[265] 水無月やここは八ツ橋杜若 2001年06月06日 (水)

どんよりと曇っていて、レインボーブリッジの彼方は雨が降っているらしい。
夕方過ぎから雨が降るという天気予報だったはずだが、すでに正午前に雨が
降り始めるお台場エリア。神経とか骨の芯とか身体の内側から少しづつ腐乱
していくような気がする。

午前中の山田邦子の番組には泉麻人がゲスト。
午後のテリー伊藤の番組には林家ペー、パー子夫妻がゲスト。
オフィスにはずっと番組が低いレベルで流れているのだが、
ついつい耳がそちらへ向いてしまう。

筑摩書房の現代短歌全集の増補版の内容見本がやっと手に入る。
増補された16巻、17巻の内容はかなり目配りのきいたもので
満足できるものである。あれれ、と思ったのは一冊だけだった。
講談社学術文庫『現代の短歌』と新書館の『現代短歌の鑑賞101』に
入っていない歌人として竹山広『とこしへの川』と冬道麻子『森の向こう』が
入っているのは、編集委員に拍手をおくりたい。こういう目配りが現代短歌の
多面的な様相を読者につたえることになる。
永井陽子『なよたけ拾遺』の完本収録。小中英之『わがからんどりえ』の
同じく完本収録も、初めて読む読者には驚きを与えるだろう。
来嶋靖生『月』とか岡部桂一郎『戸塚閑吟集』も渋いが意義大きい選択。
あと、意外と盲点なのが松平盟子『帆を張る父のやうに』。この歌集は
手にいれにくいものの一冊。松平盟子は新しい歌集はたくさん出ているが
『現代の短歌』には彼女は収録されていないし、雁書館の2in1シリーズ
にも、砂子屋書房の現代短歌文庫にも入っていないし、
『現代短歌の鑑賞101』にもこの処女歌集からは4首しか収録されていない
ので、全貌が読めるのは現代短歌史上にも意味が大きい。
ひとつ残念だったのが、増補の2冊ともできれば佐佐木幸綱が解説を
書いてほしかった。現代短歌の現状にくわしい人が書いてこそ、その
収録歌集の正確な位置付けができるはずだと思うから。
私は旧版を持っているので、増補された二冊だけを買うことになるだろう。

水無月やここは八ツ橋杜若ただようものは男なりけり/


[264] 血紅の蔵書印のみ 2001年06月05日 (火)

会社では、昨日とはまた異なった問題が起こっているが、まあ、現在の私の職務が
そういう部門なのだから、ひとつずつ解決していくしかしょうがないのだろう。

帰宅後、贈呈していただいている短歌雑誌を拾い読みする。
「心の花」六月号の小川真理子さんの時評が面白い。
「賞の授受について」というタイトルで、現在の歌壇の賞の授受の構造について
率直な疑問を呈している。
いわゆる付加価値のある歌集だけが評価されるという風潮にもふれているので
私には共感するところが多かった。

一部を引用してみる。
「まず、「新人賞を受賞していたほうが、やはり第一歌集も注目されやすく、
何かと賞をもらいやすいのか」という疑問。特に昨年は、本田(一弘)や田中(拓也)
以外にも三十歳前後の新人賞作家が、続続と歌集を出版した。目黒哲朗『CANABIS』
千葉聡『微熱体』、永田紅『日輪』。彼らの歌集は書店で目につきやすく扱われているし
各総合誌も積極的に書評を載せている。それに対して新人賞を受けていない阿部久美『弛緩そして緊張』や
大松達知『フリカティブ』の扱いは、歌集の水準の高さに反して地味なのである。
第二の疑問は「新人賞でさえ数が多いのに、第一歌集を対象にした賞がこんなにあっては
賞の持ち回りにならないか」ということである。二月に刊行された内野光子『現代短歌と
天皇制』には、迢空賞をはじめ、歌壇のリーダー的存在の歌人が賞を贈りあっているよう
な実態が一目瞭然の一覧表が載っていたが、そういう現象の若年版であり、将来の彼らの
授受を促す温床になっていないだろうか」

一部というより、長い引用になってしまったが、特に前半部分は同感で、共感の拍手を
おくりたい。この文章が書かれたあと、歌壇賞を受賞している永田紅の『日輪』が
現代歌人協会賞を受賞して、小川真理子の説をまた裏付ける結果になったわけだ。
『日輪』は十分に現代歌人協会賞に値する歌集だとは思うが、他に『日輪』以上に短歌の
新局面をひらいている歌集は何冊か確実にあると私は思っている。
具体的には阿部久美の『弛緩そして緊張』と目黒哲朗の『CANABIS』を私は高く評価
しているので、これらの歌集が現代歌人協会賞の候補にあがっていたのか、そして、もし
あがっていたのなら、どのような評価を選考委員たちがしたのか、とても興味深い。
ともかくも、小川真理子のこういう文章をきちんと載せている「心の花」という結社誌を
見なおした。小川真理子の批評活動の今後にも注目したいと思う。

