダ。

いわしの頭を落とし、人差し指で腹をひらき、
内臓をひきだす。
頭の方に人差し指と親指を入れ、骨をつまみ、
人差し指の第一関節あたりを尾のほうに滑らせ、
骨をはずす。
ひっくり返して皮を剥ぐ。
肉をペースト状になるまで包丁で叩く。

この一連の作業がすき。
じぶんがとても敬虔なひとであるかのような気分になれる。




どう伝えようか、ひかりであったこと   れいこ

[337] きゅうこん Date:2010-02-06 (Sat)
終日、雪。
ぼたん雪にはじまり、しばらく吹雪いて、
こな雪になり、みぞれになり、夜にはやんだ。
いちにちでこれほど変化する雪を見られるのも春だからか。

なんだか胸のなかがもやもやするので、
ともだちに電話する。
「イライラするから電話した」と言うと、
「イライラはうつるね」といって笑う。

私生活上のことにしろ、創作上のことにしろ、
ぶつかったり、投げられたりして、
痣ができたり、傷ができたりするたびに、
ともだちの透明な腕が伸びてきて、
さすってくれたり、撫でてくれたりする。
(ような気がする)
ありがたいことに。


悩みつつ、ずっと伸ばしたまんまだった髪を、
思いきって切った。
行きつけの美容院のおにいさんは、
「逮捕前ののりぴー」とかゆってましたが、
(そのたとえもどうかと思うが)
どうみても、ワカメちゃんです。

しくしくしく。




きゅうこんと鳴く魚の頭を落とすとき   れいこ

[336] Date:2010-02-04 (Thu)
朝の通勤時間を狙ったように降った雪は、
お昼前にはやんで、午後には日差しがもどる。
それでも夜になると冷え込みがきつい。
寒いと、ひとは無口になる。
内省的になる。
自分の内側など見つめたくないときなので、困る。

もう、寒いのはいやだ!
立春ってゆったじゃないか!
と、
たかがマイナス2℃程度で駄々をこねる岐阜県民を、
どうぞ笑ってください>北のかたがた




言語学者で、京都大学大学院 人間・環境学研究科教授の東郷雄二さんが、
『脱衣場のアリス』について書いてくださっているのを、いまごろ見つけて、
恐縮のあまり、しばらくかたまる。
  ↓
http://lapin.ic.h.kyoto-u.ac.jp/tanka/tanka/kanran14.html

多、多、多、多謝。




きんいろの粒のむ二月四日未明   れいこ

[335] 繋がる Date:2010-02-03 (Wed)
ついに東ローマ帝国ともお別れだ。
ナレーションのあがた森魚の声ともお別れだと思うと、
ちょっとさみしい。
映像を邪魔しない程度に抑制された、
しかし、かすかな感情のゆらぎのようなものを内包している、
そんな声。


テレビを消して図書館に行く。
なるべくしめってなくて、
なまなましくもなさそうな本を選ぶ。
今度は本に逃避するわけだ。
という、こころの声は、とりあえず無視する。


気持ちに負担をかけないようにすることは、
逃げではない。
と、いまならば言える。
むかしは言えなかったのだよ、なかなか。



探しまわった眼鏡を冷蔵庫の棚でみつける。
お風呂に入るため服を脱ごうとして、
お湯をはってなかったことに気づく。
どうかしてる。



声がきて、ゆびが来て、空に繋がる   れいこ

[334] Date:2010-02-02 (Tue)
えんえんと「東ローマ帝国の繁栄と滅亡」を観ている。
2時間番組5本のうち、4本を制覇。
時間的にも空間的にも気が遠くなるほど遠い。
そこがいい。
土耳古と紙に書いてみる。
なんてふしぎな文字列であることか。


東京は雪だという。
岐阜は夕方降った雨がやんだところ。

雪降れば壺を割る日だなと思う/中村冨二

雪がふると思い出す一句。
「壺を割る日」はいつかくる。
いつか、は自分で決めなければならないのだ、きっと。
冨二は東京のひとなので、
この雪はたぶん、積もらない。
なにかに触れては消えてゆく雪、だと思う。
そのはかなさが「壺=たいせつなもの」のはかなさと響きあう。





先日のねじまき句会の題詠「人」に出句した句

あきらめて人のかたちにもどる影   れいこ

[333] Date:2010-01-28 (Thu)
ちっちゃい人のお誕生日に絵本を贈ったら、
お礼のメールに「一歩あるいた」という報告があって、
ほー。
と思い、
無意味にあせる。

彼のなかに流れた一年という時間と、
わたしのなかに流れた一年という時間の、
あまりの違いにしばし呆然とする。
まさに、象の時間と蟻の時間というやつだ。
あ、ちょっと違うか。
しょうじきに進化と退化といったほうがいい。



ひさしぶりに古い友人である、ゆきちゃんと会う。
いつもはわたし以外のひとの声がするだけでも固まってしまう、臆病なそらが、
へいきで彼女になでられたり、膝に乗ったりするのだった。
びみょーな気分。


雨のあがったベランダで、
まだ黒っぽい雲ののこる空をふたりで見ながら、
うんとむかし、校舎の屋上で同じように並んで見た空を思い出していた。





前出の雨とはちがう雨の音   れいこ

[332] ぶな Date:2010-01-24 (Sun)
実家のある岐南町は葱の産地である。
ねぎっちょというマスコットキャラがいるほど。
で、ご近所からしこたま頂くらしい葱の、何割かが回ってくる。
ふつーに食べていては消費が腐敗に追いつかなくなるので、
大量に消費するため、葱焼きをつくる。
お好み焼き用の粉を卵と水でちょっとゆるめに溶いて、
小口切りした大量の葱と鰹節の粉をさっくり混ぜ合わせ、
フライパンにごま油をひいて、チヂミみたいに薄くのばし、
表面がカリカリになるまで焼くだけ。
安上がりでかんたんで、しかも美味です。



オンデマンドで「東ローマ帝国の繁栄と滅亡」をみる。
えんえんと奇岩の並ぶ、カッパドキアという町に強く惹きつけられる。
キノコみたいな形の岩が、
大地からにょきにょきはえてるみたいな、
それはそれは奇怪で面妖な場所である。

何千年も前に修道士たちが岩に穴を穿って、
集団生活をしていたという。

とある場所で「行きたい」とつぶやくと、
きりん相方が「いつかいっしょに行こう」と言ってくれた。


かなわない約束を何度も重ね、
さいしょから、かなわないとわかっているゆえに、
とうとい と思っていた時期があった。


でも、おんなどうしの約束は、
なぜか実現しそうな気がするんだよね。

いつかきっと。




きょうは歌人の笹井宏之さんの命日だった。
いま、いちばん好きな歌を(「いちばん」はその日その時いつもちがう)


からすうりみたいな歌をうたうから すごい色になるまで、うたうから/笹井宏之




ぼくたちの会話のところどころ橅   れいこ

[331] 水の底 Date:2010-01-22 (Fri)
昨日、今日と冬に逆戻りしたような寒さ。
雪こそ降らなかったけれど、
朝方の冷え込みはハンパない。
仕事に出る前に、保温のためそらのケージに毛布をかけると、
お留守番だとわかるのか、はげしくケージを噛む。
カチカチという音に送られて部屋を出る。


空いた時間にふらっと寄ったBook offで、
なにげなく買った村上龍の『最後の家族』を読了。

「喪失感は、離れていった大切な人間の記憶を、
心のどこに仕舞っておくかを決めるために必要なのだ」

という一節が深くこころに残る。
ちゃんとやればちゃんとできるじゃん、村上龍。
と思う。





あらかじめ石とわたしは水の底   れいこ

[330] Date:2010-01-20 (Wed)
年末のご挨拶も新年のご挨拶もしないまま、
すっかり一月も半ばをすぎてしまいました。

今年こそ三日に一度は日記を更新するぞと、
大晦日から元旦にかけて降りしきる雪につぶやいたりもしてみました。
5日が過ぎて、
せめて一週間に一度は更新するぞと思い直してもみました。
いや、まあ、言い訳です。

しかし、なんという冬でしょう。
市内でも20センチを超える積雪が二度あって、
おとといあたりまでめちゃくちゃ寒かったのに、
(朝、徒歩10分のバス停までゆくあいだに雪だるま状態になった)
きのうもきょうもいきなり季節が変わったような、ぽかぽか陽気。
なにか起きる予兆ではないかと、ちょっときもちわるい。

あいかわらずの毎日ですが、
新しいことも水面下ではおこっています。
そのうち告知できると思いますので、どうぞお楽しみに。

おかじょうき社の「杉野十佐一賞」、結果が発表されています。
   ↓ 
http://www.okajoki.com/

毎回思うんだけど、
選者って作品を評価するものである一方、
結果をみたひと全員から評価されるものでもあるんですよね。
こわ。

あと、歌人の伊津野重美さんが、
写真家の岡田敦さんとのコラボ写真集「ataraxia」を出版されました。
 ↓
http://homepage2.nifty.com/paperpiano/

