[343] 12.2:日本人宇宙飛行記念日 媚庵選 2005年12月02日 (金)【天】
塩気の足らぬ日本人宇宙飛行記念日 櫂未知子
【地】
日本人宇宙飛行記念日柴又の庚申まいり 青榧
【人】
鎖国ありバイリンガルあり日本人宇宙飛行記念日 まなぶ
【佳作】
海の夜を船は進めり日本人宇宙飛行記念日 春畑 茜
日本人宇宙飛行記念日黒い瞳に映る青 坂石佳音
チョキで勝つ日本人宇宙飛行記念日 月野ぽぽな
日本人宇宙飛行記念日貯金する 百花
日本人宇宙飛行記念日体重計にそつと乗る きみえ
山坂を越えて来ました日本人宇宙飛行記念日 ひらくに
日本人宇宙飛行記念日へ二つの耳の穴 みずき
【選評】
1990年(平成2年)の今日、TBSの秋山豊寛記者が、ソ連(当時)のソユーズ宇宙船に乗り、日本人初の宇宙飛行に成功したことを記念する日。
というような記念日だけれども、あんまり覚えていないという人が多いのではないか。
私など秋山豊寛さんといっても、顔も思い出せない。
ということで、【天】の櫂未知子さんは、つまり「塩気の足らぬ」とずばり
見抜いてくれた快感。塩気の足りないニュースだったということ。
【地】の青榧さんは、宇宙旅行と正反対のベクトルのものを持ってきた手柄。
「柴又の庚申まいり」というわけのわからなさも効果的。
【人】のまなぶさんは、鎖国とバイリンガルと宇宙旅行の三位一体のバラバラさの
面白味。
佳作はきれいにおさめてみせた春畑茜さん。坂石佳音さんも色の対比のあざやかさ。
ナンセンスな取り合わせの月野ぽぽなさん、百花さん、きみえさん、ひらくにさん。
中では百花さんの「貯金」がいちばんばかばかしい味を出していますか。
みずきさんは意外と詩的な連想。耳の穴が宇宙に通じている。
【選者吟】
日本人宇宙飛行記念日火星人ゴーホーム! 媚庵
[342] 12.1:映画の日 媚庵選 2005年12月01日 (木)【天】
暗幕の光零れて映画の日 まなぶ
【地】
マキノ家の嘘と笑ひと映画の日 園を
【人】
映画の日ほくろが巴里を歌ひだす 丹羽まゆみ
【佳作】
近距離の森雅之や映画の日 谷口純子
映画の日陶器のやうな京マチ子 中村安伸
映画の日十九八七六五四・・・ 大西龍一
ダンサーの背中のホック映画の日 島田牙城
全員の瞬間移動映画の日 紅椿
京都タワーの影長く伸び映画の日 淡々
流れ橋より入日見てゐる映画の日 流鬢力
【選評】
1896年(明治29年)の今日、日本で初めて映画が一般公開されたことから、1956年(昭和31年)に映画産業団体連合会が制定したもの。入場料の割引などが行われる。
ということで、
【天】のまなぶさんの句は懐かしく美しい。
暗幕からこぼれる光が夢の映画の国への道だった時代が確かにありました。
【地】の園をさん、みごとにマキノ家の秘密に肉迫してみせた。
マキノ雅広の『映画渡世・天の巻・地の巻』読みましたよ。
むかしの映画は家内手工業だったわけです。
そして、なぜかカタカナのマキノ家の家業が映画だったわけです。
そのいかがわしさも「嘘と笑ひと」で巧みに突いて俳諧にしてみせた手柄です。
【人】の丹羽まゆみさんの句、ほくろも巴里も古き良き映画の楽しいアイテムで
MGMミュージカルのおもむきです。
佳作の純子さんの森雅之も安伸さんの京マチ子も映画スタアであるわけです。
龍一さんの本番へのカウントダウンもワクワク。
牙城さんはミュージカルのにぎやかな舞台裏。
紅椿さんは映画ならではのマジックの面白さ。
淡々さんと流鬢力さんは、華やかなライトを浴びた光景の裏の哀愁。
【選者吟】
チョンマゲの似合う仕合せ映画の日 媚庵
[341] 11.30:シルバーラブの日 百花選 2005年11月30日 (水)【天】
シルバーラブの日こんなところに花屋 坂石佳音
【地】
こまやかな隠し庖丁シルバーラブの日 櫂未知子
【人】
シルバーラブの日消しても消しても眼あり 月野ぽぽな
【佳作】
球根をじっくり選ぶシルバーラブの日 緋色
シルバーラブの日を浮いてゐるゆで卵 島田牙城
シルバーラブの日ともに霞を食つてくれ 寒蝉
シルバーラブの日のノンポリとニヒリスト みずき
丸首出して亀泳ぐシルバーラブの日 正美
夢淡き東京シルバーラブの日よ 媚庵
百歳は駱駝に乗らむシルバーラブの日 園を
【選評】
「歌人の川田順が弟子の大学教授夫人とともに家出したことに由来する。68歳の歌人の熱烈な恋愛行動に、人々は老いらくの恋ともてはやしたという。」
おお、しかしその生活はつつましく、羨ましいものでありましたゾ。ということで、大いに憧れましょう♪
【天】思い凝るとき、花屋の存在に気付きましたか。拈華微笑の不可思議。
【地】これは、長年連れ添った方とも取れます。「こまやか」が美しい。
【人】こちらは成就しないラヴかしらん。でも、そんな眼のあることは幸せです。前の人の眼!?だったら忘れましょう。
【佳作】
緋色さん・・はい、「こんどこそ!」じっくり選びましょう。
牙城さん・・浮いてるの? う〜ん。。。。。。。。。
寒蝉さん・・若い時は<夢を食って>、歳をとったら<霞を食って>生きる・・最高ですね。
みずきさん・・意外と良い組み合わせかもね。
正美さん・・なんだか独りで見入っているようで、侘しい。
媚庵さん・・東京は、若い人に、老人に、違う色の夢を見せてくれるところでしょうか。
園をさん・・「月の砂漠」ですね。健康で共白髪、是非そうありたいものです。
【選者吟】
シルバーラブの日薬師如来に脇侍あり 百花
[340] 11.29:議会開設記念日 百花選 2005年11月29日 (火)【天】
議会開設記念日手を洗う 谷口純子
【地】
議会開設記念日当世楽市楽座 流鬢力
【人】
議会開設記念日木靴脱げ易し 島田牙城
【佳作】
議会開設記念日羊が絨毯に 中村安伸
議会開設記念日長すぎる鯨幕 淡々
議会開設記念日耳がひらきをり 春畑 茜
飯焦げて議会開設記念日よ 二健
議会開設記念日の階段におく疑問 みずき
議会開設記念日オムライスにも旗を立て 丹羽まゆみ
決まり手は押出し議会開設記念日 紅椿
【選評】
「初の帝国議会が開かれたことに由来する。当時の山県有朋内閣は軍備の充実を議会に呼びかけたが、野党側は減税を主張したという」
このフレーズは、なにやら今日この頃のことのようにも思え、気がかりです。
楽しい句は選べませんでした。というか、あったかしらん。
【天】イエスの血についてピラトが群集の前で手を洗い、その無関係を示したことを思い出します。はて、手を洗っているのは誰で、何についてか?って?? 外から帰ったら手を洗い、うがいをしましょうネ。まず、自分で自分を守る事を。
【地】当世信長がいて当世楽市楽座ですか。恐い社会時評です。
【人】これも社会時評でしょうか。伝統にない物を纏い、身体に合わないことをしているどこかの国のような。
【佳作】
安伸さん・・つい、羊を数えて眠ってしまうのね。議員は体力、って誰かが言ってましたね。
淡々さん・・形式ばかりが勝っている、これが議会開設記念日とは辛いです。
茜さん・・耳は開いても口は開かない多くの人々の思いは、何時、何処で、顕現するのかしらん。
二健さん・・おこげなら良いけれど、痛みって、痛む方はたまらないのですが。
みずきさん・・部屋の中に入る権利の無い者には、疑問の置き所に困ります。議会でのやり取りは、まさに怪談です。
まゆみさん・・スポーツとオムライスには堂々と「日の丸」を。議会はまだまだ借り物の日本。“も”は要らないか。
紅椿さん・・強引な決め方ばかりが目立つ議会の記念日でした。
【選者吟】
議会開設記念日愛染明王鈴鳴らす 百花
[339] 11.28:太平洋記念日 百花選 2005年11月28日 (月)【天】
太平洋記念日絵のなかの光 島田牙城
【地】
太平洋記念日紅一点は未来より 大西龍一
【人】
人間をはみだす太平洋記念日 月野ぽぽな
【佳作】
太平洋記念日戦争はいりません ますみ
焼きたい魚がそばをゆく太平洋記念日 櫂未知子
太平洋記念日夕日に赤い帆よ 媚庵
銀杏の瘤太し太平洋記念日 正美
太平洋記念日遥かなモアイと見つめ合ふ 雪うさぎ
太平洋記念日船長の鵞毛ペン 寒蝉
【選評】
「世界一周の大航海の途中、ポルトガルの探検家マゼランによって太平洋が発見され、彼自身がその命名を行ったことを記念して設けられた日」
であるからには、全くもって力の論理です。
歴史を振りかえると、愕然とすることが多々ありますね。
【天】絵、写真の中の光にも憧れる心情はどこから来るのでしょうか。
太陽の光に限らず、星の光も蝋燭の光も、人のこころを引き付けます。
そのような光ではなく、希望の光というのもありますから、
人の行動と光とは、切っても切れない関係にあるのでしょうね。
マゼランを動かした光もまた。
【地】紅一点とは太陽でしょうか。
新しい一日は、常に未来です。
現在の太陽暦であるグレゴリオ暦では、
一日は太平洋から始まります。
【人】はみ出して何になるやら?
人が世界を支配することの恐さを感じます。
本当は自然のほうが恐いのですが。
人間の切りの無い欲望が見えてきます。
【佳作】
ますみさん・・戦争は、どんどん規模が大きくなりました。いりません、ね、戦争は。
太平洋という文字に反応してしまいました。
未知子さん・・ヨットで太平洋を横断しているかのような日常なのでしょうか。
媚庵さん・・美しい風景です。やはり、日本海ではなく、太平洋。
正美さん・・瘤太き銀杏の樹齢に比べれば、まだまだ最近の出来事の記念日です。
雪うさぎさん・・イースター島という名前こそが、この記念日の含んだ問題点を炙り出します。
寒蝉さん・・いかにもな時代がかった取り合わせですが、額縁の中ならこれからも幾久しく、OKです。
【選者吟】
太平洋記念日阿弥陀如来の来迎印 百花
[338] 11.27:ノーベル賞制定記念日 百花選 2005年11月27日 (日)【天】
冬空をペンギンは立つノーベル賞制定記念日 丹羽まゆみ
【地】
ノーベル賞制定記念日朽ち落ち葉 二健
【人】
ノーベル賞制定記念日圧勝す 春畑 茜
【佳作】
ノーベル賞制定記念日発見は爆発だ! 寒蝉
ノーベル賞制定記念日絵蝋燭 媚庵
ノーベル賞制定記念日の磐船 中村安伸
ノーベル賞制定記念日石になる 島田牙城
美しい日本のたはしノーベル賞制定記念日 青榧
ノーベル賞制定記念日に呑む新酒 正美
汁の実の多すぎノーベル賞制定記念日 櫂未知子
【選評】
スウェーデンの化学者ノーベルが、1895年の今日、
「私が発明したダイナマイトで得た富を、人類に貢献した人に与えたい」
という遺言状を書いた日。
人は墓に何も持って行けませんが、
この世に大切なものを残すことは出来る、と、先人の行いです。
【天】
語順のせいか、ノーベル賞制定記念日が薄いけれど、
それがいい。賞よりも、自然の命のすばらしさを感じます。
【地】
濡れ落葉ならぬ、朽ち落ち葉。朽ちて次の命を育む多くの存在こそが世界を維持しています。
【人】
なんでもいい、人には達成感が必要です。
【佳作】
寒蝉さん・・なつかしき岡本太郎。
俳句にもバクハツの欲しい今日この頃。
媚庵さん・・ノーベル賞と、文化の中の良きものとは、
なんとなく違う世界のように思えます。
安伸さん・・天の磐船とは宇宙船のような気もしますネ。
神話の世界しか知らなくても生きていける??
牙城さん・・貝になりたかった人もいるけれど、石ですか。石碑が建つのは面映いことかも。
青榧さん・・気持ちの良い取り合わせです。
正美さん・・現在は濁酒以外に年内に醸造される清酒は無いので、
この新酒は、ボジョレヌーボーかしら。
ちょっと遅れをとったけれど。
未知子さん・・ノーベル賞とひとくちに言うけれど、
あれから随分たくさんの方が受賞なさったのですね。
もう誰がなにやらわかりません。
【選者吟】
ノーベル賞制定記念日金色の救世観音 百花
[337] 11.26:ペンの日 百花選 2005年11月26日 (土)【天】
ペンの日も地球は青く浮かんでる しのざき香澄
【地】
烏賊は怒っているペンの日のペン胼胝 淡々
【人】
九条には世界遺産の東寺 ペンの日 望月暢孝
【佳作】
ペンの日や書いて食へないものばかり 櫂未知子
ペンの日の文芸評論家の笑顔 ますみ
ペンの日や隣家のカレー汁匂ふ 春畑 茜
ペンの日に躍る校正記号かな きみえ
ペンの日よ白紙の水面さざなみす 月野ぽぽな
ペンの日や悪がきは尻叩くべし 春おぼろ
ペンの日の猫にパソコン打たれけり 寒蝉
【選評】
「日本ペンクラブが創立されたことを記念して、1965年(昭和40年)に設けられた日。
ペンクラブのPENは、Pが詩人・劇作家、Eが随筆家・編集者、Nが小説家を意味している。
初代会長は島崎藤村。」
ということで、この日自身についてはあまり逼迫間はないのですが、
真剣に考えることも大事だなあと思う筆者の撰と評であります。
【天】ペンに託す思いは言葉があってこそです。
しかしながら地球の歴史はもっと古く、
その浮かんでいるように見えることを確かめたのもつい最近のことです。
人知の及ばない世界のなんと多いことかを、
夜空を見て思うのも、宇宙からの映像を見て思うのも、
人の特権でしょうか。
【地】烏賊と章魚ならぬペン胼胝。烏賊は庶民か有識者か??
世の中、あと二本の足こそが正義を、平和を、運んでくるのかも知れない、
などとにわかに信じてしまいそうな感覚の一句。
【人】この九条は所在地ですが、憲法九条も世界遺産に登録したいような「ペンの日」。
佳作
未知子さん・・もの書いてその収入で生きていくのは大方無理な相談ですが、書きたいという人はいるもの。「食えない」の意味も多様です。
ますみさん・・こちらは書いて喰えてる人の笑顔でしょうか。
茜さん・・匂うのはちゃんと作っているからです。
自分で考えるということにも通じるかしらん。
きみえさん・・校正の神様と言われる博覧強記な方もおられましたね。
ぽぽなさん・・書く前の緊張感があります。
おぼろさん・・口で言ってわかんなきゃ、おしりペンよ!・・ペンは剣よりも強し??
