わが夢と名付けはぐくむ欲望をひとつふたつと消しゆく歳月

敗戦の記憶を持ちて城山の石垣くずれ夕日に映える

例外のひとつだに無き人の死を受け入れるべく生命科学

呼ぶごとくはためくチラシに鬼怒川の秋へと誘ふ激安ツアー

掟みたいに四つ折りにするハンカチとさみしいといういまのきもちと

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ほんのりと雨の匂いのするスーツあたまあずけていればよかった

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まちがって消してしまったメールにも芒そよいでいたのでしょうか

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昼ふかく蜻蛉のふたつがゆるく描く螺旋の影に取り巻かれおり

たゆたゆと水のお城になっているあなたの前で目を閉じている

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そうですね、たとえば科学館にある化石の貝に陽が射すような

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れいちゃんが鬼ねと言われ鬼として、たぶん今度もまちがうだろう

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風邪声のあなたが語るいちにちは雪、はるかな海に降っては消える

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なきぼくろあるは不幸と姑に聞く六十路の吾にはやれやれ無きよ

じゃがいもの皮剥きながらあきらめるわたしのははもははのわたしも

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薪割りて竈に姑は飯を炊きしがオール電化の暮らしに変わる

グルジアのワインに酔いて恋一つ芽生えたようだ夏の終わりに

振袖を拒みて娘は成人式の祝の終日「罪と罰」読む

越前の蟹取り寄せるは冬季なり竹篭に届くは大和屋なりき

社長なる舅の在りし日はこそ泥棒２回も入りて小便かけゆく

はまらないジグゾーパズルの一片を少年はみな持つやも知れぬ

新しいマンション購うか海外旅行か子らに遺すかパズルの余生

叱られるまで友だちとかくれんぼ朝焼けに似て非なるたそがれ

一夜経て蕾あまねく開きたりむせぶばかりの閨の梅が香

百合の香のほんのりとするボディパウダー夏に嫁げる娘に贈る

葉桜の馬場を吹き行く風の隙嘶きを聴くは幻なるか

官僚の作る原稿読み上ぐると聞きしよりむなし国会答弁

花嫁の乗る馬車リガの街過ぎるどこかの旅で見たるあの馬

１月のシーサンパンナは汗ばめるベーブもありて冷房も入れる

花びらを繰返し繰返しちぎりては迷ふ迷はぬ占いてをり

幻の浴衣姿のおとうとと宵に手向くる線香花火

南風たてるしらぬひ筑紫の浜の辺に若人等浴ぶる飛沫眩しも

横浜の外人墓地に珈琲館一度だけ会ひし人と一度だけ

今見たる夢は重かり汗ばめる浴衣を明けの山風に当つ

ひた走るひとの足音晩秋のマラソンコースに草の種蒔く

うつくしく動かぬ天球座標図のあかい母星あをい父星

ゆで卵するりとむけて輝きぬ日向にひとつ未来を置いて

木香の冬のさみどりこの庭にさやさや咲けばこひびとの静

ながくながく留守のこひびとその庭に薔薇咲くらむか木香の黄の

食べてしまえば欠けること　目を閉じて舐めあうばかりの林檎つるつる

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コーラスにはまった亭主義理よりも友と歌いに行く日曜日

未来っておそらくはまだ光っててだから思うと少しまぶしい

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静物と動物がありどちらにも入りきらないあなたが眠る

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跛行するわたしのリズムで走っていく かたんこととん かたんこととん

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サヨナラのあとから続く一行は紙飛行機の落下速度で

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空間を十字に裂いて外へ行く居留守を使うあなたの気持ち

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こころにも静脈麻酔は効きますか チオペンタールに墜ちてゆく夏

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真っ白な天使のような翼ならつけてもいいな　小悪魔な女（ヒト）

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我は行く前進あるのみ荒波が続くときには即後進

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この胸のもやもや全て白銀のナイフで切れればいいのに白夜

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ケージごといのちの額面記（しる）されて仔猫と子犬がじゃれあっている