青が美しく、えみちゃんの短歌と響きあって、ステキな本に仕上がってます。
彼女は被写体にもなってますが、
水にも植物にもなじみすぎてて、ってゆか、
コロボックルとか、「もののけ姫」に出てくるこだまみたいで、
ああ、これが彼女の本質なのかと、しみじみ思ったことでした。



昨日は今年初めてのねじまき句会で名古屋へ。
題は「人」
今年は人偏シリーズなのだった。
ただいま欠席選句中なので、結果はのちほど。


いままで棚上げしていたことをひとつ、
棚から下ろし、埃を払い、収めるべき場所に収める。
エネルギーをつかう。




切株と呼ばれる前の樹の名前   れいこ




[329] 伝統のしっぽ Date:2009-12-27 (Sun)
ひさしぶりに日曜日のお休み。
なぜか休みの日になると、雨が降ったり、雪が降ったりして、
晴れの日と休みが重なったのは一ヶ月ぶりくらいだ。
今年はもう元旦まで休みがないので、
大掃除の真似事でもしようと、
午前中に窓ガラスを拭き、
午後から水周りの掃除を終えたところで挫折。
風もなくてぽかぽかあったかい日だ。
自転車をこいで公園にゆく。
12月の日差しと、こどもたちの甲高い声をたっぷり浴びて帰宅。

先月、母が直腸ポリープの手術をした。
術後の組織検査で悪性だったことが判明。
担当医のはなしではすべてとったので心配ないという。
本人はあっけらかんとしているのだが、
それを聞いて今度は父親の具合が悪くなった。
なにしろそういった打撃にはめっぽう弱いひとである。
実家は車で10分ほどの距離にある。
催促はされないが顔を見にいってあげねば、という気持ちにさせられる。

わたしは肉親の濃厚な関係というものが、かなり苦手なんである。
たった半日つきあうだけで、へとへとになる。
が、両親は毎日ひとりでご飯を食べる娘を不憫と思っているらしく、
そこのところは説明してもたぶんわかってはもらえない。
いや、説明するのもなんだかめんどうだし、
誤解をまぬがれそうもないので、
先約があるとかなんとかゆって、てきとーに帰ることにしている。

実はわたしはしんそこ冷たいにんげんなのかもしれない。




伝統のしっぽを振ってさしあげる   れいこ


[328] Date:2009-11-07 (Sat)
ものすごく久しぶりの土曜休み。
朝からひとなみの休日気分を味わう。

「そら」と呼ぶとこちらをじっと見る。
もういちど「そら」と呼ぶと、一拍おいて、
決意したように跳んでくる。
一度目と二度目の呼びかけのあいだと、
跳んでくる前の一拍に、
彼の小さなあたまのなかで、どんな思考がうずまいているのだろう。

うさぎは捕食される動物なので、捕まることは死を意味する。
なので、つかまえて抱き上げたりしたら必死で暴れる。
ただ、好奇心が強いので、こちらがしらんぷりをしていると、
自分から膝の上に乗ってきて、なでろと要求する。
つかまれるのは嫌なのに、なでられるのはだいすきなのだ。
とくに耳の周りとか、鼻から眉間にかけてなでてやると、
うっとりして半眼になる。

薄皮のようなまぶたが目頭の側についてるので、
半眼になると瞳の半分が膜で覆われて、
けっこう不気味な顔になる。
はっきり言って、こわい。

ごきげんなときは膝の上どころか、
ソファの背もたれから肩に駆け登って、胸を駆け降りたりもする。
あたしはジャングルジムか。

いま、「なにか?」という顔して、
岐阜県神戸産の小松菜をわしわし食べてますが、ね。



10月26日の日記でお知らせした、
伊津野重美さん編集の詩歌雑誌「生命の回廊vol.1」が発行されました。
  詳しくはこちら↓
http://homepage2.nifty.com/paperpiano/seimei.html

創刊号は歌人、笹井宏之さんの追悼号となっています。
わたしの手元にも若干、在庫がありますので、
メールをいただければ対応させていただきます。



先月のねじまき句会に出した雑詠

芒にはなれないひとと見る夕陽   れいこ

[327] うろこぐも Date:2009-11-02 (Mon)
いきなり寒い。
昨日まで昼間は汗ばむほどの気温だったのに、
急に初冬だ。
晩秋はどこに行った。
しかし、冬になるならなるで、
そろそろですよー、用意はいいですか
くらいゆってくれれば、こころづもりもできたのに。



さいきん、本屋に行ってもなかなか読みたい本にめぐりあえない。
そこで、なにを血迷ったのか、
ディケンズの『二都物語』上下巻なんぞを買ってしまう。
読み始めたら、これがまた、
わたしの読解力のせいなのか、訳のせいなのか、めちゃくちゃ読み辛い。
もっぱら誘眠用として活躍しているのだった。


川柳も一種の「訳」ではある。
暮らしのなかで気づいたり、感じたりした、
本来ならば、翻訳不能なことを、
十七音を組み合わせたり、捻ったり、接いだり剥いだりして、
なんとか伝わりますようにと、祈るように書く。
祈ってる場合か、学習しろよ、考えろよ、と、
もうひとりのわたしはのたまうのだが。




かあさんの財布の中の鱗雲   れいこ

[326] 夕陽にねじまく Date:2009-10-27 (Tue)
ねじまき10月句会。

題は「泣」
サンズイ偏シリーズもあと三回(たぶん)となった。
毎回、みんなで相談して書きやすそうな題にしようと苦慮するんだけど、
毎回、なぜかくるしむことになる。
だれのせいだ。
と、みんなでぶちぶち言う。
(いや、最終的に決めるのは荻原さんなんだけどね)
どうせどんな題だって書きにくいのだ。
ああ、もう「泣」でいいよと、決まったのであった。

苦労のあとがしのばれる句稿をみながら、
おなじような時間におなじようにくるしむ仲間の姿を想像して、
ちょっとなごむ。

今月は新しいメンバーからの投句があったため、
すこし景色が変わったような気がした。

コアラとかミニラとか、
サザエさんちの話とか、
ここで披露したいのはやまやまだけど、それはまたべつの機会に。





琵琶湖を一周する、という計画はあえなく挫折した。
「琵琶湖をなめとっちゃいかんよ」と運転手のひとは言う。
そのとおり、走っても走ってもえんえんと琵琶湖なのだった。
滋賀って琵琶湖しかないんじゃないかとすら思う。
(滋賀県県民のみなさん、すみません)

4時間ほどかかって、やっと全周の五分の三くらい(運転手談)を制覇。
しかたなく、琵琶湖大橋を通って帰るという方法に日和る。

途中で見た夕焼けは、あまりにすごくて鳥肌がたった。
いままで数え切れないほど美しい夕焼けってのを見たけど、
あんなのはもう、二度とごめんだ。
真実うつくしいものは、怖い。




「どっか行きたいとこある?」
と訊かれて
「ホームセンター」
と答える、ある日。

「なんか欲しいものある?」
と訊かれて
「鹿沼土」
と答える、ある日。

いちいち驚いたような呆れたような顔をするのはやめてほしい。

慣れろ




検索をするたび夕陽、また夕陽   れいこ

[325] 十佐一、回廊、絵本 Date:2009-10-26 (Mon)
おかじょうき川柳社の「杉野十佐一賞」の締切りが近づいてきました。
今月いっぱいまで投句できます。
題は「穴」。
なかはらも選をしておりますので、
迷ってるかたはぜひご参加ください。
川柳なんて作ったことない、ってかんじのひとのほうが、
あたし抜いちゃうかも……です。
詳細はこちら
   ↓
http://www.okajoki.com/





それと、掲示板のほうで伊津野重美さんからご紹介がありましたが、
『生命の回廊 vol.1』に、散文と作品を書きました。

伊津野重美さんの朗読ライブ
「フォルテピアニシモ vol.4 〜笹井宏之に捧ぐ〜」にて
11月1日(日)先行発売されます。
http://homepage2.nifty.com/paperpiano/sasagu.html

執筆者は以下

岸原さや 
未来短歌会所属 

斉藤 倫 
詩集『手をふる 手をふる』(あざみ書房)
『オルペウス オルペウス』 『さよなら、柩』(思潮社)
 絵本『いぬはなく』(絵*名久井直子/ヒヨコ舎)

しんくわ
第3回歌葉新人賞受賞

なかはられいこ
句集『散華詩集』(川柳みどり会)
『脱衣場のアリス』(北冬舎)
共著『現代川柳の精鋭たち28人集』(北宋社)

ひぐらしひなつ
歌集『きりんのうた。』(BookPark) 
Gallery「風の卵」運営

村上きわみ 
歌集『fish』(画*ヲバラトモコ/ヒヨコ舎) 
『キマイラ』(BookPark)

伊津野重美
歌集『紙ピアノ』(写真*岡田敦/風媒社)
詩誌『生命の回廊』発行    
朗読ソロライブシリーズ「フォルテピアニシモ」 
岡田敦写真集『ataraxia(仮)』(青幻舎)2009/12刊行予定