寒蝉さん・・日常の楽しい一場面。書いた物の内容が大事なのはもちろんですが。
【選者吟】
ペンの日や水瓶下げて観世音 百花
[336] 11.25:OLの日 上田信治選 2005年11月25日 (金)【天】
OLの日やなりゆきで人と棲む 中村安伸
【地】
OLの日で花の金曜日で ミキ
【人】
OLの日のコスプレの男たち 寒蝉
【佳作】
温石(おんじゃく)をOLの日のあしもとへ ほにゃらか
OLの日や占ひのよく当たり きみえ
鞄にはアーミーナイフOLの日 大西龍一
OLの日の橋わたる終列車 みずき
OLの日晴れ時々天気雨 丹羽まゆみ
昼食はお茶漬けさらさらOLの日 ますみ
OLの日や大君をコピーせよ 島田牙城
OLの日パン屋がパンを並べをり 百花
【選評】
毎回、全部選んで選評を書き終わるまでは、作者名ブラインドで、やっています。
で、今日、怖いなと思ってるのは、男性作者ばっかり(あるいはその逆を)
採ってしまっているのではないか、ということです。
なにが怖いかって、何かが、ばれちゃいそうで怖い。。。。
何がばれるのかは、分かりませんが。
【天】「OLの日やなりゆきで人と棲む」
「OLの日かあ…(OLについてのさまざまな思いや、思い未満のものが去来する)
……なりゆきで人と棲むことってあるよね」
それは、OLという立場のよるべなさかもしれないし、性的な含意もあるでしょうし、
会社ってそういうものよね、ということなのかもしれません。
この句については、自分はこう読んだ、と言い切れません。
言い切れないけど、たいへん良い句だと思います。
【地】「OLの日で花の金曜日で」
花金のOL、いじらしいではないですか。。。。。
でも「OL」って、もう死語なんですよね。「花金」も同様。
二つをくっつけて言うことで、会社というものの、ある種、村っぽい呑気な空気が、
ホーフツとします。
そして、そういうのは、今はもうないのかもなあ(だって死語……)ということが、
「甘痛い」感覚で、胸にきます。
【人】「OLの日のコスプレの男たち」
これも、複数の読みが可能な句です。でも、この句の読みは、言い切るべしですね。
選者は「男は、みな男のコスプレをしている存在なのだ。
それが、OLの日にはよく見える」と、読みました。
OLは、もちろん、会社や男社会で、服装的にも振る舞い的にも、
コスプレを強いられる存在です。
しかし男たちも、じつは同様にコスプレをしている上、
「あれ、好きで、やってなくない?」と、OLに見破られているわけです。
【佳作】
「温石(おんじゃく)を」優しい。すぐ男性作者の句と分かりますね。(あれ、はずれたかな?)
「占ひの」かすかにOLをばかにしてるっぽい……ところが面白い。
「鞄には」OLを理解不能な他者と思ってるっぽい。
「終列車」東京なら、川は多摩川か、荒川か。
「天気雨」OLだけが、天気雨に気づくんですね。
「昼食は」かつてはOL、今は自宅にいます。
「大君をコピー」変な上司。困りますね、こういう人。
「パン屋」メロンパン色の制服とか、昔は普通でしたよね。(今でも?)
今日で、私のゲスト選は終了です。
御無礼、平に御容赦。
みなさん、ありがとうございました。
いやあ、俳句を読むのは、楽しいですねえ。
【選者吟】
OLの日を告げ渡るホッチキス 信治
[335] 11.24:鰹節の日 上田信治選 2005年11月24日 (木)【天】
鰹節の日男は黙って汁を吸う 望月暢孝
【地】
公園の野良猫整列鰹節の日 淡々
【人】
やれ踊れ鰹節の日のフラダンス ほにゃらか
【佳作】
重宝な人と言はれて鰹節の日 紅椿
鰹節の日運慶よりは快慶 中村安伸
鰹節の日の三三七拍子 きみえ
手動珈琲ミルの香気立つ鰹節の日 流鬢力
わたくしは鰹節の日の湯気である 島田牙城
鰹節の日に思い出す鰹削り 正美
鰹節の日へ干すせんべい裏表 みずき
【選評】
意外と、つくりにくい記念日ではないでしょうか。
基本的に「良きもの」で、ひねりポイントが見つけにくいし、
生活からは、実は、かなり遠くなってしまっているし、
あまりノスタルジックに詠むことははばかられるし。
(なんか食生活が貧しいみたいで)
しかし、巧みにそのへんをクリアして、変な句を作ってくる、
投句者のみなさんに感嘆の意を、禁じ得ません。
【天】「鰹節の日男は黙って汁を吸う」
中七下五のあほらしさが、たまりません。
いくら黙っていても、鰹でとったダシですから、
頭の中で「美味しい〜ン・」となっているのは、丸わかりです。
【地】「公園の野良猫整列鰹節の日」
「日」に着目した句。
だれかが、野良猫たちに、その日は「鰹節の日」であると告げたのでしょう。
あーあ、並んじゃって……。
【人】「やれ踊れ鰹節の日のフラダンス」
「フラダンス」まで言うところがえらい。
フラダンス教室には、生魚よりは鰹節のほうにより近いかたが、まま、
いらっしゃいますし。(おっと。選者、終りが近くなって気が緩んでいます)
ゆうらゆうらと、楽しげに踊る女性たちが見えますね。
【佳作】
「重宝な人」鰹節のように重宝というのか、鰹節をかかせるのに適当、という意味か。
「運慶よりは快慶」仁王像に鰹節を持たせたら、と思うと楽しい。かく気満々です。
「三三七拍子」チャッチャッチャ、と削るの意か。
「手動珈琲ミル」に、匂いが混乱。変な句だー。
「湯気である」瞬時に霧消していく存在が、おもむろに名乗りを挙げる滑稽。
「鰹削り」どうせなら鰹節を、思い出せばいいのに。
「せんべい裏表」しけったせんべいを、復活させる気のようです。
【選者吟】
鰹節の日は風吹いてハイおしまひ 信治
[334] 11.23:外食の日 上田信治選 2005年11月23日 (水)【天】
電線に雀が留まる外食の日 谷口純子
【地】
外食の日なれ入れ歯は水の中 媚庵
【人】
外食の日を旗ひとつかがやけり 春畑 茜
【佳作】
外食の日の初つ端を鳴るピアノ みずき
外食の日や赤い眼で謝るも 島田牙城
外食の日も皿洗ふ葱洗ふ 櫂未知子
ここには何足ありますかさては外食の日 緋色
お茶の間に蜜柑がぽつん外食の日 園を
外食の日の大統領専用車 寒蝉
外食の日や地下街を五周して きみえ
【選評】
外食という言葉から浮かぶのは、やっぱり家族の風景なんですね。
子供のころ過ごした町の、中華屋さんの名前とかミョーに憶えてます。
日曜日に親に連れられて餃子とか食べに行くのは、とても特別なことだったので。
(世田谷の桜上水の「姉妹」っていう店なんですけど)
今日は、名句が揃いましたよ。
【天】「電線に雀が留まる外食の日」
おそらく天気のいい休日の昼に、親子つれだって、近所に食べに行くわけです。
電線の雀みたいに、横一列に並んで、手なんかつないでたりして。
そういういかにも幸福っぽい、面映ゆくすら感じられる情景を、
ちょっと引いた目(雀の目)で見てみると、あらふしぎ。
それは、純正の幸福以外の何者でもないのであります。(あ泪が)
【地】「外食の日なれ入れ歯は水の中」
今日は、外食の日であるらしいよ、と入れ歯を見る老人。
コップの中の歯が、主人公の性格か境遇かを象徴しているようであり。
他者と主人公の微妙な距離を、語って余りある十七文字です。
【人】「外食の日を旗ひとつかがやけり」
なんの旗だろう、と考えてしまったんですが、
ああ、この日11月23日は勤労感謝の日ではないですか。昔で言う新嘗祭。
自然の恵みと、労働に感謝しつつ、外食。じつに正しいですね。
【佳作】
「鳴るピアノ」天の句と同様の、外食の日に対する祝福。
「赤い眼」逆にこれは、外食的価値に対する裏切。そして悔恨。
「葱洗ふ」ハレは、ケと交替するのではなく、同時進行なんである、と。
「ここには何足」問いの意味すらわからないという、おそろしい謎を提示する作者。
「お茶の間に」家族みんなで外食中の景でしょうけど、誰の視点かと思うと、、、、
「大統領専用車」また、謎。外食=外国要人との会食?
「地下街」コントっぽいです。
「先生のデート目撃外食の日 月野ぽぽな」
「七五三ようこそお義母様外食の日 あまっとう♪」は、同着です。
【選者吟】
外食の日の玄関で待つ三人 信治
[333] 11.22:回転寿司記念日 上田信治選 2005年11月22日 (火)【天】
さやうなら中トロ回転寿司記念日 櫂未知子
【地】
回転寿司記念日耳鼻科へとまはさるる 紅椿
【人】
回転寿司記念日しおからとんぼ捕獲せり やや
【佳作】
回転寿司記念日言いなり逆海老固め 二健
金皿にミニカー回転寿司記念日 中村安伸
好きな人は見送つてしまふ回転寿司記念日 雪うさぎ
回転寿司記念日曲がり角の喧騒 坂石佳音
木星はトロだ回転寿司記念日 月野ぽぽな
入口は引戸になります回転寿司記念日 青榧
回転寿司記念日の皿の上が私です 望月暢孝
【選評】
「回転寿司記念日」という言葉には、詩がありますよね。
(とりあえず「サラダ記念日」のことは忘れて)
【天】「さやうなら中トロ回転寿司記念日」
この句を天にしてしまう、選者のわがままを許して下さい。
笑ってしまったのです。そして作者に「きっと、戻ってくるからだいじょうぶ」
と、言ってあげたくなってしまったのです。
【地】「回転寿司記念日耳鼻科へとまはさるる」
回る寿司を食べようと思っていたのに、自分が耳鼻科に回されてしまったのです。
なにか、耳から出ていたのでしょう。
あるいは、回されたのは、あまりにも注文を聞き違える職人か。
【人】「回転寿司記念日しおからとんぼ捕獲せり」
「とんぼ、夏じゃん!」と思う人は、「俳病やみ」かもしれません。
旨そうな光り物の皿をゲットした喜びを、シオカラトンボに
託した、と読みたい。
【佳作】
「逆海老固め」面白い。でも分からない。エッチな句なんでしょうか。
「ミニカー」実景かも、しれませんね。
「好きな人は」この句の続きは「回転寿司記念日幼馴染と遅れた婚 百花」
「曲がり角」コンベアのカーブを、人生の曲がり角を越えた経験に重ね…ちがうか。
「木星はトロだ」いや、木星はカジキでしょう。
「引戸に」店長が、ドアが回転しないのを、気にしています。
「私です」違うと思う。笑ったという意味では、こっちが、「天」でもよかったくらいです。
素っ頓狂な、記念日でしたねえ。
【選者吟】
回転寿司記念日かつて日本といふ国あり 信治
[332] 11.21:早慶戦の日 上田信治選 2005年11月21日 (月)【天】
早慶戦の日でかい鯨が飛んでいた 望月暢孝
【地】
エンタツよアチャコよ早慶戦の日ぞ 媚庵
【人】
早慶戦の日鴉が一羽二羽三羽 淡々
【佳作】
物干し竿が落ちて早慶戦の日 二健
さうだ葱汁しかない早慶戦の日 櫂未知子
早慶戦の日ふはりと提灯行列に 中村安伸
早慶戦の日クワトロピザが冷めてゐる 百花
早慶戦の日きらきらと土埃 きみえ
早慶戦の日クラッカー・ジャックはありますか 坂石佳音
雀荘に東西南北早慶戦の日 園を
【選評】
本日より、ゲスト選者を務めます上田信治と申します。
モットーは「深くばかばかしく読む」です。
よろしくお願いします。
早慶戦、行きましたよ、一年生の秋に。
現阪神監督の岡田がいて、早稲田が優勝した年でした(25年前です、ははは)。
学生観客は、選手の名前とか知らないんで、もっぱら関心は相手校とのライバル関係にあります。
球場を二分する対抗心。
エールの交換とかあって、対抗心といっても、牧歌的なものですが。
【天】「早慶戦の日でかい鯨が飛んでいた」
そんな、秋空の神宮球場を、なんか大きなものが横切っていったんだよ………という
思い出ですね。すがすがしく、ノスタルジックで、実に「野球らしい」句だと思います。
【地】「エンタツよアチャコよ早慶戦の日ぞ」
野球といえば早慶戦 、という時代が、かつてあったんですね。いわば、全盛期。
で、漫才のエンタツ・アチャコの代表作が「早慶戦」。
色々あって、二人は、漫才コンビとしては、短い期間しか活動しなかったのだそうです。
作者は、そんな彼らの思い出に「今日は早慶戦の日だよ」と呼びかけている。
……そう考えると、なんとも優しい句だなあ、と。
【人】「早慶戦の日鴉が一羽二羽三羽」
早慶戦は、球場の周囲に泊まり込むのが習わしで(現在は禁止)、
朝早く集合して観戦するイメージがあります。これも早朝の景でしょう。
晩秋の朝の寒ーい中、鴉がわらわらっと来たところが、学生服の応援団の、姿と重なる………
と、読んでしまっていいのかな。
【佳作】
「物干し竿」ベランダの洗濯物を下げた竿が、はたりと落ちる……と、そこは球場であった。
「葱汁」早朝のキーンと冷えた空気の中での決定だとしたら、口が、はさめません。
「提灯行列」六大学の優勝パレードを、そう呼ぶのですが、「ふわりと」がヤバイですねえ。
「クワトロピザ」四分割は、二分論の学生には難しすぎた。
「土埃」野球は、土埃ですよね。これもノスタルジー。
「クラッカー・ジャック」とは、大リーグ観戦につきもののお菓子だそうです。新帰朝者?