「善の研究」求め来つその見返しにあるは血紅の蔵書印のみ/塚本邦雄


[263] 釣果もとより当てにせず 2001年06月04日 (月)

会社へ行ったら、問題が山積になっていた。
内容はここでは書けないことばかり。アナログなものからデジタルなものまで。
しかし、これは業界特有の事情なのか、他の業界でもそこならではの事情の
もとに、さまざまなトラブルが起こっていることは十分に考えられる。

さすがに、これだけ次々に問題が起こってくると、会社での時間の経過が
早く感じられる。もう、こんな時間なのか、と何度も思った。
結局、午後7時に、私では手におえないものだけが残ったので、会社を出た。

帰宅すると「ミッドナイトプレス」12号が届いていた。
柴田千晶さんとの連作『交歓』の第三作「新首相誕生」が載っている。
現代詩っぽくないタイトルが気に入っている。
ぜひ、読んでみてください。
「現代詩を五つのキーワードで考える」という特集は
改行/豊原清明 長さ/新井豊美 喩/柴田千晶 リアル/田中庸介
自由/松本圭二 以上の興味深い執筆メンバーです。

東京ならば、神保町の三省堂書店、東京堂書店、八重洲ブックセンターに
「ミッドナイトプレス」あります。
ミッドナイトプレスの連絡先は
03-5968-3905  ファックス03-5968-3915です。定価1000円+税

何通か私的なメールを書いて送信する。
どうも、ここ何年かは、解決しなければならない問題を先送りにする癖が
ついてしまったようだ。
昨日の朗読の会に出ていたという「月光」の会の高橋さんから電話があり
感想を聞かれる。
他人の作品を読むということの必然性、劇団的な発声との差異をどのように
つけるのか、などの話をする。
「詩のボクシング」のことも、パフォーマンス大会的に考えている人も
多いようだが、先々週の全国大会を見た人達は、あれが洒落ではないという
ことが理解できたはず。このへんのことは、きちんと文章で総括しておかな
ければならない。

明後日が友人達とのペーパーオーナーゲームのドラフトなので、
「競馬ブック」の二歳馬名簿を熟読玩味しなければならない。
去年はチアズグレイス、今年はダイワルージュを持っていたので
連続してプラスポイントだったのだが、その前5年くらいは暗黒時代だった。
二歳馬名簿を見ると、案の定ティエムの冠称の馬主が沢山馬を買っている。
オペラオーが稼いだ金をまた馬に投資しているわけだ。
多くの馬主がこうしてお金を目減りさせていくというわけだ。

永き日の釣果もとより当てにせず/鷹羽狩行


[262] 蟻の仲間に詩人が出た 2001年06月03日 (日)

午前中、史比古と一緒に、高校の入学祝いに買ったパソコンのセットアップを
する。といっても、私が手伝ったのは、パソコンデスクの組立てだけだが。
これで、部屋にデスクトップパソコンが二台ならんでいることになる。

安田記念は完敗。
ブラックホークが出ていることなんて完全に忘れていた。
京王杯スプリングカップで一番人気の馬なのだから、ホントは人気が落ちすぎ
なのだけれど。

夕方の五時から、ティアラ江東というホールで
「劇的朗読館」なる朗読イベントがあるので見物に行く。

全体は三部構成で、第一部が、追悼館と題され、
唐十郎が書いた寺山修司への弔辞
中村メイ子が書いた美空ひばりへの弔辞
北村和夫が書いた杉村春子への弔辞
そして、おなじみの円谷幸吉の遺書の朗読。

次が童話館ということで、三人で役を分担して、宮澤賢治の
「注文の多い料理店」を朗読するもの。

三部目がマスメディア館ということで、ニュースのスタイルで男女一人ずつ
が、マイク前にすわり、これは依頼した原稿だと思うが、
阿川佐和子、金田一春彦、立松和平、渡辺えり子の四人が書いた
「私の死亡記事」なるもののニューススタイルでの朗読。

さらに、朗読ジャムセッションと題して、センターマイクへ、次々に
出演者が歩み寄っては、詩や小説の一節を朗読するという試み。
これは、方向性としては面白そうなのだが、なんとなく垢抜けないので
ひとくふう必要だなあ、と思う。
出演者は男三人、女九人で、朗読座という新結成のグループ。
しかし、芝居の経験者が多いような感じで、舞台慣れしている感じもするが
言い回しが、いかにも劇団的な臭みがある人が何人か居た。