あと、いっこ。
岩崎書店さんから「めくってびっくり俳句絵本」(全5巻)に
なかはらの作品が収録されています。
選句と解説は、編集者で俳人の村井康司さん。
デザインは名久井直子さん。
かわいい本ですよー。
    ↓
http://www.iwasakishoten.co.jp/products/4-265-05271-1.html

ちなみに、わたしの作品は第3巻(スポーツの俳句)に入ってます。
執筆者のお名前をみて、いまさらながらびびってますの。


しかし、名久井直子さん、有名になっちゃったなあ。
こないだも本屋さんでいろいろ見ました。
すごいなあ。
ぽえちゃんと呼んでいたころがゆめのようです。

[324] クローバーと本と花火 Date:2009-10-18 (Sun)
そらのためにクローバーの種を買ったのがすべての始まりだった。
つい、
棘がないって扱いやすそうでいいなあと思って、
白いもっこうバラもいっしょに頼んでしまったのだ。
つる性なので日よけになるし。
ああ、でも日よけといえば木陰っていいなあと思って、
ついつい、
鉢植えでも育てられそうなオリーブの木も頼んでしまったのだった。
一本では実がつかないというので、二本も。

葉っぱが風にさわさわ揺れて、
見てるだけでしあわせな気分になる。

朝、コーヒーを飲んだり、
夕方、夕焼けを見ながらタバコ吸ったり、
ベランダにいる時間が増えた。

春のクローバーの収穫と
秋のオリーブの実の収穫をゆめみながら
こんどはベンチだなー。
と、ひそかに画策しているところ。

あ。
いま気づいた。
また白い花ばっかだよ。




本はとおくへ行く
著者が想像するより、うんと遠くを旅する
そして、だれかと出逢う

旅をした本が連れてきてくれたひとは
表現や記録は「魔法」だと言った
時空を超えて二千年前の哲学者の頭の中さえ覗けると

わたしは思う
誰かに触れらることを、じっと待ってる図書館の本や
返本され、裁断される運命にある本のことを

おびただしい本の骸たちがあって
読者を得た希少な本がある
それはひとすじのひかりだ




一度だけ花火になったおかあさん   れいこ

[323] きんもくせい Date:2009-10-15 (Thu)
二代(台?)目の自転車は赤にした。
初代の自転車がどうなったかというと、
二度ほどこけて、三度ほどあちこちにぶつかって(塀とかガードレールとかポストとか止まってるものであるにもかかわらず)
車輪がゆがんだ。
……らしい。

言い訳する気はないけど、だって夜になると視力が落ちるんだもん。
しかも、岐阜は(てゆか、ここらへんは)街灯の数が少なくて、
ネオンの点いてるようなお店もなくて、暗いの。
って、言い訳じゃん。

で、二代目のはおとなしくママチャリにした。
形がおとなしいので、バランスをとるために赤にした。

というわけで、あれ、なんだっけ。
そうそう、金木犀だ。
自転車での通勤の行き帰り、小学校と公務員宿舎の前を通る。
そのおよそ200mくらいのあいだ、金木犀がびっしりと植わっているのだ。
そりゃもう、びっしりと。

匂いがやってくる。
鼻先を中心にゆっくりとまといつく。
どこかとおくに連れ去られそうになる。


匂いは記憶を連れてくる。




たれ耳ウサギのそらのはなし。
彼はもともと穴ウサギという種なので、昼間はほとんど寝てる。
わたしが帰宅する頃には起きてて、ゲージをカチカチ噛んで「出せ!」と騒ぐ。
出してやると大喜びして、垂直跳びを2,3回繰り返し、
やおら、部屋中をものすごい勢いで駆け回る。
なるほど、「脱兎のごとく」というのはこういうことかと思う。
テーブルを一周してソファに跳び上がり、跳び降り、
シンクの横の隙間に飛び込み、ゴチっと頭を打ち、飛び出し、
テーブルの周りを一周して、とどまるところをしらない。
見てるだけでつかれる。
おまけに、よろこびのあまり、うんちをぽろぽろぽろぽろ振り撒いてくれるのである。
ティッシュ片手に、後を追い続ける、わたし。


いきものを愛でるのは力技だ。




きんもくせい、めいおうせいと数えゆく   れいこ

[322] まぶた Date:2009-10-03 (Sat)
この土日、信長祭りでにぎわう岐阜である。
今年の信長は地元出身の伊藤英明らしい
(サルじゃなかったのか!とツッコミたかったのはわたしだけではあるまい)

いつもは閑散としているのに、
今日ばかりは人であふれる柳ヶ瀬を通り抜け、出勤する。
どろだんごの体験コーナーまであるのだった。
やってみたかったなあ、どろだんご。



見慣れない字体の手紙が届いていた。
だれだろう、と裏を返すと「鬼嫁」と書かれていて、
一瞬たじろぐ。
お、おによめ……。
いや、だけど、鬼嫁のわりには内容ほほえましすぎ。

いまではりっぱな母となった彼女だけど、
はじめて会ったときにはまだ高校生の女の子だった。

制服のスカートと紺色のハイソックスの間から覗く
あの、いかにも頼りなげなひざっこぞうを
昨日のことのように覚えてる。




まぶた貸してもらう鹿を見たひとの   れいこ

[321] おやすみ Date:2009-09-30 (Wed)
おっと、九月もきょうまでだ。
ということはあしたから十月なわけで。

あら、まあ。

前回の日記が何月の日付だったか
なんてことは考えないようにしようと思う。


さいきん、思いがけないところから、
あるいは思いがけるところから、
つんつん、つんつんつつかれるので、
そろそろ動かなきゃいかんなあと、重い腰をあげる。


いままでネットのあちこちに残してきた散文や作品が
消えないまま、いまでも残ってて、つんつんつつく側にまわる。
そういうことです。



ちょっとだけ近況を語るなら、
うさぎが来ましたよ。
そら という名前の男の子です。
いっしょに暮らし始めて五ヶ月。
この世のものとは思えないほどかわいい。




おやすみと言い合う鶴を折るように   れいこ

[320] 呼びにくる Date:2009-05-15 (Fri)
朝晩すずしい。というより、さむい。
ついせんだってまでは、もう夏かと思われるような暑さだったのに。
いったいどうなってる
というか、
どうなってしまったんだろう、地球は。

うさぎ、うさぎ、と唱え続けている。
いや、べつに唱えてないでさっさと決めればいいんだけどね。
ただあかちゃんうさぎに夏を無事超えさせることができるのか、
ちょっと不安なので決めかねているのだった。




とある出版社から依頼が一件。
いったい活動してるんだか、してないんだか、
こんなあやふやなヤツをご紹介いただいた某氏に深謝。


生活に追われると、
「一回休み」にしたくなる。
きょうは疲れたから、テレビみて、本読んで寝よう。
とか。

仕事をしないと生きてゆけないが
川柳を書かなくても生きてはゆける。


川柳について考えたり、自分と向き合ったりするのは
「一回休み」


わたしはほんらいなまけものなので、
それがずるずる続くと
そのままずっと休んでしまいたくなる。

しかし、
わたしはほんらい小心者でもあるので、
「お休みしてる」という、かすかな罪悪感と、
「なんか書きたい」という欲求がぶくぶくしてきて、
結局は、
書く。

書かなくても生きてはゆけるが、
それでは生きてる甲斐がない。


手に負えないな、まったく。




時間だと月の顔して呼びにくる   れいこ

[319] 左手 Date:2009-05-10 (Sun)
というわけで、
無事、復帰いたしました。

引越しのダンボールもひとつ残らず消え去り、
ベランダの植物たちは、
生まれたときからここにいるかのように、
すっかり環境に順応してます。

あたしはあいかわらず、
自転車を20分漕いで職場に通ってます。
元気です。

とここまではご報告なので「ですます調」にしてみました。




部屋の北側の窓からは
岐阜城をちょこんと乗っけた金華山が見え、
キッチンの東の窓からは各務ヶ原方面の低い山が見え、
南のベランダからは木曽三川公園の138タワーが見える。

自転車で3分ほどのところに県病院があり、
図書館があり、公園があり、ローソンがあり、TSUTAYAがある。
きょうは、うっかり見逃してしまいそうな、
こじんまりとした、焼きたてパンのお店を見つけた。


いったい何度目の引越しだろう。
生まれた家を出てから、ずっと、
ここではないどこかばかりを見ていたような気がする。

母から「やっと落ち着いたねえ」と言われて、
落ち着かなきゃいけないんだろうか、とちょっと思う。
母が引越しのことを言ってるんだとはわかっていたけど、
わたしは、いつかまたここを出るような気がしてる。

すごく気に入ってるんだけどね。




散歩するときどき消える左手と   れいこ

[318] ひっこし Date:2009-04-13 (Mon)
いよいよ明日、ひっこし。
きょうは休みをとって終日、ダンボール詰めをする。
けっこうあるなあ、荷物。
八割は不用品のような気がして、
今後たぶん使用しないだろうというものをどんどん捨てる。
可燃ごみの袋が3個、不燃ごみの袋が4個できた。

引越屋さんは朝8時に来るという。
早いってば。

夜までかかって、
寝具とパソコン以外のもにはなんとか詰め終えた。
さあ、いつでも来い、引越屋。

ああ、でも報告しなければいけないことがひとつ。
あしたから3週間ほど、なかはらネットに繋げません。

手配するのが遅かったのと、
引越シーズンとも重なって、
NTTの工事の予約が殺到ちゅうとのこと。

まっさきに予約しなきゃいけなかったでした。
甘くみてたました、はい。

というわけで、
いろんな方面にご迷惑をおかけしますが、
ほんっとすみません。
復帰するまで待っててね。

[317] ややこしい Date:2009-04-10 (Fri)
四月にはいってずっとバタバタしている。
なんだか一年中バタバタしているような気もするが。

気がつけばたんじょうび。
メールをもらったり、電話をもらったりする。
ありがとうございました。
なかはら、まだまだいきますよ(どこへ?)