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「届いたよ」　ぎゅっとつまった想いたち　今夜は少し泣いてしまう

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暖房がもわっときいた部屋で打つ　はあと　が多め　返信メール

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過たず本心記すといふインク ペン先浸す刹那 戦慄

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フラクタル次元はワケがわからないあらゆるところで微分不可能？

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コンパスのなかに計画封じ込め示せよ今日のやるべきことを

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焦らされて焦らされてまた焦らされて焦らされてまた引っ込んだ主義

部屋ごと連れ去られた悪魔もう開くことのない扉には翼がはへて

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メガホンで量れるものか大声の爆弾に焼け焦げた感情

留守番をしている気分で眠るなら夢も明日も安らかだろう

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これからも空を見上げるだからこそ僕らは翼のいらない動物

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路上には過剰な言葉が慰める新進気鋭の哀しみがある

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ありったけナイフを投げて浩一の右手はたぶんズタボロだろう

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烏干玉のペンギンガムの葬列を届け出ないでそっと離れる

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宛先は未来の自分ていねいに言葉をたたみ投函をせり

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静かなしずかな雪の降る日に見に行こうハッピーエンドのくるみ割り人形

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留守電に着信ありて雨の日は防犯ブザーのやうな傘さす

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子どもができなければ。自由で寛容な妻たち隣町の少子化進む

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二人占めした約束を分かちあう夕映えの海よせてかえして

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宿願の都大路へひた走るたすきに刺さる鬼のメガホン

ナイフではなかつただけどゲートでは軽くとめられた丸いポケット

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届けられ来し皮のバッグは値引き品安物ですなどと言ひ訳をせり