「雀荘に」ま、学生といえばってこと? あ、都の西北かな。
【選者吟】
学生注目早慶戦の日ぱちぱちと 信治
[331] 11.20:ピザの日 緋色選 2005年11月20日 (日)【天】
ピザの日や匁尺貫そらんずる 島田牙城
【地】
切り分けるといふ生き方ピザの日も 中村安伸
【人】
ピザの日の大きなピザを傘にする 媚庵
【佳作】
ピザの日や世界に愛のタバスコを 春畑 茜
ピザの日の卓を囲んで奇数かな 百花
ピザの日や優等生の初非行 石蕗
ピザの日の伸びてゆく電柱の影 しのざき香澄
ピザの日や噂の刑事の脂肪肝 雪うさぎ
ピザの日やまうあらそひはやめませう 月野ぽぽな
当店もピザの日だからがんばろう 二健
【選評】
【天】凸版印刷が制定した記念日とのこと。宅配ピザの普及とともにピザケース(あの紙の箱のこと)の需要が伸び、それでかなと推測したが、凸版印刷が制定した記念日はピザの日だけではなかったので、先走ったことは言えませんね。
その紙の重さもかつては匁や貫(尺は長さ)で表していた。と言っても尺貫法の廃止は昭和34年。
とても遠い記憶のようだが、そんな大昔のことではないのだ。そらんずる人の脳裏にも日本の過ぎこしの風景がひとつひとつ浮かんでは流れるのだろう。西洋の食生活が当たり前のように根付いた空気の中で。
【地】ピザから哲学的な匂いまでさせ、かつ抒情性まで滲ませた。切り分ける手に、ためらいを振り払うような、ためらいに絡み付かれているような何とも言えぬ内部の衝動が見え、印象深い。
【人】そんなこと‥‥と思わせながら、ピザ、ピザ、かさ、の音の重なりで読ませてしまう。雨の下、
ピッツァピッツァと雨の音を立てて走り出したくなるスピード感が快い。
【佳作】
・春畑 茜さんの句。この大きな詠いぶり。愛は刺激的で、惜しみなく振りかけるが良し。
・百花さんの句。気まずさが漂うような、居心地悪くお尻がむずむずするような。偶数にしかまず切らないであろうピザ。半端なピースを目で探り、お互いの心積もりを量りあっている「奇数」の様子が愉快。
・石蕗さんの句。「優等生の初非行」と、ピザのひと切れの弧から中心へ向かう鋭角が、理屈ぬきで重なる。独特な意識の飛ばし方。
・しのざき香澄さんの句。こちらも形に注目。電柱から伸びる影とピザ1ピースの形が、緊張感あるなかに生活臭も取り込みながら重なってゆく。
・雪うさぎさんの句。張り込みの刑事はテレビなどではよくあんぱんをかじっているが、実際はどうなのだろう。刑事の不規則だろう食生活と、手軽に食べられるピザの普及。ピザソースに汚れた指を舐めながら、脂肪の数値を上げてゆくちょっと哀愁ある刑事像があざやか。
・月野ぽぽなさんの句。例えば、聖母マリアの声が聞こえると言いたいような、やわらかく落ち着いた句。旧仮名の味わいが効果的。「もう」は旧かなでも「もう」だと認識していたが、「まう」とする異説もあるんですね。
・二健さんの句。何でも良いようで、例えば「当店も土木の日だからがんばろう」では、やっぱり違う。「ピザの日」という力の抜ける音感が、そうだね、こちらも頑張るよ、と素直に言えるように、かろやかに背を押してくれるのだ。
【選者吟】 ピザの日や考え尽くした詩句ひとつ 緋色
[330] 11.19:鉄道電化の日 緋色選 2005年11月20日 (日)【天】
鯛飯のほろほろ鉄道電化の日 櫂未知子
【地】
間男も日帰り出張鉄道電化の日 淡々
【人】
鉄道電化の日 歴代校長みんな髭 やや
【佳作】
馬と驢と騾来たり鉄道電化の日 月野ぽぽな
鉄道電化の日碓氷峠に消えし風 丹羽まゆみ
鉄道電化の日なりお留守番 谷口純子
優勝を見に行く決意鉄道電化の日 大西龍一
鉄道電化の日死刑台へは電車にて 望月暢孝
窓という窓開け鉄道電化の日 ますみ
旅の足袋鉄道電化の日を干され 島田牙城
【選評】
【天】ただただこの旅情に浸っていたくなる。洋服のコーディネートでは効かせる色を「差し色」と言うが「ほろほろ」はそれに準えれば「差し文句」か。こぼれ落ちそうな時間がほのあたたかく切ない。
鯛飯も「鯛めし」という表記の方が多く見かけるが、「めし」と平仮名にすると「ほろほろ」が生きない。
細部まで手を抜かない芸に恐れ入りました。
【地】これはまた趣向が違っておかしみが良い。電化により日帰り出張が可能になり、追い立てられるよ
うに仕事をこなさなければならなくなった男。イケナイことをする暇もない。いや、それとも出張先にお相手がいるにも関わらず、日帰り出張しか許されなくなってのとほほ、かしら。
【人】うやうやしく飾ってある歴代校長の写真。鼻の下に約束事のようにたくわえられた髭は、ふと見ると車両が並んでいるようにも。ちょっとした発見が、昔の校長像ってこうだったなあと懐かしさを誘う。
【佳作】
・月野ぽぽなさんの句。「トロッコを押して鉄道電化の日 媚庵」「デゴイチもキハも眠るや鉄道電化の日 青榧」など、鉄道電化以前の手段と対比させた句のなかで、馬とロバとラバというすべて「馬」の付く漢字を集合させ、字面から迫力を演出した点にうなり、立ち止まった。
・丹羽まゆみさんの句。「人間の証明」の撮影場所としても有名な碓氷峠。今も残っているその重々しくも朽ちそうなトンネルには、行き場をなくした風たちが閉じ込められているのだろうか。もう、吹くこともなく。
・谷口純子さんの句。ちょっと無愛想な「お留守番」。この音数の欠落感に留守番の所在無さが湧いてくる。
・大西龍一さんの句。何の優勝かわからないけれど、「優勝を見に行く」って、もう優勝すると決めているんですね。この迷いない力み加減に納得させられる。
・望月暢孝さんの句。「死刑台のエレベーター」ならぬ電車で行く死刑台。乗せられたら時間稼ぎも少し立ち止まることも許されない。想像するほど気持ちが絞られる。
・ますみさんの句。簡潔にさっぱりと開け放つ窓。爽快感あふれる句だが、自分の「窓」も開けようとするような眼差しの高さをともに出来る句。
・島田牙城さんの句。鉄道電化でこれでお役御免となったのか、それとも頑なに足袋の旅を守ろうとする心意気か、いずれにしても「旅の足袋」を初句としたことで、その真白さ(干されている情景が白に固まってしまったので)が一句の命となって眩しい。
【選者吟】 よこしまなわが旅ごころ鉄道電化の日 緋色
[329] 11.18:土木の日 緋色選 2005年11月18日 (金)【天】
土木の日雄螺子雌螺子と時雨るるか 百花
【地】
笑顔土木の日の窪と丘へ 二健
【人】
火曜日は資源の日です土木の日 靖山
【佳作】
咳止めて鼻水止める土木の日 まなぶ
土木の日なほ上洛の夢のうへ 春畑 茜
新米を洗いておりぬ土木の日 正美
おむすびの俵・三角土木の日 きみえ
廃墟なぜこれほど美しき土木の日 雪うさぎ
泥つきの福沢諭吉土木の日 坂石佳音
土木の日ライフラインに血の通ふ ほにゃらか
【選評】
【天】雄螺子、雌螺子とはエロティックで雰囲気のあるネーミング。しっかり組み合わさったふたつの螺子が時雨れる。この壮絶さまで感じさせる美しさに脱帽の天。
【地】二健さんの決まった!という回文俳句に出会うと嬉しくて仕方ない。「笑顔」の思い切った始まりが、地上の窪と丘、顔の窪と丘を引き寄せてくる。
【人】資源ゴミ、じゃなくて「資源の日」。それも「火」の曜日。すんなり詠まれているが、現代土木事情、現代ゴミ事情に一矢を報いているのでは。
【佳作】
・まなぶさんの句。ネジで一箇所一箇所留めるように咳や鼻水を止める。句の動きが楽しい。
・春畑茜さんの句。京都の歴史的建造物へ馳せる夢か。時間を超えてのスケールの大きな夢は、靄立ような映像を浮かび上がらせる。
・正美さんの句。米も人の手になるもの。新米を喜びつつ、丁寧に洗う。「研ぐ」というよりここではあたたかい。
・きみえさんの句。こちらも米つながりだが、このささやかな形を作る行為が、土木の日へと無理なく流れてゆく。
・雪うさぎさんの句。廃墟の美しさは、そこにあったものの残像を見たりもするからなのか。ふつふつと恐ろしく、凛とした句。
・坂石佳音さんの句。土木工事現場から大金が発見される。そしてほとんどの場合、持ち主が名乗り出なかったりするんですね。福沢諭吉は何を知っているのだろう。泥つきの福沢諭吉のかすかな笑みと謎。
・ほにゃらかさんの句。ライフラインは人体では血管ですね。そこに命を吹き込んでこそ、入れ物は生きる。
「土木の日」とはちょっといかつい記念日名のような気がしたのだけれど、相反して美しかったり、生命の根源を思わせるような句が多かったのは、そんな認識に起因しての結果なのかしら、と楽しく裏切ってもらえた。
【選者吟】
ミルフィーユしずかに土木の日を待てり 緋色
[328] 11.17:将棋の日 緋色選 2005年11月17日 (木)【天】
将棋の日最後は同じ箱に入る 丹羽まゆみ
【地】
将棋の日だれが王将なみの顔やねん 寒蝉
【人】
将棋の日ぴしりぴしりと初霰 百花
【佳作】
将棋の日蛇足ですがと切りだしぬ みずき
将棋の日負けたらあかんで東京に 紅椿
あつものを吹いて将棋の日のふたり 櫂未知子
将棋の日なぜ裏返る裏返る 坂石佳音
将棋の日へんな歩き方の人が 信治
大阪に赤き月出づ将棋の日 園を
大奥で側女が指してる将棋の日 あまっとう♪
【選評】
【天】プロ棋士を幼い頃目指していた友人がいる。が、小学生大会などで現在の羽生名人を知り、幼心にもあんなすごい子がいたんじゃ敵わないと思ったそうだ。どんな駒も、でも最後は同じ箱に入る。さばさばと達観した句とも、人の生を愛しむ句とも、読み手の心持ちに応えてくれる句だ。
【地】天ダッシュをつけたいくらい好きな句。一読、こんな自虐的な‥‥と思ったが、いやいやそうではない。私の生家のある路地では、ちょうど真ん中あたりに縁台が置いてあって、銭湯帰りだか、行く途中だかのおじさんがよく将棋を指していた。うるさいくらい口を出す見物人もいて。そういう中に必ず王将なみと言えば言える顔のおじさんがいた(と思う)。句は関西弁だが、下町のおじさんも「だれが王将なみの顔だって?」と怒ったように嬉しそうに言うのだ。なんたって王将、だから誇っていいのだ。
【人】将棋を指す姿の美しさ。「ぴしりぴしり」が次の手次の手を読む脳のリズムも、初霰の清浄な冷たさも、簡潔に響かせて、響かせ続ける。
【佳作】
・みずきさんの句。切り出すタイミングを飄々と狙って楽しい。【人】の句ではないが、ぴしりぴしりとした場への「蛇足ですが」は、あきれるほどの場違いで空気を一瞬にして緩ませる。
・紅椿さんの句。父親か近所のおじさんか、いずれ近い立場の人が、東京へ発つ若者に大真面目で説く。駒を手に激昂した調子か、哀感を漂わせてか、説く人の輪郭ゆたか。今でも時代錯誤ではないだろう。
・櫂未知子さんの句。「あつもの」、の選択が絶妙。あつものと同時に勝負の熱気も吹き冷ます。ふたりの空気が凝縮されている。
・坂石佳音さんの句。「裏返る裏返る」、裏返って裏返ったら元通りだが、心は元通りとはいかない。
リフレインの効果絶大。
・信治さんの句。「へんな歩き方」、とぼけていて良いですね。盤上に駒となってふらりふらりと人の目を引きつけながら歩く映像が見えてくる。
・園をさんの句。大阪では赤い月がよく目撃されるようで。盤から目を上げたら、充血した目のような赤い月。息を飲む。
・あまっとう♪さんの句。将棋は4000年ほど前にインドで行われた「チャトランガ」というゲームが始まりとか。それが西洋ではチェスとなり、中国を経て日本に来たものが将棋となり、現在に至っているそうだ。長い時間を生きたゲーム。側女も将棋でも指せれば、今に伝わる大奥の様子は違っていたのかも、などと思わせる。
【選者吟】
ああ雲が流れてゆきます将棋の日 緋色
[327] 11.16:幼稚園記念日 緋色選 2005年11月16日 (水)【天】
幼稚園記念日靴が走り出す 春畑 茜
【地】
幼稚園記念日といふ海苔段々 櫂未知子
【人】
幼稚園記念日逆さの金魚鉢 媚庵
【佳作】
幼稚園記念日ピーマンを食べなさい 春おぼろ
幼稚園記念日の法要は先延ばし ミキ
句会へいそぐ幼稚園記念日 靖山
お日さまはなにいろ幼稚園記念日 きみえ
幼稚園記念日「幼稚とはなんだ!」と園児云い 望月暢孝
雲みんなおててつないで幼稚園記念日 月野ぽぽな
幼稚園記念日はざりがに大将ぴょんとはね やや
【選評】
【天】子どもを詠んで少し甘さの勝ったような句が多かったなかで、このスピード感、潔さが心地よかった。子どもの頃の滑るような時間の流れも彷彿させられた。
【地】「段々」にやられました。小さな弁当でする段々はテクニックが必要。弁当で「良いママ競争」をしているなんて話も思い出す。幼稚園の初めは上流階級の子女のみの入園ということから、親の地位の「段々」も匂わせ、心憎い。
【人】金魚鉢を逆さにかぶって宇宙人の真似、なんて漫画を見た覚えがある。そこにあるモノに縛られずに見ることの面白さ。
【佳作】
・春おぼろさん。嫌われ野菜ナンバーワンのゆるぎない地位にあるピーマン。ここまで直截だとすがすがしくもある。子どもだって、くだくだ言われるより、「はい」と勢いで言っちゃうかも。
・ミキさん。私は築地本願寺に併設されていた幼稚園に通っていました。お寺に幼稚園って今は減少傾向なのかしら。法要も一種の記念日と思うと、記念日のぶつかりあいに含みあり。
・靖山さん。集団の中で磨かれるのは句会も幼稚園も一緒。愛する場へは、急ぎましょう。
・きみえさん。使う色で心理が読めるというけれど、それと独創性の関係はいかがなのでしょうね。それぞれの感じたいろで楽しいのにね。「なにいろ」が考えさせてくれる。
・望月暢孝さん。吹き出してしまった。幼稚園児の反乱のにぎにぎしさ。もっとシリアスになると寺山修司の映画「トマトケチャップ皇帝」の世界へ。
・月野ぽぽなさん。幼稚園児の頃の子どもは、たくましさと同時に、ある頼りなさをもっている。
水蒸気の集合体である雲も頼りなく、だからこそおててつないで、に視覚的なもののみでなく、みんながいることへの祈りも重なる。
・ややさん。集団の中には必ずぴょんとはねる子がいるが、ざりがにが変に気取ってなくて良い。
「は」を抜くと、一層「ぴょんと」が生きてくると思う。
【選者吟】
風船はどこまで風船 幼稚園記念日 緋色
[326] 11.15: 蔵の日 月野ぽぽな選 2005年11月15日 (火)【天】
蔵の日に日向ぼっこの大家族 正美
【地】
蔵の日やバラードめきし咀嚼音 きみえ
【人】
蔵の日や色留袖の五つ紋 百花
【佳作】
四辻蔵の日の落日よ 二健
蔵の日の右半身を鍛えをり 信治
蔵の日の高価なものに南京錠 春おぼろ
蔵の日や靴隠してはみつける子 谷口純子
蔵の日や全山の音漏らさずに 中村安伸
蔵の日や揺籃ひとつ睡りけり 春畑 茜
蔵の日を灯して昏きラムプかな 雪うさぎ
【選評】
信州を愛する大人の情報誌「KURA」が創刊された日。ぽ分類では起源型。(11/12選評参照)
【天】賑やかな家族の笑顔や賑やかな蔵の中の様子が見えてくる。とてもおおらかで健やかな句。
【地】音の主は鼠だろうか、それとも他の生命体か。静かなララバイだとしても不穏なところを何と「バラードめく」という。感傷的に朗々とクライマックスにむけて盛り上がりゆく不気味さと可笑しさ。
【人】所蔵の宝物を対象とした句の中で、説明なしにその物だけを潔く提示して成功している句。「蔵の日」から「五つ紋」へのフォーカスも効いている。
【佳作】
●「四辻」、短句。蔵の街の厳かな一日。
●「右半身」は、不思議なところが魅力。
●「南京錠」、所蔵品よりそれを守る錠の方が高価という価値の逆転の面白さ。
●「靴隠しては」、蔵の周りは子供の遊び場。坊や、どうしたの?