そんなこんななバタバタも
締切りを無事に抜けたので、ずいぶん気が楽になった。
ただし、まだ引越しが控えている。
準備は遅々として進まない。
ただいま、ダンボール数個と同居ちゅう。


そんな落ち着かないこころをかかえたまま
先日、夜桜を観にいった。

同じ場所の同じ木々なのに、
なんだか年々、凄みを増すようにかんじる。
頭上を覆う花の集合をみあげながら
ヤバくない? と言うと、
なんで?きれいじゃない と返ってくる。
こわいよ、きれいすぎて と重ねて言うと、
いいんじゃない? 一年にたった一度なんだし
それをこわがるのはかわいそう と言ったまま、
あとは圧倒されておたがいに声をだすこともできず、
息をころして歩く。
歩きながら、そうか、かわいそうか と妙に納得したのだった。



ややこしい桜になってあいましょう   れいこ  

[316] 水滴 Date:2009-03-18 (Wed)
ずっと前から部屋を替わりたいなーと思っていて、
先週の休みの日に、近くの不動産屋さんに行った。
息子のような社員くんに物件を見に連れて行ってもらって、即決。

いまの部屋より交通は不便だが、部屋数が増える。
5階建て最上階の角部屋で南向き。
日当たり、風通し良好。
高いとこはこわいけど、ベランダが広いからだいじょぶ。
柵に近寄らなきゃいいんだし。
エレベータもついてるし、オートロックだし。

で、
引越しセンターとこちらの大家さんに連絡をし、
来月の半ばあたりに移ることに決まった。

ああ、でも引越しって、
本とか、衣類とか、食器とかまとめるんだっけ。

ひゃー。
めんどくせー。



池澤夏樹の『スティル・ライフ』の佐々井のように、
トランク一個で移動できる生活
ってゆうのがゆめだったむかし。

ほんとうに所有したいものはかたちのないものばかりで、
どうでもいいものが身の回りに溜まってゆく。




見てないと消えるから見てる 水滴   れいこ

[315] あちら側 Date:2009-03-17 (Tue)
ねじまき句会の日。

きのう降った黄砂の余韻がのこる町だ。
植木の葉っぱにも、駐車場の車のボディにも。

真昼の名古屋は汗ばむほどの陽気で、
道行く人々はコートなしか、せいぜい薄手のコート姿。
軽やかである。
いつものコートにバックスキンのブーツという、
雪国から出てきました風のわたしは見事に浮いていた。

そして句会。
今月の題は「沼」。
そう、
「池と沼の違いってなに?」
「河童が住んでるかどうか」
という、あのCMの沼である。

沼は情念っぽい。
沼はなまぬるく、なつかしく、得体の知れないじぶんのようだ。
海に近かしいひとがいて、川に近しいひとがいて、
山に近しいひとがいるとするならば、
わたしはたぶん沼のひとである。

今月分はただいま欠席選句中なので、
先月の句会の出句を。

題詠「河」
  輪郭はあやふやですが河口です
雑詠
  言い訳をするかまばたきにするか



あけがた、はんぶん夢うつつの状況で

桃の缶詰かってきて

という声をきいた(ような気がする)
現実のことか夢のなかのことか
いまだにわからない




手首から先はあちら側にある   れいこ

[314] Date:2009-03-02 (Mon)
おちびに会いに名古屋にゆく。
両親がいっしょに行きたがったため、車ででかける。
ほとんど5年ぶりくらいの有松は、新しい道がいっぱいできていて、
記憶にある道とどこでどうつながっているのかわからず、
電話で長男にナビゲートしてもらう。
まさか、30年近く住んでいた町で迷うとは思わなかった。

たまたま代休で家にいた長男が、ミルクをつくるのをみていた。
哺乳瓶の煮沸消毒から始まって、
粉の分量を量り、熱湯をそそぎ、ビンを振り、水につけて冷まし、
腕のうちがわに一滴たらして温度を確認するまで。
研究者のような、あるいは求道者のような、
しんけんなまなざし。

ふうん、そういう表情をするんだ。

パパのほうがミルクつくるのじょうずなの。
とよしみちゃんは言う。

ふうん、パパかー。
そうかー、と、
なんだか、ばかみたいに思ってた。

おちびはぐびぐびミルクを飲みほし、
げっぷをし、あくびをし、
赤くなったり、青くなったり、黄色くなったりし、
手足をばたばたさせていたかと思うと、
ことんと眠った。

帰りはいちども迷わずにすいすい帰り着く。
未知の道はもはや未知ではなくなったのだった。



帰宅してメールボックスをあけると、
原稿依頼が一件。
が、がんばります。



次週へとつづく道路も歌声も   れいこ

[313] 月の砂漠の駱駝 Date:2009-02-17 (Tue)
ねじまき句会の日。
いつもと同じ時間に起き、いつもと同じ時間に家を出る。
今日も寒い。

予定より早く名古屋に着いたので、
ディスプレイの勉強のため、
ざっとJR高島屋の婦人服売り場をみまわる。
いまさらながら広いなあ、売り場面積。

そして句会。
今月の題は「河」である。
川ではなく河なところがなやましい。
これから欠席選句があるため、結果はのちほど。

印象に残ったことば:冷蔵庫の管理者


句会の帰りに例によって「コメダ」に寄り、
その後、次男と次男の彼女のまさこちゃんと三人で食事をする。

さいきん観た映画やドキュメンタリーのはなしから、
なぜか猿の話題になり、動物のなかでも猿は例外的にきらいだとゆったら、
まさこちゃんと次男が顔を見合わせて笑う。
映画についても猿についても、彼とまったく同じことを言ってしまったらしい。
「観てるものもいっしょだし、そんな気が合うのがうらやましい」とまさこちゃんは言う。

うー、かわいいぞ。
とハグしたら、照れながらきゃっきゃとよろこぶ。
すこぶる素朴で素直な子なのである。
すかさず、声が猿っぽかったと、次男がいじめる。

よしみちゃんにしろ、まさこちゃんにしろ
同世代だったら(でなくても)ともだちになって一晩中おしゃべりしていたいような子たちで、
その点は長男にも次男にもほんきで感謝している。



月の砂漠の駱駝はいまも歩いてる   れいこ

[312] The Rose Date:2009-02-16 (Mon)
週末はなにかのいやがらせかと思うほど
あたたかかった(というより暑かった)のに、
今日は一転、夜には雪が舞うほど気温が下がった。
やっぱしね。
いやがらせだわ。


遠くに住むいもうとから企業秘密ファイルが届く。
バックに流れる手嶌葵の「The Rose」という曲にこころをわしづかみにされてしまう。
YouTubeのサイトを教えてもらって、かたっぱしから聴く。
「Moon River」がまたしぬほどいい。
音楽にはさほど執着しないほうだけど、これはもう別格。
興味のあるかたはお試しください。
    ↓
http://www.youtube.com/watch?gl=JP&hl=ja&v=Y7vsIL3s6MY

ああ、そか、このひと「ゲド戦記」の主題歌のひとだ、とやっと気づく。

遅っ。

ともかく、
えみちゃん、ありがと。




ちっちゃいひとの画像が送られてくる。
おっぱい前と、おっぱい後。
ちっちゃいひとはちっちゃいなりに
にんげんに近づこうといっしょうけんめいらしい。
刻々と変化する表情をほれぼれしながら見ている。
がんばれー。



ファイルを開くはなびらこぼさないように   れいこ

[311] 夕焼けをめくる Date:2009-02-14 (Sat)
先週からバレンタインの特設会場が10階にできていて、
アルバイトがたくさんいるため、社食は満員である。

物産展が終わればバレンタイン。
バレンタインが終われば、春物バーゲン。
バーゲンが終われば、ホワイトデーと、
イベントはえんえんと続く。
岐阜でいっこしかないデパートの生き残りをかけて。

いやはや。

去年の6月に前の仕事をやめたとき、なんとかなると思っていた。
いや、それ以前に、
家を出たときもなんとかなると思っていた。
定職はもちろん、資格も特殊能力もないくせに。
しかもこの年齢で。
なんとまあ、楽天的というか、怖いもの知らずというか、考えなしというか。
われながら、あきれる。

でも、まあ、実際、なんとかなっている。
たとえデパートが生き残れなかったとしても、
なんとかなるだろうという、根拠のない自信だけは、
なぜかある。


なにせ、もともとえのころ草だしね。



んー。
ねねね。
かくていしんこくってどうやるの?