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見せかけの暖炉だけれどそれなりに電熱器ともり秋深まりぬ

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よもやこの都営三田線路上では過ごせぬ雨の夜にはねぐらに

林檎剥くたしかマラソンランナーに憧れていた過去もあったな

スパイではなかったけれどあっけなく頚動脈の断たれていたり

「すばらしい未来」はすでに潮風のなかで壊れていると信じる

紅葉は舞い散る前の胸騒ぎ　今宵、化粧にグロスの艶を

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平静を装っている梟の青龍刀のごとき怒りよ

何十回「♪線路はつづくよ、どこまでも…」抱いて眠った日から幾年

音楽が嫌いになったきっかけはオタマジャクシの天婦羅だった

「ふくろうにどうして気づかないのか」と留守番電話にみみずくの声

１０：４２中二の娘はなお眠る通学鞄開けっ放しよ

右翼ではない左翼とも違いますただ鳴き砂を踏んでいるだけ

豚にある未来を鍋で煮るひとの背中に髪が今日までとどく

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蟻の行進を見ている　きのうから気球のような顔なんですが

万緑の轟く朝よバタフライナイフはどこで売っているのか

絵葉書が届く「こちらはいつまでも春のようです」ゼンブウソデス

寒暖の差の激しさもなにもかも含め合衆国を愛せよ

冬枯れの林のように生えている腕、腕折れて「オイデ」「オイデ」　

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人生が薔薇色だからしかたない東京湾にびっしりと霧

岡村家秘伝の巻物にたしか「卵の割りかた」がありました

景品のあふれる鞄持て余し飯坂発見るからに場違い

線路には見えないみちを濡らす川　土曜ダイヤの静岡行きが

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偏食の激しい男の子だから水瓶座とは相性がいい

なにをやっても続かないねと両足を投げだす　外はひたひたと雪

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冬の陽が転がっている麻酔から覚めないままのきみの窓辺に

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両の手を額にかざす七月はくるしいほどのまぶしさでいる

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掠れつつ伝わる言葉、便箋の青いインクのその筆跡の

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「時そば」を演る前座にも原石をたまに発見それが生き甲斐

胸元にキャベツ寄せればうすみどりの透けてすけてく見るのが怖い

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探偵も暇な一日は木洩れ日の珈琲テラスにゐるかもしれぬ

いくつかの次元を試すかたちして鏡の中のアンドロギュノス

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烏山、飛鳥山、ひばりが丘と翼焦がれて一世過ぎなむ

禁色の色許されし君を想い宮居に摘める紫の草

逃げ水は海までつづく嘘だよと進行方向変へるときいふ

旧校舎レンガの威風そのままにインクの脇の文鎮の中

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秋の空いづれの雲もナイフにて深手浅手を負ふて流るる

遠浅の海より届く白き貝　問ひは答へに答へは問ひに

この先を曲がれば薫る沈丁花けんぱけんぱで近づいてゆく

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根は土にふかく還りて暖かし木はどこまでも自由であるよ

ネブ・ケペル・ラーの棺に添えられた矢車菊の花束のこと

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時すでに遅くふたりはねんごろに「何ヲ今サラダカラ言ツタロ」

外堀が干上がるほどに燃え盛る太陽の罠　水をください

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冷淡な母にサラダを丸齧り今朝の「ハルカ」は塩味少々

引越しの荷物を出した六畳の四隅が見えて春近き日の

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ズビズビと柵飛び越えてやってくる粋なスーツのショウリョウバッタ

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ブルースのつぼみっちりとねっとりと淡谷センセイあわや専制

幸福の虫スカラベの名を持ちて消されし若きファラオのマスク

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ふぞろいな石の積まれた城壁に背中あずけてあなたを見れば

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授業より怪談が人気でしたね科学教える阿久津先生

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ゴール前親戚らしき顔ばかりそうか人生マラソンだったか

のぼりざか洗濯日和になるらしい曇天向こうにころがる車輪

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それでは勝利に沸きます鬼ヒトデ陣営から中継します

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自動車が増えているので人間が繁殖しないで済んでおります

コスモスが未来を語る瞬間をやっとカメラでつかまえました

吊り橋の途中で霧になる夢はひとり静の花のみぞ知る

風邪声の君の「ス」も「キ」も擦れてて月の溶けだす土曜の夜の

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留守番が好きな夫婦は寝る前に明日の出番を籤で決めてる

次元から次元へ渡りゆくような足取りでバス停を離れる

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何もかもうまくいく気がして今夜のじゃがいもスープの塩加減

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カルガモは翼もあるし水掻きも愛嬌もある何がないのだ

アシカもアシカ飼育係も曲芸を忘れて空の翳りを仰ぐ

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侵略の頃に生まれた関係で三男「進」と付けたようです

透きとほる色に戸惑ふ露天風呂つぼみふくらみ謎のほほゑみ

多目的ナイフですのでご自由に　言えないことにもイケナイことにも

消されても消されてもまた鶏卵に薔薇色の血は残されている

すずむしが億万長者になるための行動計画案がこれです

肌あわせ語りあうとき侵される領域として巻貝の鬱

「死ぬときは海で」と言ってた金魚です　お届け先はだから海です

キリストの誕生前の静寂に大洪水の食卓である

きみ酔いて泳ぎし春のみずうみは今なお銀の月影揺らし

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切なさはふと巡り来むミッキーに遇う計画の無くなりし間に

旧交を早く暖められるよう芋焼酎をお湯割りで飲む

十字架に磔られしこと描くモルドバの青の鮮やかなり

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思い出は過去を増しつつ占めてゆくやがてあなたはセピア色かや

長剣とメドゥサの首高々と秋深まりて勇者の来たる

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制服のズボンポケット縫い閉じる母ありてこそこの人なれば

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三つめのきみの苦手は無視してく秋の松本お城が見える

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黒眼鏡外すしぐさが好きだから博多ラーメン食べたいっていう

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大統領直属占星術師から手紙と林檎飴を預かる

星々がウィンクするを待たずして靴下を脱ぐ　なんて不埒な

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眠るまで髪の感触たしかめて縫い閉じられたお手玉の中

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「懲りもせずするのかしらね」大正十五年生まれの胸騒ぎする