●「全山の音」、景の大きさのみに留まらぬ意欲作。
●「揺籃ひとつ」はとても素直でやわらかい句。
●「灯して昏き」の「を」が詩の源泉。中七がにくいほど上手い。
余談だが、私は信州出身、現在アメリカ合衆国ニューヨーク市に住んでいる。「KURA」を購入すること、また一つ次の帰郷の際の楽しみが増えた。
【選者吟】
蔵の日の雪嶺高き信濃かな 月野ぽぽな
[325] 11.14: いい石の日 月野ぽぽな選 2005年11月14日 (月)【天】
オリオンの堅き光やいい石の日 百花
【地】
いい石の日を削つてる鷲つ鼻 みずき
【人】
狩猟民族の雄叫びいい石の日なり 紅椿
【佳作】
蟹茹でてふむふむいい石の日か 櫂未知子
いい石の日の中世の都市の殻 中村安伸
いい石の日にこぼれ出す石のこゑ 春畑 茜
いい石の日ヴィーナスの腕に凄まれる 望月暢孝
いい石の日子守地蔵の目のほそく 丹羽まゆみ
いい石の日真昼の大石内蔵助 寒蝉
食いに行かんいい石の日の爺委員会に行く 二健
【選評】
職人が尊ぶ聖徳太子の命日にあたる14日を「太子講」としていたことと、11月14日を「いい石」と読む語呂合わせから制定された日。ぽ分類では併用型<起源型+語呂合わせ型>。(11/12選評参照のこと)
【天】「堅き光」の表現が優れている。ピンと張りつめた空気の中、星と石との静かな対峙が美しい。
【地】ひもすがら精出す頑固で寡黙な職人の姿が見える。「鷲つ鼻」が真剣であるが故の滑稽さを醸し出していて味わい深い。
【人】太古から人と石とは強く結びついていること思い起こさせる。彼らの声も聞こえる豪快な一句。
【佳作】
●「蟹茹でて」、ふむふむ、字足らずだがこの肩の力の抜け具合が良い。
●「都市の殻」、俳人は考古学者にもなれる。
●「石のこゑ」、優れた石職人と詩人は聴く事ができる。
●「ヴィーナス」、想像力、この美しく恐ろくそして素敵なもの。
●「子守地蔵」、名も無き石職人の作品か。慈悲深い笑み。
●「大石内蔵助」のいざというときに光るひと、光るもの。
●「食いに行かん」、さて食われるのは何か、それとも誰か。
スタンリーキューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」に出てくる不思議な物体、モノリス。この記念日を思うとき、なぜか私の頭の中には、このモノリスががしばし漂う。
【選者吟】
いい石の日一直線に朝日来る 月野ぽぽな
[324] 11.13: うるしの日 月野ぽぽな選 2005年11月13日 (日)【天】
死に至る抱擁と思ふうるしの日 島田牙城
【地】
うるしの日うるはしの日と思ひけり 寒蝉
【人】
干したての布団の匂ひうるしの日 大西龍一
【佳作】
うるしの日寒き川原にひとりいる 正美
うるしの日人形の髪梳いてをり きみえ
赤きもの少し刻むもうるしの日 櫂未知子
ガンとうるしの日の汁うどんか 二健
ジッポーで鼻毛を焼いてうるしの日 青榧
折り紙のやうに色づくうるしの日 丹羽まゆみ
煎餅は程よく湿気てうるしの日 紅椿
【選評】日本の伝統工芸である「漆(うるし)」の美しさを広く紹介するために制定された日。
ぽ分類ではその他。(11/12選評参照のこと)
【天】その妖艶な魅力で男を惹き付け破滅させる女、ファムファタル(宿命の女)。彼女の肌の感触はうるしのように滑らかに違いない。
【地】時に言葉と言葉が自然に互いを求めてくる事があるかもしれない。I音を中心とした韻律もよろしく「うるはしき句」となった。
【人】食事から就寝まで、心づくしのもてなしに幸せな気分。
【佳作】
●「寒き川原」からは職人の孤高を思った。
●「人形の」、童心というよりは狂気が香りたつ。
●「赤きもの」、この抽象が想像をかき立てる。
●「汁うどん」、少々雑に扱っても大丈夫。
●「ジッポー」のぶっ飛び具合が心地良し。火傷にご注意。
●「折り紙」には日本の伝統美が響き合う。
●「煎餅は」の気取りの無さに親近感を抱いた。
漆の英語名は "japan"。樹木のウルシは中国原産であるが、そこから得られる天然樹脂、漆の硬化に必要な湿度が備わった日本での利用技術の発達が著しかったため、この英語名がついたという。
【選者吟】
うるしの日なめらかにつややかにJAPAN 月野ぽぽな
[323] 11.12: 洋服記念日 月野ぽぽな選 2005年11月12日 (土)【天】
右側にゼリービーンズ洋服記念日 櫂未知子
【地】
マネキンは外つ国のひと洋服記念日 紅椿
【人】
お犬様専門ブティック洋服記念日 丹羽まゆみ
【佳作】
DNAがきめる体型洋服記念日 青榧
食パンの刺身を洋服記念日に 信治
正しさの形を変えて洋服記念日 ほにゃらか
洋服記念日一対一の恋をせよ 島田牙城
洋服記念日越中褌日本人 ひらくに
洋服記念日アルミのウエディングドレスを 中村安伸
洋服記念日ペルリの黒きダンブクロ 媚庵
【選評】
明治5年の今日「礼服ニハ洋服ヲ採用ス」という太政官布告が出されたことを記念し制定された日。
【天】「ポケットに」ではなく「右側に」としたところに技あり。明るく懐かしい気分の句。左側には何が入っているのだろう、と想像するのも楽しい。
【地】日本人にすっかり馴染んでいるように見えるが、その名の通り洋服は外来の物。おどけた物言いで、実景を提示することでそのかすかな違和感をうまく捉えている。
【人】洋服は人間だけの物と思うなかれ。人間の物よりも高価な物もあるとか。諷刺がぴりと効いている。
【佳作】
●「DNA」は、着せる体に注目。だから洋服はこんなの形。
●「食パン」、ここにもこんな違和感の表出。
●「正しさ」からは、この日にだけでなく言える日本人の柔軟さが見えた。
●「恋をせよ」は有無を言わせぬ勢いのある句。
●「越中褌」のこの日にこそこの心意気。
●「アルミ」、一円玉をスパンコール風に。
●「ペルリ」の効果的な史実の選択。その姿にさぞ衝撃を受けたことだろう。
さて、以下が昨日お話しした記念日制定背景ぽぽな式分類の7つの型である。(仮名:ぽ分類)
1)起源型:日付を日付として扱う。(以下日付系)対象事物自体またはそれについて特筆すべき事が起こった日、対象事物が利用され出した日、対象当事者または対象事物の関係者の誕生日・忌日など、とするもの。 <例>タイガーズ記念日
2)季節型:日付系。対象事物が起こる、または必要となる時期・季節に注目したもの。<例>ハンドクリームの日
3)語呂合わせ型:日付の数字を扱う。(以下数字系)対象事物の発音に注目し同音・類似音を持つ数字をあてるもの。<例>いい五世代家族の日
4)視覚型:数字系。数字の形(漢数字も含む)に注目して対象事物と関係付けたもの。<例>木の日
5)数値型:数字系。対象事物の属性とその日付の数字とを関係づけたもの。<例>104の日
6)併用型:以上のいくつかの型を併用したもの。
7)その他:対象事象とその日付との関係に、以上とは別の理由がありそうなもの。
試しに担当の5日間について、ぽ分類してみたいと思う。 昨日のサッカーの日は併用型<数値型+視覚型>、本日洋服記念日は起源型となる。
【選者吟】
洋服記念日アンコールはショパン 月野ぽぽな
[322] 11.11:サッカーの日 月野ぽぽな選 2005年11月11日 (金)【天】
サッカーの日や黄昏のロスタイム 春畑 茜
【地】
塩漬けのカロティン青きサッカーの日 みずき
【人】
上手いサッカーの日の喝采舞う 二健
【佳作】
縞馬は後ろ向きに蹴るサッカーの日 雪うさぎ
相撲部がサッカーの日に卓球す 寒蝉
サッカーの日ときどき変な秋の声 青榧
サッカーの日に生まれたる恋激し きみえ
サッカーの日や底なしの頭陀袋 中村安伸
サッカーの日をふるふるとカップ麺 櫂未知子
除湿機が満水知らすサッカーの日 しのざき香澄
【選評】「サッカーの日とふは牙城さんの父性愛そのもの ほにゃらか」我らが島田牙城氏の多忙な公私の私の一部を彷彿させるこの句がまず目にとまった。牙城氏をはじめサッカー好きの方々には熱の入る記念日であろう。11人対11人の戦いを日付に置き換えた記念日で、11を1人の選手の両足と見て11○11と、一つのボールをめぐって争うスポーツであることも表しているという。
【天】「黄昏のロスタイム」、試合後半45分後の、たった2、3分のこの時間内に逆転劇が起こりうる。サッカーの試合の印象的な場面に焦点をあてた句。それも黄昏である。祈るような気持ちを再現できる。
【地】「カロティン青き」が秀逸。思い切り離したからこそ得られる交感がある。快感。
【人】「上手い」。いや上手すぎる回文俳句である。ジャンルを問わず鍛え抜かれた技には喝采が舞う。
【佳作】
●「縞馬」は発想が面白い。監督は大変だろう。
●「相撲部」のこてこてなスポーツ繋がりもここまでくればお見事。
●「秋の声」のあの独特なかけ声も秋の声の一つとした妙。
●「恋激し」はサポーターの熱狂に肖ってか。
●「頭陀袋」、サッカー少年の袋には何が入っているか興味津々。答案はきっと底なしの底の底。
●「カップ麺」、欧米試合の深夜中継には夜食が欠かせない。
●「除湿機」の試合への熱中度。
1年365日毎日が記念日。
作句を続けるうちに、記念日制定の背景に興味を持った。
そこで記念日HPの解説を参考にしながら、その日が記念する事柄(以下、対象事物)とその日付との関係を分類してみた。
その7つの型を明日発表してみたい。
【選者吟】
サッカーの日に火の粉なす翼あり 月野ぽぽな
[321] 11.10:ハンドクリームの日 春畑 茜 選 2005年11月10日 (木)【天】
ハンドクリームの日静かな三十三間堂 百花
【地】
味噌醤油幾樽ハンドクリームの日 媚庵
【人】
ハンドクリームの日清潔なピリオドを 中村安伸
【佳作】
ゴマ擂りとモミ手で暮らすハンドクリームの日 ひらくに
ハンドクリームの日やプーシキン読みなづむ 島田牙城
ハンドクリームの日の弥勒菩薩かな 月野ぽぽな
ハンドクリームの日ぽんぽんと嘘をつく きみえ
どれから刻み始めるハンドクリームの日 櫂未知子
ハンドクリームの日布製グローブの感触 淡々
そこはそれハンドクリームの日ののりで 信治
【選評】
「ハンドクリームの日」で9音。そのまま9音として使うこともできるが、外来語なので、リズミカルに〈ハンド/クリーム/の日〉と、音楽の4分の3拍子の3拍として読むことも可能かもしれない。そんなことを思った。
天の句は一千一体の千手観音像の金色にかがやく手。スケールの大きな句だ。その手も歳月とともに金が剥落し、まるであかぎれの手のように見えることもあるかもしれない。
地の句、いくつもの樽の並ぶ光景だけを言いながら、その向うに味噌や醤油職人の手が思われる作品。
人の句、「清潔なピリオド」とは何か。恋のピリオド、人生のピリオド、文章のピリオド、さまざまなものを匂わせながら、しかし余計なものは一切言っていないのがいいと思った。
佳作、
ひらくにさんの句はサラリーマンの日々の哀感だろうか。
牙城さんの句はプーシキンの意外性が味。そういえばプーシキンとユースキン(ハンドクリームの商品名)は音が似ている。
月野ぽぽなさんの句、弥勒菩薩の指はたおやかで細長い。シンプルでうつくしい句。
きみえさんの句は「ぽんぽんと」に勢いがあって嘘さえもあかるく見えるところがいい。
櫂未知子さんの句、刻む前のほんの一時のこころの動きを捉えている。
淡々さんのは布製グローブというものへの郷愁。
信治さんの句、指図する指が見えてくる。何事もノリは大切。
今回で私の選は終わります。みなさんの投稿作品に触れて、とても刺激をいただいた5日間でした。入選した句にも、選外の句にも、それぞれの魅力がありました。ありがとうございました。
【選者吟】
カタカナはさびしいかたちハンドクリームの日 春畑 茜
[320] 11.9:換気の日 春畑 茜 選 2005年11月09日 (水)【天】
ハモニカの捨てられてをり換気の日 中村安伸
【地】
發發發東東東や換気の日 大西龍一
【人】
換気の日只今アラスカ上空です 月野ぽぽな
【佳作】
換気の日探偵は爪噛み続け 媚庵
爪の色見てゐるひまの換気の日 島田牙城
それはもうどうでもよくて換気の日 しのざき香澄
換気の日妻がピアノの練習す 寒蝉
チリオイルガーリックオイル換気の日 櫂未知子
お互ひを扇いでゐたる換気の日 雪うさぎ
3億円の当たりくじなり換気の日 春おぼろ
【選評】