むつかしー。
ってか、
めんどくさー。




もういちどあいたい夕焼けをめくる   れいこ

[310] ヒアシンス Date:2009-02-10 (Tue)
お風呂に入っていたらケータイが鳴った
息子の配偶者の実母であるキヨコさんからだ

「いま、おふろー」といちおう、ゆってみる
だが気持ちよく酔ってるらしきキヨコさんには案の定、通じない
「れーこさーん」を連発する
「はいはい、なあに?どしたの?」
と訊いても
「れーこさーん」である

九州出身のキヨコさんはお酒に強くて毎晩、晩酌をする
で、酔うと人恋しくなるのかときおり電話をしてくる
いつもはなしの中身などない
「さきゆき、いっしょに住もうよ」と何度も言うので
「うんうん、さきゆきね、きっとね」と何度も答えると
いきなり「こんど標準語を教えて」と言う
九州訛りを気にしてるのだ
あたしだって、ぜんぜん標準語なんかじゃないし、かわいいよ、訛り。
と言うと、うれしそうに
「じゃ、寝る」とゆって、電話はきれた


さすが、よしみちゃんの母だけあって、へんなひとだ
でも、へんなキヨコさんがすき。




証言にときおり混じるヒアシンス  れいこ

[309] 解ける Date:2009-02-9 (Mon)
休日。
曇りのち雨という予報にもかかわらず、
すっかり春であるかのような、おだやかであたたかい日だった。
午前中に洗濯をすませ、自転車でJRの駅にある図書館へいく。
JRの高架に沿って走れば図書館までほんの五、六分だ。
途中、道路脇の民家の庭に白梅と紅梅があって、
通り過ぎるとき、五分ほど開いた花からほのかな香りがした。

帰りに駅と家の中間地点にある
「コメダ珈琲」に寄って、昼食代わりのホットドックを食べる。
あきらかに炒めキャベツの量が減っていて、
「こんなところにも……」と、いやでも気づかされてしまう。

帰宅してからしばらく土いじりをする。
陽が翳るころにはベランダが春仕様になった。

越冬したヒアシンスにぽっちりと紫の花がついたので、
鉢に植え替えて玄関に移動させた。
この紫はことのほか匂う。



マッサージが得意なひとが
マッサージをしてくれるというので
ありがたくしていただく
遠いか近いかわからない将来
かくじつに無くなるからだの全体を
それが確かに存在したことを
手のひらに覚えこませているらしく

熱い手のひらだ



ひっぱれば解けるははとははのはは   れいこ

[308] 雨らしく Date:2009-02-08 (Sun)
圧倒的な支配力を持つひとに
「○○が降るまで待たないからだ」
と諭されている夢をみた
○○の部分がなんだったのか忘れてしまったが
なんだか持ち重りのする夢だった

目が覚めてから
そのひとが職場のひとであることに気づいた
しかし、
お互いに挨拶を交わす程度のうすい関わりしかない

ちょっと不思議だったので
今朝、エスカレーターでいっしょになったとき
「寒いですねぇ」
と話しかけてみた
間髪をいれず「ええ、風がねー」と返ってきたので、
すこし驚いてまじまじと見つめてしまったら
彼女も自分自身に驚いたようにようにぱっとうつむいたのだった

なんだ、これは

うーむ




雨らしくしているほうが父である   れいこ

[307] 立春の Date:2009-02-04 (Wed)
立春。

風もなくおだやかな朝である。
職場までは自転車でゆく。
去年の暮れからえんえんと続いている、
「側溝をつくっています」工事の箇所を通るとき、
警備員さんがひょいと自転車を持ち上げて通してくれた。
「ありがとう」という。
「気ぃつけて」といわれる。
本日の初会話。
春はひとのきもちをやわらかくするのかもしれない。




年毎に身辺で往来がはげしくなる。
ゆくひともくるひとも、
なべていとおしく、なつかしい。


「笹井宏之さんを偲ぶ会」が開催される。
詳細はこちら

笹井さんにはかつて「きりんの脱臼」にゲスト参加していただいたことがあって、
原稿をいただいたとき、
その出来栄えにきりんかたわれと深く嘆息したのだった。
あんなの書かれたら、もう、これは、しっぽを巻いてすごすごと退散するしかないと思った。
それがこちら

笹井さん、そちらも春ですか?




立春のあちらこちらに指紋をつける   れいこ

[306] 手紙のようで Date:2009-01-25 (Sun)
夜、ネットにつなぐと、訃報。

ずいぶん前から彼の短歌が描き出す世界の大ファンだった。
光があり、音楽が満ち、いきものはつつましく、はにかみながら生きている。


第一歌集は『ひとさらい』という。
彼の世界にさらわれてしまったひとはたくさんいたと思う。


先に逝くなよ。
こんなおばさんが生きてることが申し訳なくなるよ。




拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません  笹井宏之 『ひとさらい』より

[305] 雪でした Date:2009-01-23(Fri )
粉雪のふりしきる中、
レミオロメンを歌いながら自転車で職場に向かう。

寒い。

知っているひとは知っていることだが、
わたしはいま、デパートの婦人服売り場で販売員をしている。
だいすきな服を一日中触っていられるのはたのしい。
お客様がいちばんきれいに見える色やデザインを
いっしょに考えてコーディネイトするのもたのしい。
もしかしたら天職なのかもしれない。

ただ、サービス業の宿命で、土日は休みがとりづらく、
なかなか川柳関連のイベントに行けないのが
難といえば難であるが。



「おかじょうき」の一月号が届く。
杉野土佐一賞の発表号である。

特選には

お帰りなさいと便器の蓋が開く   高瀬霜石

を推した。
詳細は近いうちにおかじょうきのウェブに発表されるはず。




天使でも力士でもなく雪でした   れいこ

[304] 歩く Date:2009-01-17 (Sat)
禁煙するぞ
と決意してから16日目。
まだくちびると右手の指たちがさみしがる。
さみしがるくちびるをとりあえずフリスクでなだめる。

禁煙パッチなるものも使ってはみたが、
貼ったとこが赤くなって痛痒いので断念した。
いまのところ、フリスク(ベリー味)がいちばん有効。

先日句会の席で「禁煙してる」とゆったら、
O氏に「無駄なことを」と一蹴された。
長年のタバコともだちがいなくなるのがさみしいのだ、きっと。

さて、いつまで続くかしらん。
とひとごとのようにみている。




蕎麦屋まで何だか悲しかったのよ   広瀬ちえみ 

「垂人」11号に掲載された広瀬さんの作品だ。
駅やコンビニまで歩くとき、この句がふと口をついて出てくる。
「歩く」とは書かれていないが、蕎麦屋までは歩いてでなければならない。
何が悲しいのだと問われても答えようがなく、
それはほんの「そこの蕎麦屋まで」のことで、ずっと悲しいわけでもない。
ただ、ぼんやりと悲しいのだ。
黙ったまま並んで歩きたくなる。

困る。




伊吹颪を口にふくんだまま歩く   れいこ

[303] 人体に Date:2009-01-13 (Tue)
ひきつづき、雪。

おそるおそるですが、積もってみました
といった昨日の初々しさ(?)とはうってかわって、
今日は「どうだー」というような、ほんかくてきに雪。

吹き降りのなかを今年さいしょの句会に出かける。
名古屋はつくづく垂直の街であるなあ
と、ものすごい田舎から出てきたおのぼりさんのように思う。

ねじまき句会の今年のお題は「サンズイ」。
つまり、一年をとおしてサンズイ偏の漢字一文字が題になるというわけ。
ちなみに今日の題は「海」である。

今回から新たにひとりが参加され、
かたまりつつあったものがほぐれたような。
気持ちのよい風が吹き抜けたような。



原稿を書くとやせる、というはなしをきいてびっくりする。
脳を使うからだという。
原稿を書いてやせた覚えなどいちどもないわたしは、
たしかに脳は使ってないかもな、とみょうに納得したのだった。




海側と山側がある人体に   れいこ




[302] さざんか Date:2009-01-12 (Mon)
2009年が始まってすでに12日が過ぎた。

成人式だという。
平成うまれのひとたちの。

しゅんじぼーぜんとする。


去年の後半くらいから
なぜか、としよりたちとすごす時が増えて
時間のながれる速度であるとか、
微妙な空気感とかになじめないまま、
良い娘を演じているような居心地の悪さのなかにいる。

どっぷり漬かっていると
こころもからだも限りなく輪郭をうしなってゆきそうな。



5センチほど雪が積もった。
今期はじめての積雪である。

ベランダではゼラニウムが
まだ真紅の花をつけている。
それをけなげだと感じるのは、
ヒトの勝手な思い込みなんだろう、たぶん。




あいさつを交わすあなたもさざんか   れいこ




[301] 似合うもの Date:2008-09-08 (Mon)
わたしが寝てる間にこびとさんたちが
せっせと働いてつないでくれた。

んなわけなくて

電話してもえんえんと話中だろうとハナからあきらめていたフリーダイヤルにかけてみたら
予想に反してすぐにやさしい声のおねえさんが出た。
彼女の指示どおりTAのコンセントを抜いて差し込んだだけであっけなくつながったのだった。