温度差を意識しあえば薄日射す部屋の吐息も螺旋となりて

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王子様聞いてください竹林に花嫁なんかおりませんから

良心の声をかき消しひと色に改憲草案造反処分

書は祈り　硯の汀に夜を湛え星のひとつを留めるような

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たそがれのキャベツ畑にしんしんと灰降ってくる人降ってくる

綿の間に黒曜石を縫いこまれなおもやさしきぬいぐるみ　抱く

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裾曳きて花道に入る女形背中に男の汗を匿して

虹うつし虹連鎖する携帯の液晶画面に棲む揚羽蝶

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赤すぎる月が低地を這う夜の柳葉なびく櫛を濡らして

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弁慶の泣きどころ否(いな)泣きぼくろ墨で刺しつつ泣かざる女

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１５８２年（イチゴパンツ）が悪いんですか本能寺の変態だなんて明智くんのバカ

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ワイン「パレ・ド・ヴェルサイユ」なり時雨降る寒き日に買ひ心たらひぬ

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長袖の役人の手のうつくしく地図とりだしてピンなどを刺す

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そらみつ大和戦艦しづみて後の海春こほろこほろと凝るあぶらは

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葛も藤も花咲くものを葛藤の落ち着きし果てのきらきらと、泥

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意味のない苦しみなどないと言ひたまふ悪魔は神とパズルしながら

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夜光る薔薇なりつよき香をもて虚無への供物のひとつとなせり

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海上に道ありはるかうつくしき馬を率ゐて海神(わたつみ)は来ぬ

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壊れかけオルゴールから壊れかけ僅かなリズム硝子細工の

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(バルトークの「中国の不思議な役人(A Csodalatos Mandarin)」の舞台上演は当時官憲らによって妨害されたという)

殺しても死なない官僚「中国の不思議な役人」が愛に死ぬまで

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迷宮は時折翳に閉ざされて宇宙を思ふ脳こそ宇宙

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しゅうじ、と書くときテラヤマ少年はきつと誰かのをとうとだつた

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ゆりかごの石榴が泣いてやまぬ夜は蘇州夜曲をうたってあげる

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告ぐときは親指内に握りしめ棘の花束「アナタガキライ」

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四肢冷えて夢に現るふるさとは河口で夕陽を滾らせている

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会議中クライマーなる会社員スーツの奥で岩をまさぐる

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花豆をならべています 過ぎた日の消滅点はどこですか

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城之崎の葉の一枚が揺れてゐる ヒラヒラヒラヒラそして静寂

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科学者はフォトン・ベルトを分析す 振動数は祈りにも似て

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言祝ぎのパーツあつめて福笑い そんなに深く覗くな 鬼

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いまだ見ぬ阿波の鳴門の渦巻きぬ短き言葉ほど気になれば

まずサラダを出され素直にサラダ食むハンバーグが来るときを待ちつつ

海へ行く計画言えぬままに来る群鳥の夕立の別れは

砂嵐が支配している夜の部屋占えぬもふと手相を見つむ

渡らない橋をまたひとつ増やしたよ　今度も誰も渡ってこないよ

ならずものになるにも資格がいるのです　私だけが知りませんでした

胸騒ぎのＢＰＭは加速するキスを拒みて黙する人に

母とならず生きる　母の気持ちわからず生きる　たいした決心もせず

液体であればかの地に染みこみて徒花くらいには咲けたろうか

真夜中の蜘蛛降りてきて冷徹に甘ちゃん我へ一瞥を喰らわす

せめても泳ぐことできたなら沈まずに其処にいたろう　もう知らぬ海

一片のチョコレートあげた男から言葉一粒もらえなかった喜劇

我が身から逃げたうさぎが君の夢に住ませてくれとノックしている

引き絞る力のなくて弓持たず矢のみ散らばる我が胸の内