なぜか麻雀と爪ネタの句が複数あった、不思議な記念日。こたつの季節は家族で麻雀というノリの家庭に育った。小学生だった私は母よりは強かったが、父や兄たちには勝てなかった。ハコテンというひびきがとても怖かったのを思い出す。最近の子供はパソコンゲームで麻雀を覚えるのだとか。パソコンにハコテンにされるのと、人間にハコテンにされるのとでは怖さが違うと思う。
天の句は、窓から見えた実景か。捨てられたままのハモニカに漂う哀愁。物だけを描いて、それ以上のことを語る句。
地の句は麻雀ネタ。「發」と「東」が手の内にアンコで揃っているのだろう。「發」と「東」の音と表記の連続に面白い味がある。(發が文字化けしているかも知れません。発の正字です=主催注)
人の句は機内アナウンスだろうか。換気→アラスカ上空まで発想を飛ばした自在さ。
佳作の
媚庵さんと牙城さんはどちらも爪ネタ。爪に存在感がある。
しのざき香澄さんの句は投げやりな物言いに味。
寒蝉さんの句は窓を開けたら妻のピアノが聞えてきたのか、それとも妻のピアノがうるさくて換気したいと思っているのか、微妙。
櫂未知子さんの句は、それはもうものすごい匂いなんじゃないかと思わせて妙。どちらもカタカナ表記であるところにも注目。
雪うさぎさんの句はお互いを扇ぐという情景がほほえましい。
春おぼろさんの句、換気をしたら当たりくじが飛んでいってしまいそうだ。
【選者吟】
換気の日記憶のなかの風を追ふ 春畑 茜
[319] 11.8:八ヶ岳の日 春畑 茜 選 2005年11月08日 (火)【天】
煎餅の彼方よ八ヶ岳の日よ 櫂未知子
【地】
この道も八ヶ岳の日に通じたり まなぶ
【人】
天狗め八ヶ岳の日の下駄が艶めくんで 二健
【佳作】
なめたけの空瓶並ぶ八ヶ岳の日 信治
おいでなんし八ヶ岳の日の小海線 寒蝉
富士山は今日は見えない八ヶ岳の日 淡々
八ヶ岳の日のよく晴れて帰り花 百花
八ヶ岳の日ペットボトルの蓋がない 青榧
日本一空に近い駅 八ヶ岳の日 丹羽まゆみ
八ヶ岳の日凩の帰宅かな 中村安伸
【選評】
今日は八ヶ岳の日。力作揃いで選に悩む。
「天」の句、煎餅を握り締めたまま、呆然とはるか彼方の八ヶ岳を思っているのだろうか。煎餅も記憶も湿りやすいものだ。この記念日名に煎餅、その意外さと「よ」のくり返しが絶妙。
「地」の句、すべての道はローマ、もとい、八ヶ岳の日に通ず。シンプルな表現ながら孕む世界は広い。
「人」の二健さんの句、お見事な回文!そういえば八ヶ岳には天狗岳もある。
佳作、
信治さんのずらりと並んだ「なめたけの空瓶」は実景か空想か。妙に説得力がある。
寒蝉さんの句は「おいでなんし」という方言があたたかい。
淡々さんの句、今日は見えないところが味。
青榧さんの句、登山途中だろうか。蓋に注目したのがよかった。
丹羽まゆみさんの句は野辺山駅。「日本一空に近い駅」は今も教科書に載っているのだろうか。
百花さんと中村安伸さんの句は、それぞれ「帰り花」と「凩」が冬の季語で、記念日名も季語扱いゆえに季重なりになってしまうのだが、文体の美しさに惹かれた。
【選者吟】
ネガひとつきみを残せり八ヶ岳の日 春畑 茜
[318] 11.7:鍋の日 春畑 茜 選 2005年11月07日 (月)【天】
鍋の日の骨を拾うてをりにけり 百花
【地】
鍋の日や底なし沼に日が沈み 島田牙城
【人】
鍋の日や右に鮟鱇左に麩 櫂未知子
【佳作】
鍋の日の人間臭いたぬきかな 望月暢孝
鍋の日をサマルカンドの夢見たり 寒蝉
鍋の日のペテルブルクは煮え立ちぬ 中村安伸
鍋の日や三畳一間弐萬円 媚庵
鍋の日の頑固おやじと競うこと 昭雄
鍋の日や眼鏡の曇る仲直り 月野ぽぽな
鍋の日や婆さんはどこ行つた 春おぼろ
【選評】
今日は立冬でもあり、冬を感じさせる鍋料理の「鍋の日」。
名古屋市内に「鍋屋町商店街」というところがあり、
故・永井陽子さんの歌集『小さなヴァイオリンが欲しくて』にはその名の入った歌が収められている。
・鍋屋町商店街のナベ屋にもはるのひかりはやはらかに差し (永井陽子)
天の句は鍋底のようでもあり、違うもののようでもある。うつくしくて、少し怖い。
地の句、底なし沼が妙。「日が沈み」と言いさしのままで終っているから、ずっと日が沈み続けているような錯覚を覚える。
人の句、鮟鱇と麩の対比が面白い。特にこの麩の脱力系的な味わいは見逃せない。
佳作、
望月暢孝さんの句はおとぎ話だろうか。人間臭いたぬきが魅力。
寒蝉さんと中村安伸さんの句はここで「サマルカンド」や「ペテルブルク」が出てくる発想に脱帽。
媚庵さんの「三畳一間弐萬円」には妙なリアリティがある。
昭雄さんの句は父親と一緒に食べる鍋料理だろうか。この句の味は母親や娘では出ないだろう。
月野ぽぽなさんの句は夫婦か恋人同士か。眼鏡が曇るという具体が効いている。
春おぼろさんの句、ギャグともシリアスともとれる味わい。2音欠けているために生れた欠落感が深い。
【選者吟】
鍋の日や絵本の魔女のおほわらは 春畑 茜
[317] 11.6:お見合い記念日 春畑 茜 選 2005年11月06日 (日)【天】
ふふと笑ってみせるお見合い記念日 谷口純子
【地】
銅像の孤独お見合い記念日や 媚庵
【人】
狛犬の片や子を連れお見合い記念日 二健
【佳作】
日本中のの字ばかりのお見合い記念日 寒蝉
お見合ひ記念日ビオフェルミンを噛砕く 信治
瀬戸も日本も大きく暮れてお見合い記念日 緋色
またしてもお見合い記念日の迷ひ箸 紅椿
お見合い記念日少し早まる紅葉かな 流鬢力
お見合い記念日の嫌われたパンダたち 中村安伸
お見合い記念日ユーミン全部唄へます きみえ
【選評】
昭和22年の今日、結婚雑誌主催の集団お見合いが東京・多摩川河畔で開催されたそうだ。私はお見合いの経験がないけれど、両親はお見合い結婚だった(らしい)。何でも父はお見合いの時に母の手を眺めていたそうな。「手を見てほんまに結婚が決められるんか?」と、今ならツッコミたくなるところだが。
天の句、「ふふ」のひらがな表記とひびきが絶妙。「笑ってみせる」のは、余裕なのか気がすすまないのか、そのあたりの微妙さも味。
地の句はお見合いから銅像の孤独へ飛ぶ発想が凄い。沈痛な表情の銅像と、お見合いに失敗した男の哀れとを重ねることもできるだろう。
人の句はほのぼのとした背景と硬質な言い回しが魅力。狛犬というのも出てきそうでなかなか出てこない発想だ。
佳作の寒蝉さん、日本中にのの字があふれるスケールの大きな句。
信治さんの句のビオフェルミン、お見合いで緊張しすぎてお腹を壊してしまったのか?発想が面白い。
緋色さんの句、瀬戸内海と日本海の景を言いながら、日本の晩婚少子化が思われる。
紅椿さんの句、「またしても」に選択の苦労がしのばれる。
流鬢力さんの句は風景だろうか、頬を染めているのだろうか。どちらであってもうつくしい。
中村安伸さんの句、人気者のはずのパンダがここでは嫌われてしまうところが味。
きみえさんの句はユーミンのファンだというだけでお見合いが盛り上がることもあるかも?と妙に説得力があった。
【選者吟】
戸惑ひはスープの底にお見合ひ記念日 春畑 茜
[316] 11.5: いい5世代家族の日 柴崎昭雄選 2005年11月05日 (土)【天】
サクマ式ドロップいい5世代家族の日 青榧
【地】
いい5世代家族の日 母・祖母・曾祖母と羽化しゆく 丹羽まゆみ
【人】
いい5世代家族の日の古時計 きみえ
【佳作】
寝相こそ受け継ぐものかいい5世代家族の日 大西龍一
楢山節歌ふいい5世代家族の日 媚庵
鍋もできれば3種類欲しいいい5世代家族の日 緋色
いい5世代家族の日の手塩皿 坂石佳音
カレー好きいい5世代家族の日 正美
いい5世代家族の日のむかご飯 望月暢孝
いい5世代家族の日もタンメン 櫂未知子
【選評】
【天】家族それぞれがドロップのように、いろんな味を持って缶(家)に詰まっている。
【地】やはり女性は偉大で、徐々にその役割を変化させても偉大なことには変わりない。
【人】何世代もの家族の時を刻み、見守り続けてきた。そしてこれからも。古時計は表現として珍しくはないが、やはり存在感を感じる。
【佳作】
「寝相こそ」微笑ましい。案外当たっているかも。
「楢山節歌ふ」老いは絶対に避けられない家族の問題。「歌ふ」にペーソスが。
「鍋もできれば」ちょっとした願いも幸せの中でなら許されるかも。
「手塩皿」どんなものが盛りつけられるのか、見えるもの、見えないもの、あれこれ想像が尽きない。
「カレー好き」これは家族の定番メニューだが、定番ゆえに必需メニュー。
「むかご飯」なかなか出合えない味。家族も一人一人が貴重な存在。
「タンメン」あっさりとした塩味か‥‥仲良しの秘訣は。
【選者吟】
いい5世代家族の日兄は一抜けた 昭雄
[315] 11.4: ユネスコ憲章記念日 柴崎昭雄選 2005年11月04日 (金)【天】
ユネスコ憲章記念日大事なものはすぐ戸棚 望月暢孝
【地】
ユネスコ憲章記念日の紅白の幔幕よ 媚庵
【人】
歩くぞユネスコ憲章記念日裏通り 島田牙城
【佳作】
湯舟の空歌ユネスコ憲章記念日 二健
ユネスコ憲章記念日の教育的指導 春おぼろ
ユネスコ憲章記念日キリマンジェロに万年雪 紅椿
恰幅がいくらよくてもユネスコ憲章記念日 緋色
ユネスコ憲章記念日や学級会の孤独 雪うさぎ
ユネスコ憲章記念日アブシンベル神殿に朝日 寒蝉
看板娘も年取ったユネスコ憲章記念日 淡々
【選評】
全体的に一味違ったアングルからの視点が多かったのが嬉しい。
【天】有難過ぎて上手く機能しない現実も少しはあるかも知れない。日本にはいろんな戸棚がある。
【地】「紅白の幔幕」もアイロニーが効いていて鋭い。
【人】裏通りには、表からは気づかないことがいっぱい。この天邪鬼ぶりが好きです。
【佳作】
「湯舟の空歌」鼻歌感覚で捉えると爽快感が増していく気がする。
「教育的指導」こう言われると逆説的な味がでてきて面白い。
「キリマンジェロに」万年雪のように諸々の問題が世界には山積みである。
「恰幅が」ある種の権威への一言か。
「学級会の」規模の大小に関わらず、孤独は存在する。
「アブシンベル神殿」希望の朝日は神秘的でもある。
「看板娘も」このユーモアも鋭い。
選外ながら好きな句。
五ヶ国語の法典ありやユネスコ憲章記念日 大西龍一
ユネスコ憲章記念日の忘れ物 月野ぽぽな
くつきりと鳩の足跡ユネスコ憲章記念日 きみえ
ユネスコ憲章記念日午後の机に睡る 春畑 茜
【選者吟】
ユネスコ憲章記念日買春罪の教師たち 昭雄
[314] 11.3: アロマの日 柴崎昭雄選 2005年11月03日 (木)【天】
カタカナを嫌いな人とアロマの日 立川なつみ
【地】
鶏小屋へ鶏取りにゆくアロマの日 櫂未知子
【人】
アロマの日鍵束の鍵多すぎる 媚庵
【佳作】
アロマの日淡海のみづの夕暮れて 春畑 茜
ここからは単線となるアロマの日 青榧
緋の麿庵殿アロマの日 二健
体臭をもつと誇りにアロマの日 寒蝉
アロマの日たたみの上で泳ごうか 緋色
土踏まず合はせアロマの日と思ふ 島田牙城
アロマの日焼き芋の皮焼いてみる 坂石佳音
【選評】
【天】
肩の力を抜いて一緒に過ごせる相手なら、アロマ以上にリラックスできそう。「カタカナ」の比喩が効いている。
【地】
鶏を自分でしめることは、命を尊ぶことに繋がる。自然と精神の共通性を感じる。
【人】
鍵の多さは現代社会の複雑さを象徴している。いくつもの鍵がなければ安心できない日常。気持ちを解さなければとてもとても続かない。
【佳作】
「淡海の」このシチュエーションには言葉はいらない。
「ここからは」自分にとってとても大事な岐路であり、時期である。そんな日が誰にでもある。
「緋の麿庵殿」得体の知れない怪しさが、逆に気持ちを解してくれるかも。
「体臭を」体臭をなくしていく世界は、生き物ではなくなっていく気がする。
「たたみの」理屈抜きで、すぐにやってみたくなります。
「土踏まず」土踏まずを合わせるだけで、心が落ち着いてくる。
「焼き芋の」今にも焼き芋の皮を焼いている匂いがしてきそうである。
選外になってしまいましたが好きな句。
アロマの日机上の句集片付けて 百花
アロマの日シネマの奥の綱渡り 中村安伸
ガス台はわりと拭く方アロマの日 信治
禅僧のダブルベッドやアロマの日 紅椿
【選者吟】
眠そうな君が隣にアロマの日 昭雄
[313] 11.2:タイガース記念日 柴崎昭雄選 2005年11月02日 (水)【天】