びっくり。

ああいうとこのフリーダイヤルは永遠につながらないものだと
ずっとずっと思ってた。
認識不足である。
ってゆうか
認識の更新不足である。




あいかわらずの日常が
あいかわらずの顔をしていても
油断してはいけない

油断していると
しらっと変貌する

秋だ




すすきからすすきに似合うものもらう    なかはられいこ

[300] ネットカフェ Date:2008-09-01 (Mon)
ネットカフェからつないでいる。
先日のひどい雷にびびって電源をおとしたら、
そのままつながらなくなってしまったのだ。
復旧の見込みはたっていない。

今日はどうしても調べなければいけないことが発生したので、
しかたなく近所のネットカフェにきた。

2時間500円

調べものはものの10分で終わった。
残った時間を有効に使わなくちゃ。
しかし、メールはチェックできない。
というわけで、
夏の間ぜんぜん更新できなかった日記に挑戦してみる。

にんげんの住む土地かとおもうほど暑かったり
大雨が降ったり
雷が鳴ったり
たいへんへんてこな夏だったけど
なんとか生き延びた。

元気です。

誤解かもしれないけど。
どのみち世界は誤解で成り立っているのだから。

[299] 杉野土佐一賞のご案内 Date:2008-07-26 (Sat)
「おかじょうき川柳社」主催の杉野土佐一賞のご案内です。
いままで川柳を書いたことのないかたも、
川柳しか書いたことのないかたも、
ぜひ、どうぞ。


杉野土佐一賞作品募集

課題「 下 」(3句詠)

◆選者※一部交渉中
 石部 明(岡山県/バックストローク代表)
 なかはられいこ(岐阜県/「川柳展望」所属)
 樋口由紀子(兵庫県/「MANO」所属)
 広瀬ちえみ(宮城県/「杜人」所属)
 相田みちる(山形県/第12回杉野十佐一賞大賞受賞者)
 むさし(青森県/おかじょうき川柳社 代表代行)

◆募集締切
 サイトからの場合 2008年10月31日(土)午前0時まで
 郵送の場合    2008年10月31日(土)必着

◆投句料
 1,000円 (発表誌呈)

◆応募方法

 青森おかじょうき川柳社のサイトの作品応募フォームから
 必要事項を記入して送信。

 便箋または原稿用紙に
 「作品(3句まで)」
 「郵便番号」「住所」「氏名または雅号(ふりがな)」「電 話番号」を明記し、
 下記応募先まで郵送。
〒030-0861 青森市長島4-23-4-102 守田方
第13回杉野十佐一賞 係

◆投句料振込先
 郵便振替 No.02280-6-43112 
 口座名:おかじょうき川柳社

詳細は、
青森おかじょうき川柳社をごらんくださいね。

たくさんのかたのご参加をお待ちしています。

[298] 波打ち際 Date:2008-07-19 (Sat)
バサッと耳元で鳥のはばたく音がして目が覚める。
ほんとうに至近距離で、質感をともなった羽の音がしたのだった。
まだちゃんと明けていない時間。
昨夜も暑くて窓を全開にしていた。
ベランダにいたんだろうか。
どんな鳥だろう。
羽音の大きさからして小鳥ではない。
丸翼や細翼ではなく、長翼か広翼というかんじだった。
しかし、鷺や鷲がこんなとこにいるわけないんだけど。
夢かな。

夢といえば、先日、湿原を歩く夢をみた。
こちらもかなりリアルな感触を伴う夢で、
足元のジクっとした感触や、
丈の低い草や、紫の地味っぽい花を覚えている。

釧路のひとに電話をしたら、
「来たんじゃない?」と笑っていた。
丹頂は見なかった。
せっかく行ったのに。
ざんねん。




うしろから波打ち際がついてくる    なかはられいこ

[297] つまさきが戻る Date:2008-07-16 (Wed)
個人的にいろいろあってバタバタしていた。
生活もちょっとのあいだ落ち着かないかんじだが、
夏は確実に暑い。

ねじまき句会の日である。
ひさしぶりの名古屋の雑踏と地下鉄を体験する。
桜通線は地上に出るまでの階段がめったやたらと長い。
深いなぁ、ここ。

今月の題は「投」
ねじまきの題は漢字一文字と決まっていて、今年は手偏なのである。
作品のなかでなにげなく使っている字が題になったとたん、ふだんと違った表情をみせる。
毎月、「え、こいつ(字のことね)こんなに手ごわかったっけ?」的なきもちになる。

しばらく書いてないと、ぎごちない手つきの作品になってしまうのは否めない。
飛ばない紙飛行機だ。

というわけで、
しずしずと再開。




つまさきが戻る頃には眠れそう   なかはられいこ

[296] ぎんこう Date:2008-04-26(Sat)
ねじまき句会の日
今月は会場の都合もあって、白鳥庭園での吟行となる。

直前まで降っていた雨も集合時間にはあがって、
すこし風はあったものの、日差しが戻り、
まぶしいくらいの新緑のなかでゆったりとした時間をすごす。

大量の、しかも見るからに高価そうな鯉たちが、
人の気配を察すると、口をあけて寄ってくる池があり、
竹林があり、滝があり、新緑の木々があり、
名前を知らない花が咲き、
そして鳩はどこにでもいる。

出句まで一時間、出句数は5句。
池のほとりの座りごこちのよさそうな石に座って9句ほど作る。
結果は「ねじまき句会」のページに反映される。はず。



吟行でできた一句

鯉が来て鳩が来て広東語をしゃべる   なかはられいこ

[295] 音楽 Date:2008-04-15 (Tue)
あのひーとのすーがたなつかしい
たそがーれのかわらまちー♪


と、いうわけで京都にいく。
四条から一両仕立てのおもちゃみたいな京福電鉄に乗って嵐山に。
みやげもの屋さんが並ぶ通りを抜け、渡月橋をわたる。
桂川の中洲は菜の花でおおわれ、川面はきらきらひかり、すこやかに水は流れる。

「歩きながらどうぞ」と一枚ずつ売ってるおかきを買って
川べりに座ると、鳩が寄ってきた。
ははん、こいつめ、おかきを狙ってるな。と察したけど、
すべての人間が君たちにあまいわけではない、
ということを知らしめるため、目をあわせないようにしてたら、
どんどん数が増え、中の一羽が靴のうえに乗り、
「えー!」と思っているうちに、もう一羽が肩にとまり、
次の一羽はなんとあたまの上にまで乗ってきた。
気づいたら二十羽ちかくの鳩に取り囲まれていて、
さすがに怖くなったので、
残ったおかきを砕いてばらまき、その場から逃げた。
かくして人間としての威厳は鳩に消化されたのだった。




いま踏んでいるのは草か音楽か   なかはられいこ

[294] 痒いところ Date:2008-04-10 (Thu)
一年ぶりのたんじょうび。
ごはんをたべたり、映画をみにいったりしてすごす。
なんだかんだで5回目になったねえなどと言い合って、しんとする。
しんとする理由はおたがいにすこし違っていて、
すこしかさなっている。

ふいに、
灰色の空のむこうの鉄塔と、
その先でちかちかしている灯のようだと思う。
何がそうなのか、が、わからないままに。




「バグダッド・カフェ」のドイツ女のように笑いたい。
というのが今年の抱負です。




わたくしの痒いところに花が咲く   なかはられいこ

[293] どうしよう Date:2008-0-31 (Mon)
繁忙期ってこういうことだったのか
というような想定外のいそがしさを体験する
土曜日なんてもう平常の3倍くらいの入電数で
とってもとってもとってもとっても着信がとまらない


あちらも年度末で忙殺されてたひとから
夜桜を見にいこうと誘われ
真冬にもどったかのような寒風のなかを出かける
冷たい風にたっぷり花のついた枝が
こっちだよ、こっちだよと白い腕を振るように揺れていて
さむくて、きれいで、ものすごくこわかった
かろうじて、こちら側にふみとどまる
夜の桜には青空の下の桜にはあまり感じない凄みがある
それもこれも
人間の、もしくは
日本人のDNAの
かってな思い入れなのだとわかっていても

情緒的すぎますな
と、わたしのなかのわたしが嗤う




頭のなかの染井吉野をどうしよう   なかはられいこ

[292] 折れている Date:2008-03-27 (Thu)
ほんらいは火曜日なんだけど
今月は会場の都合で木曜日になった「ねじまき句会」の日

印象に残ったことば
 根菜は声を出さない byにむらてつこ


ビル街のまんなかで満開の枝垂れ桜をみる
タバコをケースごとどこかでなくす
今月二回目
タバコやめなさいってゆう神様のお告げだろうか?

分類がにがてなひとはブログはやめておくよう
おぎーにやさしく(ここ傍点)さとされる




先月のねじまき句会に出句した一句
題は「折」
けっこうかんたんそうにみえて手ごわい題であった
「北斗の拳」のあの有名なせりふを思い出してもらえなければアウトかな

折鶴よおまえはすでに折れている   なかはられいこ

[291] さくら Date:2008-03-25 (Tue)
しごとの帰り道、駐輪場にある二本の桜が
一気に五分咲きになっていてふいをつかれる

あらまあ


去年、冬がくるまえに切り詰めておいた
ベランダのミニバラは自在に新芽をのばし
はやばやと蕾をつけている

おやおや


植物は無口であるがゆえに
まったくあなどれない



なんにでも名前をつけたがるのは
深くかかわりたいからなのか
うん、そうかもね
パソコンに名前つけてるし
えと
じゃ、お鍋とも深くかかわりたいのか、わたしは。




さくらって先に言ったほうが負け   なかはられいこ

[290] にちように Date:2008-03-23 (Sun)
頭痛は遠くからゆるやかに
しかし確実にやってくる
かすかな予兆をかんじてから30分後
首があたまをささえられなくなる

車のシートを倒して横になる
信号で止まるたび、98%ほどの気遣いと
2%ほどの充足感(たぶん)に満ちた目と会う
ひとが弱ってると「申し訳ないがうれしい」
という表情をするのは、いったいどういうわけだ

そういえば、一日分の疲れと汚れをくっつけたまま
やっとたどりついたというかんじで来るひとを
じゃぶじゃぶ洗ってパリッと乾かしてあげたくなって
ちょっとうきうきするきもちを
なんと呼ぶべきか



きりん特殊会談
表とか、大通りとか、バチスタとか。




にちように所属している赤を着て   なかはられいこ

[289] 本日を Date:2008-03-22 (Sat)
繁忙期だけあってさすがに忙しい
朝からひたすらあやまり続けていちにちが過ぎる
たぶん、きょうはそういう日

あしたは人並みにお休みなんだけど
お天気はくずれそうなかんじ
さいきんは休みのたびに雨が降る
たぶん、いまはそういうめぐり合わせ

いまはもういない犬の写真をみていたら
もっていかれそうになって
買い置きしてあった板チョコのちからを借りてあやうく踏みとどまる
あまいもののちからはすごい


バックミラーにうつる風景のようだ
手を振りながら
しだいに小さくなってゆく
犬も息子たちも




本日をしずかに脱いでいるところ   なかはられいこ

[288] 春の夜の Date:2008-03-18 (Tue)
働きものの はてなアンテナ に連れられて
深夜、ネットのあちこちを徘徊する

まったく同じタイミングで同じ本を読んでいるらしき
きりんかたわれを発見

読了したのか……。
まけた。


メジャーの開幕戦を東京ドームでやるってはなしを
きょう初めて知る
は?
どゆこと?
松坂大輔が開幕投手らしいけど
日本向けのサービス?
ドル安のせい?
ナベツネのせい?

さすがに春だ
なやましい




春の夜の月より先にバスが出る   なかはられいこ

[287] ようするに Date:2008-03-16 (Sun)
ひとがどう思おうが、
わたしはけっこう小心者である
小心者だから基本的にはまじめである
で、この、まじめ ってのがたちが悪い

〜せねばならぬ
もしくは、
〜であらねばならぬ
という、
つきつめればいわれのない義務感が
あたまの隅につねにあって
ときどき、心臓のほうにおりてきて
胸をきゅんと痛くする


アロマキャンドルを3つともして
一時間ぐらいかけておふろにはいる
愛読しているogihara.com
生の一回性について
0ではない、一度は生きられるのだ
と書かれていて
おもわず泣きそうになる

これはなんて前向きな胸きゅん



ようするに雲があふれただけのこと   なかはられいこ

[286] ちょうちょ結び Date:2008-03-12 (Wed)
あっというまに3月も半ばである
繁忙期は今月いっぱい続きそうなようす
忙しいといきおいミスは多くなる
しかし、忙しかろうが忙しくなかろうが
ミスは同じ一個としてカウントされ
三ヶ月ごとの更新のとき、ただの数字となってあらわされる
派遣の現場とはじつにシビアなのである

ここ2、3日ぽかぽか陽気が続いていて
近所にある梅畑(うめばたけ?)の梅の木々は満開
そばを通るとすずしくてあまい匂いがする
ことしの桜は早いのかな



あっちのともだちと
男の子スイッチの話をし
こっちのともだちと
ブリキの太鼓と
ブレーメンの音楽隊のはなしをする
さぐられること、ためされることの不快感と
それを逆手にとって、いっそ楽しんでしまう方法について




好きだからちょうちょ結びにしてあげた   なかはられいこ

[285] Date:2008-03-08 (Sat)
発熱とか、繁忙期とか、いろいろあってしばらくネットにつながなかったら
メールボックスがすごいことになっていて
かなりうんざりしながら大掃除をした

きもち、というか、こころというか、
精神はとても健康なので、どちらさまもごしんぱいなく


ちょっと寒さがやわらいできて
それと同時に去年からえんえんと続いていた
道路工事も終わりに近づいたらしい
あちこちを剥がされ、掘られ、蓋をされたせいで
パッチワークのようになっていた歩道が
ベージュ色の、あれもアスファルトなんだろうか
舗装が完了し、ずいぶん歩きやすくなった

なにしろ、歩くとき、つなぎ目とかの線を踏みたくないので
パッチワークだとひじょうに困る
われながらバカバカしいとは思うけど
うっかりつなぎ目を踏んだりしたら
奈落みたいなところに落ちそうで気持ち悪いのだ

それとはすこし違う理由で
影を踏むのもいやだ
踏んだら実態のほうがそれを感じそうな気がする
ビルや電柱はまだいいが、植物や動物の影は困る

ことほどさように生きてゆくのはたいへんである




踏んだのは一分前に落ちた声   なかはられいこ

[284] あってはならぬこと Date:2008-02-27 (Wed)
きりん日中会議(ひなかかいぎ)
気圧とか、手紙とか。



夕方から夜にかけて
ニュース番組で、イージス艦の艦長の会見をみた。
実は、彼、船渡健は高校時代のクラスメートなのである。

事故の第一報をきいたとき、
イージス艦って、まさか「あたご」じゃないよね。
と思ったら、そのまさかであったのだった。


船渡くんは口数が少なく、かといって地味なタイプでもなく、
基本的にまじめで、みんなの先頭に立つわけでもなかったけど、
ちょっと若年寄みたいな信頼できそうな男の子だった。

うちの高校には各教室に中庭に向くベランダがあって、
当時からおぎょうぎの悪かったわたしは、
手すりにつかまって足をぶらぶらさせててベランダから上履きを落とした。
そこを通りかかったのが船渡くんで、
彼は中庭の池に落ちた上履きを水から拾いあげ、水をきって、
二階のベランダにいるわたしに投げ返してくれたのだった。
なんどか失敗して、ついに成功したときふたりで笑ったことを覚えている。


わたしたちはできごとの
ほんの表皮のほんのかすかな一部分しか知らない。
それは、あの9.11のときに学んだことだったはずなのに、
喉元をすぎてわすれかけていた。

とりあえず
きょうの船渡くんはえらかった
と、元クラスメートとして言ってあげたい。
そして、あの組織を離れたあとの彼を
みてみたいと思う。




浴槽であってはならぬことにあう   なかはられいこ

[283] 季節 Date:2008-02-25 (Mon)
感情になまえをつける
それはとてもいいものなんだけど
だれかに説明するのはとてもむつかしく

母の薬指にある
もう、抜けなくなった指輪の下に
ひそかに残っているはずのもの

とけのこった雪のうえに残る
ちいさなやじるしみたいな
すずめの足跡が指す方向

そんなような

気づいたものだけがもらえる
いいもの




終日ひとつのことにとらわれて
気持ちがもやもやしていたので
ともだちA(東京在住)に電話をし
「ねえ、別の話して」と言ってみた
いきなり別って。もとの話も知らないのにぃ。
と大笑いされる

だが、しかし、さすがはともだちである
それ以上何もきかず
ほんとうに「別の話」をはじめてくれた

相方が教えてくれた
石井ゆかりさんによれば
彼女は 境界線を越えるひと らしく
矢印だけでできているわたしは
ときどき方向を示唆される




二個さきの季節のようなおともだち   なかはられいこ

[282] 靴下 Date:2008-02-22 (Fri)
耳と目と口と両手の指と
あたまを使ってしごとをしている
もらしてはならないものを
ぽろぽろとこぼしてしまう隙間と真向かいながら

ミスに気づくとき
カコーンと
ししおどしの音がきこえる




こどものころはなんの疑問ももたず
かってにそういうものだと思っていたことがけっこうあって
ふいに祖父母という一対の夫婦のことを思い出した

祖父と祖母の部屋はなんであんなに離れていたんだろう
祖父の部屋は居間の奥の和室の東隣
祖母の部屋は廊下をはさんで居間の西側にあった
というか
祖父が祖母の部屋にいるところも
祖母が祖父の部屋にいるところも見た記憶がない
というか
なぜ、それぞれに部屋が必要だったのだろう
そういえば、ふたり揃って出かけるところも見た記憶がない
かといって、仲が悪そうな雰囲気でもなかった
あのくらい長いあいだ夫婦をやってると
わたしのまずしい経験値からは
はかりしれないものがあるのだろう
きっと。