タイガース記念日の枕投げ合う 谷口純子
【地】
タイガース記念日どこに消火栓 月野ぽぽな
【人】
生クリームは角が立つまでタイガース記念日 緋色
【佳作】
白和への歯にタイガース記念日あり 島田牙城
タイガース記念日は六甲の月に嘯く 望月暢孝
ゆつたりとうどんしづもるタイガース記念日 櫂未知子
一部上場喧嘩上等タイガース記念日 丹羽まゆみ
君だけにジュリーは歌ふタイガース記念日 まなぶ
タイガース記念日歯磨きを忘れずに 百花
道頓堀は百年河清を俟つタイガース記念日 淡々
【選評】
【天】
タイガース優勝を祝うためなら枕が当たろうがヤリが飛んで来ようが笑って許すかも知れない。
【地】
説明は不要だと思う。タイガースファンに火がついたら、消火栓をさがそう。
【人】
生クリームを角が立つまで渾身の力であわ立てる。途中で何度も、どうだろう、まだかな、と確かめては続ける。タイガースも似ている気がした。
【佳作】
「白和への」白和への歯の感触と対比が面白い。
「六甲の」思う存分、声の限りに嘯く爽快感。
「ゆつたりと」台風一過の心境か。しづもるうどんとタイガースを想像してしまった。
「一部上場」みんな熱い。
「君だけに」同じタイガースでもジュリーはGSのタイガース。どちらのファンにとっても、それぞれがそれぞれにとって永遠の存在なのだろう。
「歯磨きを」何でもない日常の行為を絡めたことが妙に効果的で面白い。
「道頓堀は」「百年河清を俟つ」は、いくら待っても望みの達せられないこと、という意味があるようだが、日本シリーズ優勝への願いか。リーグ優勝での道頓堀への飛び込み続出での川の濁りか。元々の道頓堀の汚染か。
【選者吟】
タイガース記念日いまだ大虎健在で 昭雄
[312] 11.1:紅茶の日 柴崎昭雄選 2005年11月01日 (火)【天】
紅茶の日アリスの猫の名はダイナ 雪うさぎ
【地】
天空の猫に会いたし紅茶の日 谷口純子
【人】
やはらかに恋歌ふこゑ紅茶の日 春畑 茜
【佳作】
紅茶の日水面に蝶の翅のこる みずき
瓶で買ふ明治牛乳紅茶の日 櫂未知子
ヴィーナスの乳房かじるや紅茶の日 月野ぽぽな
試着室の忘れ物なる紅茶の日 島田牙城
吉行の短編を読み紅茶の日 媚庵
野良猫に手をひっかかれて紅茶の日 二健
紅茶の日十円玉をぴかぴかに 信治
紅茶の日二者択一をせまられて まなぶ
【選評】
好きな句が多くて選ぶのが大変でした。選外にも気に入った句が沢山ありました。
【天】
紅茶を飲むひと時は、ちょっとした時間のスイッチの切り替えの瞬間のような気がする。ほっと一息つき、一人でぼんやりしたり、知り合いと談笑したり。さっきまでとは何の脈絡もないことが頭に浮かんだり。アリスの世界にひと時浸る。
【地】
猫の句が続いたが、猫と紅茶は意外と合うかも知れない。「猫の恩返し」のバロン男爵が紅茶を飲んでいそうである。いろいろな想像をさせてくれる。
【人】
透き通るような歌声、それも恋の歌。それぞれが恋う人を思い浮かべる。あるいは恋う人が歌っている。心地よい時間が流れてゆく。
【佳作】
「水面に」傷ついた心に残るわだかまりか。
「瓶で買ふ」瓶という懐かしさと風情があって、紅茶に溶け込んでゆく牛乳が私の中で映像化されてゆく。明治牛乳の濃厚な味がしばらく口に残る。
「ヴィーナスの」その衝動も日常のギャップであるのか。
「試着室の」忘れ物をしても、あっけらかんとした微笑ましさを感じます。
「吉行の」思わず時間を忘れて吉行淳之介を読みふけってしまった。気づくと喉はからからで生唾を飲んでしまう。
「野良猫に」手をひっかかれて、やれやれと言いながらもどこか心のゆったりとした余裕を感じる。
「十円玉を」気持ちもぴかぴかになる。
「二者択一を」一口も口をつけていないティーカップを前に神妙な顔。他人事ではない気がした。
【選者吟】
元カノにばったりと遭う紅茶の日 昭雄
[311] 10.31:ガス記念日 仲寒蝉選 2005年10月31日 (月)【天】
ガス記念日の巴里は燃えているか 媚庵
【地】
ガス記念日するめと海苔が遠巻きに ミキ
【人】
なかんづくガス記念日の妬心かな きみえ
【佳作】
ためらいていわぬ一言ガス記念日 谷口純子
こしやくな缶詰ガス記念日の喉元に 島田牙城
ガス記念日や叱られながら犬が来る 春畑 茜
ガス記念日皇帝円舞曲は大広間で 望月暢孝
日中友好ガス記念日掘るが勝ち 春おぼろ
考へてみたこともなきガス記念日 流鬢力
天然のガス記念日の豊肥線 まなぶ
【選評】
天の句はルネ・クレマン監督の映画の題名をそのまま用いた如何にも玄人好みの大人の句。パリはジャンヌ・ダルクの昔から何度か戦災の危機に直面してきた。ガスとの関わりからするとこの映画の時点(つまり第2次世界大戦の連合軍によるナチスからのパリ開放)よりも19世紀のパリ・コンミューンの頃の方が似合っている気もするが。それでもガス灯の火にはパリが似合うし、パリは「パリ」でなく「巴里」と書かなくては。
地の句はするめと海苔の気分になって恐れおののいてガスの火を見つめている光景。実に俳味があっていい。
人の句の「なかんづく」の大仰さ、ガスの火と妬心、手練の句だなあと感心。
佳作。
「ためらいて」は胸に秘めた気持とちろちろ燃えるガスの炎。
「こしやくな」缶詰とは中々開かぬそれか、喉元に突き付けるのは缶切か。
「叱られながら」来る犬とガスとの微妙な関係。
「皇帝円舞曲」はガス灯の時代の宮廷にこそ相応しい。
「日中友好」は痛烈な皮肉、天然ガスをめぐる国同士の争い。
「考へて」みたこと確かに余りないよなあ。
「豊肥線」は無論「放屁せむ」との駄洒落、痛快痛快!
【選者詠】
ガス記念日の巨大な蚊遣豚 寒蝉
[310] 10.30:初恋の日 仲寒蝉選 2005年10月30日 (日)【天】 初恋の日や理科室の闇育つ 中村安伸
【地】 電話機に重さありけり初恋の日 大西龍一
【人】 しんしんと初恋の日が痛みだす ほにゃらか
【佳作】
初恋の日へとんぼがへりの指傷む みずき
初恋の日不意に天使の薨りぬ 紅椿
初恋の日そつと買ひ置く傷薬 月野ぽぽな
夫の立てる煎餅の音 初恋の日 緋色
初恋の日やはづかしき献立表 櫂未知子
鹿鳴くや初恋の日の木の机 坂石佳音
初恋の日のあたたかき新蕎麦よ 正美
【選評】
初恋とはくすぐったく恥ずかしいもの、懐かしいもの、そうして少し苦いもの。概ねこの範疇から出ていない句が(自分の作も含め)多かった中で天の句のデモーニッシュな雰囲気に惹かれた。個人的に理科室の闇で何か特殊な経験をされたのか(それでもいいが)、でも一般的な意味に取っておこう。人を恋すると真の恐さを知るもの。それこそ理科室の闇に象徴される世間或いは世界の不気味さではないか。
地の句は真っ先におおっと惹かれた句。なるほど電話していてその受話器の重さを知り初めるのは初恋の時かもしれない。ただ「電話機」というと(携帯電話ならいいかもしれないが)あの黒くて大きなダイヤル式の器械全部を指すのでは?ここは字足らずは何とかするとして矢張り「受話器」と言うべきでは?
人の句はごくまっとうな初恋の感慨。ただ「しんしんと」の措辞の現実感と心や身がではなく「日が」痛みだすとの言い回しに感心した。
佳作。
「とんぼがへり」は好きな人の前で無理したのだろうか、後から痛む指に初恋の切なさが。
「不意に」は初恋の終わりの瞬間。
「そつと」傷薬を買ってどこに塗るのか、心には塗れやしまいに。
「夫の」立てる煎餅の音に夫が初恋の相手なら幻滅、そうでないならその相手がますます光り輝いて見えることだろう。
「はづかしき」対象が献立表という奇抜さがいい、その時は精魂こめて作ったつもりなのに後から思うと赤面もの。
「鹿鳴く」は実に伝統的な鹿と恋の組合せ、ただ木の机という物を持ってきて多くを語らなかったのがいい。
「新蕎麦」は初恋の人とでも食ったのか、またはいま新蕎麦を食いながら初恋の暖かさをしみじみ思い出しているのか。
【選者詠】
初恋の日や人生は恥ばかり 寒蝉
[309] 10.29:ホームビデオ記念日 仲寒蝉選 2005年10月29日 (土)【天】
ホームビデオ記念日旗と空ばかり 春畑 茜
【地】
ホームビデオ記念日凹みはあたたかい 月野ぽぽな
【人】
両陣営の対決・巌流島でホームビデオ記念日 望月暢孝
【佳作】
ホームビデオ記念日ベータの恨みあれ 媚庵
ホームビデオ記念日念をおしている 谷口純子
お宝映像積んでおくばかりホームビデオ記念日 流鬢力
ホームビデオ記念日は三倍モードの夜 中村安伸
ホームビデオ記念日畳を裏返す 信治
泣きながら頬張るホームビデオ記念日 櫂未知子
ホームビデオ記念日未来をちよつと早送り きみえ
【選評】
天の句は運動会のビデオ撮りだろうか、知らぬ間にオンとオフが逆になっていて肝腎の好シーンを撮り逃がし後から見たら万国旗と青空しか写っていないという経験、私にもありました。悔しさよりその風景の静謐さに打たれたように詠んでいるのがいい。
地の句は最初ビデオカメラのボタンの凹みかとも思ったが何も限定することはなく「凹みというものは暖かいものだ」との感慨と取った方がいい。盆地は地球の凹み、お父さんの居場所はソファの凹み、子供の笑顔には笑窪という凹みがあって我々を和ませてくれる。
人の句の大見出し風の表現が真面目なほど可笑しみを際立たせる。確かに武蔵と小次郎の時代にホームビデオがあったならさぞかし面白かったろうなあ。両陣営の記録係がどちらの太刀筋がどうのと後で問題になった時のためにいい場所に陣取ってビデオを回し合っていたりして。「これは武蔵の櫂が眉間に決まってますねえ。いやあ痛そうだ」などと。
佳作。
「ベータの」恨みはあるだろうなあ、企業そのものよりソニーを信じて買った消費者の方にね。
「念を」何に対して押しているのか、たぶんビデオを撮り慣れないお母さんにお父さんがここはこうやって撮るんだからね、いい場面を撮ってよ、と。
「お宝映像」は撮るだけで中々見直さないんだよなあ、結局お蔵入り。
「三倍モード」かと思うと時間が惜しくて夜に慌てて見直す、これもよくある。
「畳を裏返す」はかなり離れていて面白かったが着いていけなかった。
「泣きながら」頬張っているのはビデオの中の子供、今の私?
「未来を」早送りという気の利いた表現に感心。
【選者詠】
人が目を失ひホームビデオ記念日 寒蝉
[308] 10.28:日本のABCデー 仲寒蝉選 2005年10月28日 (金)【天】
トランプは全部横向き日本のABCデー 大西龍一
【地】
日本のABCデー恋文の誤字脱字 紅椿
【人】
日本のABCデー塵も積つて玉となる ひらくに
【佳作】
日本のABCデーをプッチーニの楽章に みずき
日本のABCデーの発表数字アレキサンダー・ボナパルト・シーザーもびっくり 望月暢孝
XとYなかよく日本のABCデー 青榧
日本のABCデー知恵熱なり 緋色
日本のABCデーほなこれ返品な 坂石佳音
日本のABCデーUFJへ まなぶ
日本のABCデー虫と思つたらルビだつた きみえ
【選評】
この日は「ABC(新聞雑誌部数監査機構)が日本で誕生した日を記念して設けられた日。日本ABC協会は、新聞や雑誌などの発行部数を調べて正しい部数を発表する機関で、その数字は広告取引などの基本となるものだけに、果たす役割は大きい。」だそうであるがこのままの意味合いで詠まれた句は少ないようだ。まともに詠むと難しすぎる。うまく外した句にいいのが多かった。
天の句の全部横向きになったトランプが象徴するものは?監査ともマスメディア、広告とも余り関係なさそうなのだが全然ないとも思われない所が魅力。第一全部横向きのトランプというイメージが壮観ではないか。
地の句はメディア→印刷→文字という発想。本当に恋文の誤字脱字はみっともない。でも緊張しているから間違えまいと思えば思うほど却って間違える。
人の句。塵は積って山になるのでなく玉になるという。塵のような情報でも集まれば大切な宝物という訳だ。
佳作。
「プッチーニ」はマダム・バタフライかラ・ボエームか、離れ具合がいい。
「発表数字」の大層な歴史上の人物3人を並べた馬鹿馬鹿しさがいい。
「XとY」はABCからの発想だろうが染色体→男と女という所にメッセージが、但し少し甘い。
「知恵熱」の離れ具合もまた絶妙。
「ほなこれ」の大阪弁もさることながら返品される雑誌が哀しい。
「UFJ」もABCからの発想だろう、一寸イージーだが広告と銀行とで全く無関係でもない、いっそJFKの方が面白かったか。