お願いがあるのと靴下がゆれる   なかはられいこ

[281] Date:2008-02-20 (Wed)
ばたばたのお休み二日目

主婦ランチにあこがれていて
それがやっとかなうはずだったゆきちゃんと会う
結婚あいてをたすけるため花屋から内装業にまで手を広げ
5分も座ってられない毎日だという

30年ひとりでがんばってきて
やっと楽できると思ったのになあ
穏やかでやさしいだけの男はだめだと苦笑する

いや、だけど、あなた、
世話女房でしょう、むかしから
だれも気がつかなかったけど
と言うと、まんざらでもなさそうに笑った

しあわせのかたちの
なんてさまざまであることよ


近日おこった事件のせいで
同級生のあいだで情報がかけめぐり
夜は夜でO氏と食事
サーブするのは男のしごと
女の子は待ってりゃいいの
と言われる
お、おんなのこ……
俺からみりゃ、5歳も、50歳も、70歳も
女性はすべて女の子
だそうな
ゆっくり食事をして
コーヒーを飲んで
帰宅



礼儀というものについて
しばらくかんがえる

そろそろ死語かも




見覚えがあるかと鳩が寄ってくる   なかはられいこ

[280] 引き出す Date:2008-02-18 (Mon)
風邪をひいていて
それでも「這ってでもいく」と言うひとに
「這うならくるな」と返したら
ちゃんと立ってあるいてきた

ちぇっ。

個人情報とお祭りとトドと
黒い置物と指のはなしをする


はなしの内容などどうでもよくて
声と声がゆきかうときの空気のやわらかさや
ときおりはさまれるごく自然な間が
ここちよくて眠くなる



きりん・べりぃしょーと会談
大安とか、召集令状とか。




銀行のATMから引き出す野原   なかはられいこ

[279] 記憶する Date:2008-02-16 (Sat)
深夜、ベランダに出てみる
月は中天で白くかがやき
星たちがあちこちでまばたきをしている
ほんとうにうつくしいものって
いつもすぐそこにあるんじゃないだろうか

きんきんに冷えた夜気のなかにいたら
からだから氷のにおいがするような気がした

とおくやちかくに住むひとたちの顔を思い浮かべる
ひとりひとりに周期や軌道があって
わたしにも周期や軌道があって
ときに接近したり離れたりしてぐるぐるまわる様子を思う
みんなどちらかといえば元気そうで
基本的にはよろしくやっているようでうれしくなる


去年の手帳のきょうのページに

まんべんなく棒

とじぶんで書いたに違いない一行があった
なんだ、棒って?




記憶するちよこれいとのれの音を   なかはられいこ

(まだチョコレートがあきらめきれないらしい(笑)

[278] ちよこれいと Date:2008-02-14 (Thu)
朝、洗濯物を干しているとチャイムが鳴った。
「ちょっとこのあたりを調査にまわってるんですが」とドア越しに男性の声。
あやしい。
なんの調査かとたずねると、
「住民の調査」と投げ捨てるように言う。
ますます、あやしい。
どちらから?とたずねると、
「そこの交番から」と言う答え。
そこで鍵をはずしドアを開け、チェーン越しに相手を確認すると、
制服の警官が立っていた。

こころのなかで、
最初から「交番から調査に来ました」といえばいいのに、と思う。
氏名、生年月日、勤務先などを質問され、
胸のあたりの「岐阜県警」という文字を見ながら答える。
ひとりで住んでるのかと訊かれ、
電話番号を訊かれ、
固定電話はひいていないと答えると、
携帯番号を訊かれる。
えー。
なぜ、そこまで言わなくちゃいけないんですか?
と、逆に質問すると、
いや、なにかあったときのために。
ともじょもじょと言う。
教えるのが嫌だと言われるのならいい。
と。
イヤに決まってるじゃないか。
と、ふたたびこころのなかで思う。
しかも調査と言いながら、調査票のようなものではなく、
そのへんのコンビニで売ってるような
コクヨの青い手帳サイズのノートに書きつけているのだ。

うーん。
この制服、ほんものだろうか。
と、みたびこころのなかで思う。
「このあたりで不審者はみかけませんか?」
いや、あなたくらいしか見たことはないです。
と、思わず口にしそうになる。

結局、「では」と、そのままお引き取りになったが、
実は、「では」と体を反転させたとたんに、隣の部屋の住人の傘に足をひっかけ、
あやうく階段を転げ落ちそうになったのだった。
正確に言えば2段ほど踏み外して踊り場にしばらくうずくまっていた。
だいじょうぶですか?
と声をかけたが、何も答えず、そのまま顔をしかめて立ち去った。

あのひとはほんとうに警官だったのだろうか?




近くに引っ越してきた両親に
勤務シフトを把握されていて
呼ばれる

娘にもプライバシーというものがあることに
さいきん、やっと気づいたような人々であるから
彼らなりにけっこう気を使っていることがこちらにもわかり
むげに断ったりはできなくて
出かける

大量のブロッコリーと、
大根と白菜と里芋と葱をむりやり持たされ
帰宅する
なにとぞ機嫌よくくらしてくださいますよう




きさらぎのちよこれいとと三度言う   なかはられいこ

(着地できてないかんじがどうしてもぬぐえず、改作しました)

[277] 月らしく Date:2008-02-13 (Wed)
きのうはぽかぽか陽気だったのに、
きょうは一変して底冷えの岐阜である。
出勤途中の道はところどころカチンカチンに凍っている。
空気は冷たく、耳と顔と指先が痛い。


まいにち同じ道をとおるときのあそびかた
目にはいるものをかたはしから
「これは変わりますか?」と自問する。

電柱やコンビニや金柑の木やポストや踏み切り、そして猫……
これは変わりますか?
変わります
これは変わりますか?
変わります
これは変わりますか?
変わります
あ、やっぱ、変わりません

もちろん、声には出しません。






こーんなに寒いのに
ベランダに置いてあるゼラニウムの一枝が花をつけていて、
もう去年の終わりくらいから、ずっと咲いている。

赤い花がぽっちり夜にともる
月が毎年3、8センチずつ地球から遠ざかりつつあることを
おまえは知っているか




月らしくなってそのうち帰るから   なかはられいこ

[276] 集合写真 Date:2008-02-10 (Sun)
30何年かぶりに中学の同窓会があるというので
仕事を早めにきりあげて生まれた町へむかう。
街灯というものがほとんどない
真っ暗な夜道(まわりはほとんど田んぼなので)を運転するのははじめての経験。
「そこ」を右に曲がれ、と教えてもらった「目印」の店はすでに看板の灯を落とし、
夜には役にたたず、あやうく遭難しかけ、
やっと着いたときには宴は佳境であった。

30数年ぶりにはじめて参加しただけあって、
あちこちから「ちゃん」付けで呼ばれても、
相手の名前といまの顔とむかしの顔が一致せず、
数分いまの顔を見つめ続けているうちに、やっと、
うーんと遠くのほうからむかしの顔がゆっくり近づいてくる。

あとは一気呵成であった。
あー、覚えてる、覚えてる。
なりちゃんに、ゆみちゃんに、なおこちゃん、
あ、てつろ、ふくちくん、ゆきのり!

さんざめく、とおくやちかくのひとびとのかたまりを、
ぼんやり見ながら、
家庭科室、音楽室、理科室と続く
長い渡り廊下のつきあたりから
いつも見えた夕陽を思い出していた。

理科室の裏に焼却炉があったこと。
焼却炉のむこうは薄暗い小さな神社だったこと。
神社の裏手にあった池には、ウシガエルが生息してたこと。
カエルの解剖のさいちゅうに、とつぜん、ウシガエルの鳴き声がきこえて、
驚いたゆきのりだったかだれだかが、メスを取り落とし、
「カエルのたたり!」とだれかが叫び、
教室中がパニックになったこと。

わたしたちはじぶんたちに、
30年後や、40年後がくることなど思いもせず、
なにも知らず、ささやかなことに動転したり、驚愕したりしていた。

いま、あの木造校舎はあとかたもない。




鳥がくる集合写真の背景に   なかはられいこ

[275] 桃のこと Date:2008-02-08 (Fri)
ただいまマウスの左手使いトレーニングちゅう。
やってみると空いた右手で、
メモはとれるし、テンキーは打てるし、
とても便利。
ときどき右手が無意識にマウスを探してしまったり、
右クリックと左クリックをまちがえたりはするけど。

ルビコン川をわたるぞ
と、前45度上方の壁にむかってつぶやく
ふふふ、なんておおげさな
と、ポスターの乳牛が笑う


右手は左手のゆめをみて
左手は右手のゆめをみる
ふたつはあんがい遠いのかもしれない。




桃のこと話す右手も左手も   なかはられいこ