「虫と」の阿呆らしさには笑わされる(老眼の私には深刻)。
【選者詠】
日本のABCデー読むのは見出しのみ 寒蝉
[307] 10.27:テディベアーズデー 仲寒蝉選 2005年10月27日 (木)【天】
その子は食べませんテディベアーズデー 櫂未知子
【地】
カタカナで発音してねテディベアーズデー 青榧
【人】
テディベアーズデーにこにこと股火鉢 信治
【佳作】
水筒の水飲むテディベアズデー 媚庵
テディベアーズデー米なんぞ零しゆく 島田牙城
塩むすび大好きな子にもテディベアーズデー ほにゃらか
テディベアーズデー暖房を入れ初むる 雪うさぎ
テディベアーズデー居候の三膳目 緋色
子でもあり兄妹でもありテディベアーズデー まなぶ
お風呂場でうたた寝テディベアーズデー きみえ
【選評】
天の句のぶっきらぼうな言い方に惹かれる。「その子」は誰?テディベアを持っている子か、それともテディベア自身なのかも。テディベアと一緒に晩餐の席に着いていたら給仕がテディベアの前に皿を置こうとした、すかさずこの台詞。人形だから飯は食わんわな。またこういう取り方もある。テディベアも一応は熊だからね、一緒に連れ歩いていたら誰かが恐がったからすかさずこの台詞、つまりこの子は人間を食べたりはしませんよと(普通見れば分るけど)。何にしてもどこかとぼけていて面白い句だ。
地の句も別の意味でとぼけている。いくら西洋出身でもテディベアと書くにしても「カタカナで発音」とはどういうことだ?表記と発音とは別、平仮名だろうが漢字だろうが日本語の発音に違いはあるまい。それでも敢えてこう言われると(この台詞もテディベアのものか)納得してうっかり「うんうん」などと言いそうになるから不思議だ(誰も言わんか)。
人の句の股火鉢は矢張りテディベア自身がしているのだろう。だってあのY字型の脚の間に火鉢がうまくはまり込みそうではないか。いいなあ。
佳作。
「水筒の」水を飲むこととテディベアの間に関係が薄いのがいい。
「米なんぞ」こぼすのもテディベアとは関係なし、でも水筒も米こぼしもテディベア自身の行為のように思えて微笑ましい。
「塩むすび」が似合う生粋の日本人の子供もテディベアのファンだったりする。
「暖房」を入れ始める季節がテディベアにはお似合い、できれば暖炉か薪ストーブでね。
「居候」が三膳目を食うのをテディベアが見ている。
「子でも」兄妹でもあるのは勿論テディベア。
「お風呂場で」うたた寝する子はテディベアが大好き。
【選者詠】
プーさんが妬くテディベアーズデー 寒蝉
[306] 10.26:柿の日 仲寒蝉選 2005年10月26日 (水)【天】
柿の日の南の家族沈みだす 島田牙城
【地】
柿の日のひと枝ほどが時雨れだす みずき
【人】
柿の日や虫垂炎を切られける ほにゃらか
【佳作】
柿の日はカラスの予約を受け付ける 望月暢孝
柿の日や万葉人のまり遊び 紅椿
柿の日や一生懸命穴を掘る 月野ぽぽな
柿の日やああ大腸癌健診 青榧
柿の日や新戦術をかんがへる 春畑 茜
石室に隠れて柿の日の暮るる 中村安伸
柿の日やましらも臼もをる在所 坂石佳音
【選評】
天の句、意味不明ながら物凄い引力を持っていて迷わず天。そもそも南の家族とは?普通に考えれば柿の木の南に住む家族なのだろうが「南国に死して」など日本人にとって南は憧れ(ニライカナイ)とともに痛恨の方角でもある訳だ。いずれにせよ、その家族が沈みだすとは。文字通りに地震か何かで家ごと沈むのか、抽象的な意味に取って没落ということなのか。柿の日との関係も色々考えさせられる。柿と言えば子規、妹律をはじめその家族、法隆寺の句からは奈良の風景も浮かんでくるので南は奈良すなわち南都かも。
地の句は伝統的な匂いのする句だが「ひと枝ほどが」という嘘が(いくら時雨が局所的でも一本の枝のみってことはないだろう)却ってリアルな感じを出している。
人の句は柿の種を飲み込んだら虫垂炎になるという俗信から来るものか。「切られける」と言いながら余り深刻ではなく自慢気にさえ聞こえるのが可笑しい。
佳作。「カラスの」予約を受け付けて柿の実を順番にという逆転の発想。「万葉人の」まり遊びといえば大化の改新前に中大兄皇子が中臣鎌足と話をするきっかけになったという蹴鞠が思い浮かぶがあれは確か槻の木の下だったか。「一生懸命」なぜに穴を掘っているのか、考えると夜も眠れなくなりそうな柿の日であった。「大腸癌検診」と柿の関わりもよく分らないだけに感嘆詞の大袈裟なのがうつろに響いてよい。「新戦術」って何?猿蟹合戦と関係あるのかなあ、これもまた分り辛いところが魅力。「石室に」は関西出身者にはよく分る、古墳の石室は格好の隠れ家、近くには柿の木も多くて、ああ懐かしい。「ましらも臼も」は勿論猿蟹合戦だが在所がうまい。
【選者詠】
昇(のぼ)さんをお呼び柿の日ぞなもしと 寒蝉
[305] 10.25:民間航空記念日 仲寒蝉選 2005年10月25日 (火)【天】
鯛焼も飛ぶ民間航空記念日 青榧
【地】
民間航空記念日曇ときどき姉 中村安伸
【人】
民間航空記念日パンツには名前を 信治
【佳作】
民間航空記念日を吊す百葉箱 みずき
戯るを「じゃる」とふなかれ民間航空記念日に ほにゃらか
民間航空記念日ひらひら裳裾ゆたかなれ 望月暢孝
民間航空記念日を再点検 月野ぽぽな
手入れする肩甲骨や民間航空記念日 ミキ
民間航空記念日律儀に鶴を折る 緋色
ちよつと買い物民間航空記念日 まなぶ
【選評】
天の句、そりゃあ鯛焼を持って飛行機に乗れば一緒に飛ぶことにはなるがこの句は勿論そういう屁理屈ではない。泳げ鯛焼君があるのだから、また空飛ぶ豚がいるのだから空飛ぶ鯛焼があってもいいじゃないか。こういう発想自体楽しいし、公営でなく民間ならではとも言える。
地の句の意味不明の唐突な「姉」が利いている。摂津幸彦の「姉にアネモネ」も思い合わされ、何やらシスターコンプレックス的なこの変な天気予報(民間航空機の機上から雲を見ての予報か)が好きです。
人の句は初めての飛行機旅行なんでしょうかねえ。小学校の修学旅行のときに先生や親から言われて一枚一枚パンツに名前を書いたのを思い出す。
佳作。「百葉箱」は吊るされているのが記念日そのものという点がとてもシュール。「戯る」は宿敵JALを想定しての駄洒落。「ひらひら」は綺麗な句、大韓航空のチマチョゴリを思い出す。「再点検」はこれ程飛行機事故が重なってはねえ、民間もJALもなく真剣にやって貰いたいもの。「手入れする」のは翼の生え際、イカロスかはたまたハウル(「ハウルの動く城」の)か、夢がある。「律儀に」鶴を折っている情景がいじらしい。「ちょっと買い物」と飛行機に乗って行ける身分の人はそんなに多くないと思うが、本当の金持ちは自家用飛行機で行くんだろうな。
【選者詠】
民間航空記念日零戦の夢 寒蝉
[304] 10.24:文鳥の日 仲寒蝉選 2005年10月24日 (月)【天】
銀色に爪塗りおえて文鳥の日 谷口純子
【地】
あやとりで作る鼓や文鳥の日 紅椿
【人】
文鳥の日小首かたぶけ笑ふ癖 坂石佳音
【佳作】
文鳥の日や谷底の大工さん 島田牙城
妹は好戦的なり文鳥の日 流鬢力
文鳥の日のしをらしき酔つぱらい きみえ
文鳥の日や八角の文机を 中村安伸
桜田門へと乗り過ごしたり文鳥の日 緋色
文鳥の日や華やかなのこりもの 櫂未知子
文鳥の日口論避けて早寝する 正美
【選評】
文鳥と言えば手乗り文鳥。文鳥を乗せる手や鳥の仕草、果ては漱石に「文鳥」という作品があることからそういう連想の句が大半であった。
天の句は手乗りの掌から銀色のマニキュアを塗るシーンを描いたとても静謐で美しい句。爪のことしか言っていないが細い指や小さな手その人の顔まで見えてくるような気がする。「死病得て爪うつくしき火桶かな(飯田蛇笏)」にも匹敵すると言えば褒めすぎだろうか。
地の句も指先の連想から綾取りが出た。鼓はよく知らないが何本かの糸が中心部で鼓のような円形を形成するのだろう。文鳥を乗せた手がそういう緻密な作業をするのは自然だし文鳥が嘴で鼓をたたく場面など想像すると楽しい。
人の句は文鳥の仕草からの発想。この小首かたぶけて笑う人は勿論人間、恐らくは若い女性だろう。文鳥を飼っていてその仕草まで似てきたものか。
佳作。「谷底の大工さん」は文鳥の鳥籠でも手遊びに作っているのか、谷底がリアル。「妹は」は実に面白い、文鳥でも飼えば少しは大人しくなろうものを。「しをらしき酔つぱらい」も面白い、酔って帰宅し誰にも相手にされなくて文鳥に擦り寄る他ないのか。「八角の文机」は漱石からの発想か、最近は俳人でもパソコンさえあれば仕事できてしまうが文房四宝は大切にしたい(短冊も書くしね)、となると矢張り一寸贅沢な文机も欲しい、だが八角のものは寡聞にして知らない。「桜田門へと」は多分地下鉄有楽町線であろうが何故桜田門なのか、文鳥と乗り越しとどう関係あるのか分らないが不思議な魅力がある。「華やかなのこりもの」という措辞が気が利いていて素晴らしい。「口論避けて」は先刻の酔っ払いにも似て男の覚えた哀しい人生の智恵。
【選者詠】
文鳥の日の文豪の古紙幣 寒蝉
[303] 10.23:もめんの日 櫂未知子選 2005年10月23日 (日)【天】
なんどでも許して貰ふもめんの日 信治
【地】
小舟めくアイロン台やもめんの日 きみえ
【人】
もめんの日八掛に秋深まりぬ 百花
【佳作】
しら壁の影が脱けだしもめんの日 みずき
もめんの日光源氏は汗つかき 大西龍一
だれよりもしゃんとしてたいもめんの日 立川なつみ
花もめん花いちもんめもめんの日 望月暢孝
もめんの日右と左に父と母 月野ぽぽな
雑巾の針目大きくもめんの日 紅椿
もめんの日洗いざらしの言葉吐き ミキ
【選評】
吹き出したのは、選外ですが
〈もめんの日絹の褌なんてイヤ 寒蝉〉。
いいじゃないの、たまにはキヌフンを着用してみなさいな。
この句を染め抜いたキヌフンをプレゼントしましょうか。
さて、【天】の信治さんの句、
浮気だの無駄な出費だのを何度も何度も謝っている様子…
ふーむ、それが「もめんの日」…
素朴な手触りの記念日ゆえかしら…
と思っていたのですが、違う!
この句、「御免の日」(があるとすればだけど)
の駄洒落バージョンなのです。
ところが、そうと簡単に気付かせないところが憎い。
数日前の信治さんの句に「ゆびで鯛を釣る」というのがありました。
「竿も餌も使わぬ漁法があるのか」と感心したら、
エビタイだったんですね、エビタイ。
本日のは、エビタイよりも高度で面白かった。で、【天】です。
【地】のきみえさんの句、正攻法で好感が持てました。
【人】の百花さんの句、なんとも上品で素敵。
【佳作】の大西龍一さん、「ウソつきー!」と思いつつ、
よくぞここに源氏を、ということで入選。
望月暢孝さん、大変ややこしい句で面白かった。
【選者吟】
オイスターソースさびしきもめんの日 櫂未知子
[302] 10.22:パラシュート記念日 櫂未知子選 2005年10月22日 (土)【天】
パラシュート記念日着地までの恋 百花
【地】
饅頭も蜘蛛も恐ろしパラシュート記念日 大西龍一
【人】
パラシュート記念日や妻子を忘れ 信治
【佳作】
パラシュート記念日すこし貯金する 谷口純子
パラシュート記念日汲み上げ湯葉の至福かな 流鬢力
パラサイト元気でパラシュート記念日 青榧
パラシュート記念日引力と遊ぶ きみえ
パラシュート記念日モンローのひと揺すり ミキ
丸めたる紙屑のパラシュート記念日 まなぶ
パラシュート記念日子らみんな口あけて 坂石佳音
【選評】
パラシュートそのものに引きずられたかな、
という句が多かったみたい。
〈パラシュート記念日だからスカートで 立川なつみ〉
〈パラシュート記念日の流行のスカートです 望月暢孝〉、
惜しかったなあ。スカートをはいて降下するのは、
発想としてはなさそうでけっこうあるんです。
そうだ、広げると全円になるスカートもあるけど。
【佳作】のミキさんのように一ひねりするのも面白いですよ。
流鬢力さんの句も凄いですね。
よく考えると、「汲み上げ湯葉」は
着地した時のパラシュートに似てなくもない。あ、よく似てるかも。
【天】の百花さんの句、
私はふだん「恋」が入っている句は取らないのですが、
これは切なく素敵な句だわ。
【地】の大西龍一さん、マンジュウは本当は怖くなく、
でも蜘蛛は大嫌い、という心理でしょうか。
そして、パラシュートを試すのは怖い?怖くない?どっち?
私は高所恐怖症ですので、一生駄目です。
【人】の信治さん、
なんだかはればれしててこの記念日にぴったりでした。
【選者吟】
雨の味ほのかにパラシュート記念日 櫂未知子
[301] 10.21:あかりの日 櫂未知子選 2005年10月21日 (金)【天】
内臓を雨に濡らしてあかりの日 中村安伸
【地】
まず闇を用意したまへあかりの日 信治
【人】
蟷螂と妻の関係あかりの日 青榧
【佳作】
あかりの日爆音ひとつふたつみつつ 大西龍一
しなやかに曲がる肢体やあかりの日 紅椿
魔神には髯のありけりあかりの日 谷口純子
キャバレーの前のおつさんあかりの日 島田牙城
あかりの日縹の帯の本を閉づ 春畑 茜
スフィンクスの謎に嵌りてあかりの日 正美
不夜列島不眠列島あかりの日 雪うさぎ
【選評】
選外の〈障子穴居間から漏れるあかりの日 ひらくに〉、
上五が惜しいなあ。もったいない。
〈エジソンもニコラ・テスラもあかりの日 媚庵〉、
テスラを私は知らなかったのでありました。勉強になりました。
【佳作】の大西龍一さん、灯火管制を思ってるのかな。
紅椿さん、覗きの句のようで面白い
(あ、皆さんはなさらないように)。
島田牙城さん、大変情けなく、そして印象的な句でした。
「さんざんキャバレーのオネエサンに貢いだオジサンが、
金が無くなり、女房にも愛想を尽かされ、
オネエサンにも邪険にされ、
店に入りたくても入れない、ああ、無情」
という華麗な景が目に浮かびます。
春畑茜さん、「縹(はなだ)」を出してくるとは心憎い。
【人】の青榧さん、
「奥さんはカマキリなのだろうか」と考えてしまいました
(そういえば、そういう映画シリーズがかつてありましたね)。
【天】の中村安伸さん、一瞬、
グロテスクな感じを受けたのですが、
なんとも奥行きのある句で。
【地】の信治さん、実は最初、【天】の予定だったのです。
だって、カッコいいんですもん。
ところが、「まず」は旧かなでは「まづ」じゃないと…。
盛大に泣いてくださいね。あはは。
【選者吟】
この刺身ほんものかしらあかりの日 櫂未知子
[300] 10.20:新聞広告の日 櫂未知子選 2005年10月20日 (木)【天】
夜の鹿荒々しくて新聞広告の日 正美
【地】
新聞広告の日首相の顔の実物大 百花
【人】
新聞広告の日常連の席のあの女 望月暢孝
【佳作】
発の字の断端ありぬ新聞広告の日 大西龍一
ゆらゆらと新聞広告の日のやじろべえ 谷口純子
新聞広告の日カステラを切りませう 春畑 茜
新聞広告の日中将姫の笑顔など 雪うさぎ
内縁の迷子の猫や新聞広告の日 青榧
新聞広告の日ゆびで鯛を釣る 信治
家計にもゴミにも夢にも新聞広告の日 まなぶ
【選評】
選外で、〈弁当箱取り出す新聞広告の日 媚庵〉
〈弁当の汁の滴り新聞広告の日 紅椿〉、
そして、〈爪切りがぱちんぱちん新聞広告の日 あまっとう♪〉
〈一生に伸びる爪の長さは新聞広告の日 緋色 〉がありました。
前者はかつて弁当の包みとして使われた新聞、
後者は爪関連(現在は爪の飛ばない爪切りがありますので、
こういう状況は減ったかもしれません)。
素材が似ている句同士がぶつかると損をしますので、
もう少しずらしてみてはいかがでしょう。
また、〈ある新聞広告の日の途中下車 月野ぽぽな〉の「ある」の位置、
下五の「途中下車」から遠すぎるような…惜しいなあ。
すごくいい内容なのに。
【佳作】のまなぶさんの句、わかるようなわからないような。
句意ははっきりわかったわけではないのですが、その謎を買いました。
【人】の望月暢孝さん、なんとまあ憎憎しげな句でしょう。
お店の掟を破ったんですね、彼女。
【地】の百花さん、私いつも思うんです。
新聞雑誌にカラーででかでかと顔の出る人って
どんな気分なんだろうって
(後で、舗道で自分の顔が踏まれてたりしたら寂しいですよね)。
この句は思い切った句で面白かった。
【天】の正美さんの句、かっこいいですね。
即、天に決定しました。
【選者吟】
新聞広告の日のとろろこんぶをかなしむ 櫂未知子
[299] 10.19:土井晩翠忌 櫂未知子選 2005年10月19日 (水)【天】
秋風の四畳半土井晩翠忌 青榧
【地】
月出して土井晩翠忌あかるくす 月野ぽぽな
【人】
眉月も弓張月も土井晩翠忌へ ミキ
【佳作】
ゆふやみへ土井晩翠忌の書を灯す みずき
賭博猫浪漫猫土井晩翠忌 媚庵
自鳴琴まはる土井晩翠忌の夜 春畑 茜
月の城址でがなるロックよ土井晩翠忌 望月暢孝
闇酒も嬉しい土井晩翠忌 正美
半島を巡り巡りて土井晩翠忌 まなぶ
かわたれを土井晩翠忌の影ぬくむ 緋色
【選評】
選外ですが
〈「どい」でなく「つちい」だってば土井晩翠忌 寒蝉〉
には笑いました。
「どっちだったっけ?」と迷いますよね、この人の名は。
辞書を引くと、「どい」でも「つちい」でも
いいかのようなことになっていて、ますますわけがわからん。
同じく選外ですが、
〈土井晩翠忌櫂未知子との共著 島田牙城〉も笑いました。
そうなのです、何の因果か、
『第一句集を語る』(角川書店・税込み2100円)という本を共著で出すはめになったのです
(12名の共著)。
他の十名の先生方はまっとうなのですが、
なんでガジョウさんと…。まあ、人生いろいろですので。
【天】の青榧さんの句、レトロでちょっと色っぽくて素敵ですね。
【地】の月野ぽぽなさん、「月の出て」じゃないところがいい。
月を積極的に「出し」ちゃうんですものね。
【人】のミキさん、句の形が面白い。
この記念日(忌日)はなかなか優美な句が揃いました。
選外にするのが惜しい句ばかりでした。
【選者吟】
かまぼこは厚めに土井晩翠忌 櫂未知子
[298] 10.18: 冷凍食品の日 櫂未知子選 2005年10月18日 (火)【天】
冷凍食品の日くれなゐの尾がのこる 春畑 茜
【地】
風呂を焚く冷凍食品の日なれば 信治
【人】
冷凍食品の日貼られしままの献氷祭案内 流鬢力
【佳作】
出口にて冷凍食品の日を眠る 島田牙城
冷凍食品の日のパパはなんでも知っている 媚庵
磯野家の謎もしりたり冷凍食品の日 谷口純子
冷凍食品の日の肉と骨はそも誰ぞ 望月暢孝
冷凍食品の日コロツケで釘を打て 寒蝉
併殺をくつて冷凍食品の日 青榧
机には小さき硬貨冷凍食品の日 大西龍一
【選評】
面白い記念日でした。
【佳作】の島田牙城さんの句、
「え、どこの出口?」と一瞬戸惑います。
媚庵さん、谷口純子さん、うむ、冷凍庫も結構ヤバい空間ですよね。
何が押し込められてるかわからないし。
望月暢孝さんの句はコ、コワすぎかも。
【天】の春畑茜さんの句、ちょっと怖くて美しい。
いいなあ、こういう句。悪魔のしっぽかしら。
【地】の信治さん、お風呂はこの記念日でなくとも焚くものですが、
こう悠々と詠まれると「そうか!この日だから焚くのか!」と妙に納得。
【人】の流鬢力さん、たしかに家庭の冷蔵庫(冷凍庫)って
役に立つのか立たないのかわからないものを、
よく貼ってありますよね(壁に貼ってあるのかもしれないけど)。
うらぶれた貼り紙という感じがして大変よいと思いました。
それが「献氷祭案内」だというのが何気なく凝ってて笑えます。
それにしても、マイナス18度だから18日が記念日……
うん、この決め方は悪くないか。
【選者吟】
本日は華麗に鰈に冷凍食品の日 櫂未知子
[297] 10.17:カラオケ文化の日 櫂未知子選 2005年10月17日 (月)【天】
萎びたるピザ食ひカラオケ文化の日 寒蝉
【地】
じよんじょ履きに巾着カラオケ文化の日 坂石佳音
【人】
両親の血圧 カラオケ文化の日 ほにゃらか
【佳作】
つまみ無き午前三時やカラオケ文化の日 大西龍一
大宝律令あはれカラオケ文化の日 媚庵
デュエットの準備整ふカラオケ文化の日 まなぶ
舞ひ戻るインコカラオケ文化の日 きみえ
瀧のやうにマラカスカラオケ文化の日 中村安伸
婚約指輪なくすカラオケ文化の日 正美
甘辛の味なりカラオケ文化の日 春畑 茜
【選評】
カラオケにぴったりついた句にするか、
それとも、一見無関係のものを配して詠むか。
うーん、選の難しい記念日でありました。
選外の〈カラオケ文化の日や山の燃ゆ 紅椿〉、
いいなあと思ったのですが(「天城越え」かしらん)、音数が足りない。
もう少し言葉を足すと迫力あるすごくいい句になります。
【天】の寒蝉さん、「うう、これってわかる…」と感動。
最近はどうなっているかわかりませんが、
カラオケボックスの食事メニューって結構わびしい。
あるいは歌うのに忙しくて飲食はおろそかになり、
ピザパイもいつの間にかぐったりしていた、という景でしょうか
(【佳作】の大西龍一さんの句は、しなびたピザもないという景ですね。
そっちもわびしくて素敵だった。)
【地】の坂石佳音さん、
「じよんじょ」ってサンダル・草履・つっかけのことを指すんですね。
楽しい句でした。
【人】のほにゃらかさん、大変難解で笑えます。
【選者吟】
ジャーマンポテト追加お願ひしますカラオケ文化の日 櫂未知子
[296] 10.16:まごの日 櫂未知子選 2005年10月16日 (日)【天】
まごの日や千年灸の白けむり 媚庵
【地】
まごの日のとびだすえほん飛び疲れ きみえ
【人】
ぬぬぬぬとまごの日の猫伸びにけり 月野ぽぽな
【佳作】
まごの日や噛むほどにうまき赤こんにゃくよ 流鬢力
まごの日に濃淡ありき祖父母四人 望月暢孝
まごの日や青きシートで亀を飼ひ 紅椿
まごの日やつづらに赤と青ありぬ 春畑 茜
まごの日や祖父母の写真に赤子古り 百花
まごの日の闇を拡げてゐる手指 中村安伸
老子読むほどに分らぬまごの日 正美
【選評】
出句数が少なかった割りには取りたい句の多い記念日でした。
選外になったけれど、
〈まごの日に通用する券しない券 ほにゃらか〉
〈まごの日の案外よろしき柔軟体操 緋色〉
はなんとものどかな味わいがあり、
〈まごの日にまこと大きな鞄買ふ 信治〉は
のんびりしてそうで不穏な感じがありました。
今日は入選作と選外句の間に差はほとんどありませんでした。
【天】の媚庵さんの句、なんとも形がいい。
定型感覚のみごとさの勝利ですね。
私は肩凝り女ですので、あらゆるものを試しております。
【地】のきみえさんの句、おお、子供時代を思い出す〈とびだすえほん〉!
ちょっと高価でこころときめく絵本でした。
でも、〈飛び疲れ〉とは思いつかなかった…。
【人】の月野ぽぽなさん、上五、抜群。
【佳作】の流鬢力さん、すさまじき唐突感です。
【天】にすべきかどうか迷いました。
【選者吟】
旨さうな赤ん坊ゐてまごの日よ 櫂未知子
[295] 10.15:たすけあいの日 宮崎二健選 2005年10月15日 (土)【天】
たすけあいの日ではなくてもたすけてね 立川なつみ
【地】
たすけあいの日に怠けてゐるわたし きみえ
【人】
たすけあいの日わたしのことは放つといて 寒蝉
【佳作】
ラジオ体操第二たすけあいの日 紅椿
ひらがなが希薄なたすけあいの日 雪うさぎ
たすけあいの日の鮫とこばんいただき ミキ
たすけあいの日ガムテープを上手く剥す 信治
紙捨てる人拾う人たすけあいの日 春おぼろ
たすけあいの日ガンダムの勢揃い 春畑 茜
白々とたすけあいの日の東雲 淡々
【選評】1965年(昭和40年)12月に開かれた全国社会福祉会議で
決められた日で、日常生活での助け合いや、地域社会への
ボランティア活動を積極的に進めることを呼びかける日。
善意の活動をも諧謔すべき俳人は、只の善人風情ではつまらない。
批判や揶揄や皮肉で表を塗り固めても、諧謔の深みには到達しえない。
人というものの思いや為す様の根底たる性や業の滑稽を拾い出し、
一行の句に成せば、俳句というものになる。
さて、俳句のテーマとしてお誂え向きの今日の記念日が、
どう料理されたか興味深々だった。
天地人を、軽い乗りの口語調俳句が占めた結果となった。
あえて平仮名表記の記念日名ゆえ、マッチするものと思う。
しかし、現仮名の題に、旧仮名を混ぜるのには違和感を禁じえない。
このことはルール違反ではないので、拘らず選句させて頂いた。
【天】なつみ氏、何のてらいもなくそう思われたのだろう。
優しい女言葉の頼みごとに滑稽が充ち、
やがて哀しきイロニーの花園へと導いてくれる。
近作の拙句「父の日だけが父ではない」と同類だ。
【地】きみえ氏、題を食って自己憐憫の可笑しさをものにした。
【人】寒蝉氏、これまた個人的な気持の一言だけの面白さ。
俳句をやり過ぎて頭脳が賢くなってしまうと、
こういう愚稿(失礼)を認められないものだ。作者も選者も。
【佳作】
・紅椿氏、きりっとしていて良い感じ。17音ぴったし。
・雪うさぎ氏、ご最もらしいが暗喩として生きている。
・ミキ氏、コバンザメを切り離して運転再開したのか。
・信治氏、ささやかな達成感に小さな幸せを感じえた。
・春おぼろ氏、ぶっきらぼうに人の行動比較する俳眼。
・茜氏、思わぬ時に思わぬものの夢が叶うこともある。
・淡々氏、「白々と」の諧謔が功を奏している写生句。
【選者吟】
綱引きでぶら下がっているたすけあいの日 二健
[294] 10.14:鉄道の日 宮崎二健選 2005年10月14日 (金)【天】
つつしみ深く鉄道の日のゆりかもめ 寒蝉
【地】
鉄道の日の秋草となりにけり 月野ぽぽな
【人】
立ち漕ぎで大きく鉄道の日を揺らす 緋色
【佳作】
鉄道の日を電柱は立つてゐる 春畑 茜
家族合わせて武道十段鉄道の日 春おぼろ
鉄道の日を押しもどす地平線 信治
鉄道の日神馬のなみだ石となる みずき
鉄道の日野菊一つを押し花に 紅椿
鉄道の日親と映るのいややねん 大西龍一
鉄道の日シンセサイザーの不整脈 中村安伸
【選評】明治5年の新暦では10月14日、日本初の鉄道が、
新橋〜横浜間で開業した。大正11年、国鉄が鉄道記念日を制定。
その後「鉄道の日」となったそうな。
そう言えば愚父は、軽井沢と草津を結んでいた一両編成の
通称兜虫と云われた電車の会社の変電所員だった。
私が小学二年の時、父は結核を患って中之条の療養所に入院した。
そこを退院してきたら俳句を覚えてきて、事あるごとに自慢していた。
その事が、その時から35年後に私が俳句を始めるきっかけだった。
その草軽電車は、通学に利用していたが、台風で吾妻川の鉄橋が
流されたりして、小学四年の時に経営難で廃線となってしまった。
【天】寒蝉氏、鉄道に揺られて揺籃から墓場まで。
海外の労働党の掲げたスローガンにも謹み深く。
善意むき出しの何の変哲もないような句だが、只ならない含蓄がある。
無為なる鳥の存在が、いかんなく生かされている。
【地】ぽぽな氏、只の秋草ではなく、鉄道の日の秋草なのだ。
…山口誓子なら、こう評しただろう。
【人】緋色氏、船頭さんの一漕ぎ二漕ぎが鉄道の日を揺らした。
波はなくても大きく揺れた。巌流島の決闘に行くところか。
【佳作】
・茜氏、付き過ぎと言うなかれ。根源を見据えている。
・春おぼろ氏、武道や鉄道において総和は和に通じる。
・信治氏、反作用の元凶は遥か先の地平線だったとは。
・みずき氏、鉄道神話にそういうことがあったのかも。
・紅椿氏、野菊の轢死体などと発展して考える不謹慎。
・龍一氏、良い日旅立ち、自立への親離れに苦笑する。
・安伸氏、機械の擬人化といえば、機関車トーマスも。
【選者吟】
鉄道の日来たよ焚火能撮って 二健
[293] 10.13:さつまいもの日 宮崎二健選 2005年10月13日 (木)【天】
さつまいもの日クノイチ一人潜入 媚庵
【地】
さつまいもの日は蔓の先にブルース ミキ
【人】
壮年もさつまいもの日の滑り台 緋色
【佳作】
偏西風に乗ってのってさつまいもの日 淡々
かつて看護学生さつまいもの日 大西龍一
さつまいもの日貴婦人のコルセット 紅椿
富士山は微塵も見えずさつまいもの日 櫂未知子
さつまいもの日なんといふ底力 春畑 茜
さつまいもの日ざつくりいへば好意です 信治
黄の蝶の石段を行くさつまいもの日 正美
【選評】埼玉県川越市のさつまいもの愛好家のグループが制定した日。
読めば味の出てくる句が多くあった。佳作も負けじと劣らなかった。
さつまいもの日は、面白い光景が浮かびやすい記念日名だ。
【天】媚庵氏、只の報告俳句に見えるが、それで終わっていない。
見事17音での句跨りの句割れの離れ業。そのおりなす緊迫切迫感。
しかし、記念日名からして、コミカルなアニメの一シーンに過ぎない
ことも同時に感受する。省略の効いた深刻と滑稽の佳句。
【地】ミキ氏、どういう思考経路でそうなったのか、蔓の迷路で
立ち往生させられる。
埼玉の畑から、突然台風禍のニューオリンズに飛ばされ、
禍福糾える縄のように、まさにその土着の音楽のように突き抜けている。
【人】緋色氏、滑り台に象徴させられる郷愁や悲哀と、
さつまいもの恍けた印象の配合が功を奏している。
「も」を「や」に変えるとさらによい。
【佳作】
・淡々氏、大げさな気象用語に乗らせた可笑しさ。
・龍一氏、それがどうしたのか、個人的思い入れ。
・紅椿氏、貴賎上下の別は俳の温床。美への諧謔。
・未知子氏、騙されたのか、只の期待過多なのか。
・茜氏、具体物が見えないから勝手に想像しろと。
・信治氏、それを言ったら身も蓋もないと思うが。
・正美氏、確固たる情景描写は俳句の基本路線だ。
【選者吟】
旗日の喪居待つさつまいもの日だわ 二健