先週見た「詩のボクシング」ともまたちがう奇妙な朗読のステージだつた。
出演者が書いたオリジナルのテキストはないわけで、他人の表現を朗読
するということへの根拠が、今回のステージからは見えなかったが、
とはいえ、イヤな感じのものでもなく、もし、次回があるなら、また、
見てみたいとは思った。

なぜ、同時多発的に朗読イベントが催されるのか、みんなが声を出したい
のだろうか。不思議な流行だと思う。

蟻の仲間に詩人が出た
わたしはいま彼を
小さな硝子瓶にいれて飼つてゐる/中井英夫


[261] 遠出したばかりに蚯蚓干からびぬ 2001年06月02日 (土)

晴天の土曜日。
今日は昨日の予定どおり本の整理をすることになる。
実は先月、「競馬四季報」の二十五年分くらいのバックナンバーを
旧知の古書店を通じて、古書市に出してもらったのだが、結局、値段が
つかず、引き取りになってしまったという連絡を昨日受けた。
すでにCDロムで、同じデータ集が出ているからということらしいが、
活字本には活字本の面白さがあると思うのだが、まあ、しかたがない。
結局、いまさら、我が家に引き取るわけにもいかないので、競馬関係の
書籍専門の古書店に、破格の安値で引きとってもらうことにする。

馬券をPATで買いながら、だらだらと、押入れの中の本の整理をする。
先月、矢野誠一の『戸板康二の歳月』を読んでから、その流れで、安藤鶴夫、
江國滋、永六輔、山藤章二、小沢昭一といった文化人・芸能人の俳句に関連
した文章をさまざまな本から拾い出して読んでいる。
これと平行して、大村彦次郎の『文壇挽歌物語』を読むと、戸板康二、安藤
鶴夫に関連して、久保田万太郎、正岡容のことも出てくることになる。
さらに、久保田万太郎が永井荷風に接近するのを佐藤春夫が苦々しく思って
いたとか、正岡容が悪酔いして、後輩の安藤鶴夫をいきなり平手打ちにして
我慢した安藤を久保田万太郎が「安藤、よく我慢した」と褒めたとか、色々
知っていても知らなくてもどうでもいいような事項を知ることができる。
写真を見る限り、正岡容はおとなしそうだし、安藤鶴夫はケンカが強そうだし
久保田万太郎は策氏っぽいし、人間模様はおもしろい。
それで、何がいいたいかというと、この人達はみんな、特に晩年になって、
熱心に俳句をつくっているといこと。佐藤春夫まで熱心に俳句をつくっていた
とは初めて知った。

夜は久さんが送ってくれたステーキ肉を家族で鉄板焼きにして食べた。
消化剤がわりに散歩に出て、洲崎のあづま書房で、江國滋の『日本語八つ当たり』と
大江健三郎の『飼育・死者の奢り』を200円で購入。
帰宅してから大江の「人間の羊」を30年ぶりに再読する。

遠出したばかりに蚯蚓干からびぬ/変哲(小沢昭一)


[260] 冷めてるスープ口にふくませ 2001年06月01日 (金)

金曜日になると疲れもでるが、ほっとする。
2年前までは、土日がイベントの実施日ということが多く、いちばん忙しい
のが金曜日だった。人間は環境にいとも簡単に慣れてしまうということか。

午後から有楽町に行って、倉庫に残されている役員の私物らしきものや
美術品関係の物をどう処理するかの確認をする。
上村さんと早めの昼食をとって、東京駅行きの急行バスで有楽町駅前へ。

埃っぽく暑い作業をしていると、ラジオ局にもこういう仕事があって
いつの時代も誰かが、こういうことをやっていたんだろうな、と思う。
秘書室長が午後2時ころ来てくれて、それぞれの物品に関して、台場へ
送るとか蚕糸会館へ運ぶとかの決定を出してもらう。
作業が終ったのは、午後4時過ぎ。もう、台場へ戻る気はしない。
地下の電気室へ行って、電気担当のKさんと上村さんと私で、いつ、東京
電力に送電停止の届けを出せばよいか等などの確認をする。

五時半過ぎに解散。アメリカンファーマシーでアスピリンを買ったあと
八重洲ブックセンターまで歩いて行く。
文春文庫の小沢昭一の本『裏みちの花』『もうひと花』『話にさく花』を
購入。最近、矢野誠一、安藤鶴夫といった正岡容門下、さらにいえば、
久保田万太郎につながる人達の本を少しずつ集めている。

ハヤカワepi文庫が新刊で、平積みになっている。
買いたいな、と思ったが思いとどまる。
そのまま、八重洲地下街に下りて、八重洲古書館に入ると、なんと、今
買いたいと思っていたepi文庫の『日の名残り』が450円、
『第三の男』が350円とほぼ半額でもう並んでいる。買ってしまう。
これでまた、週末は本の整理。

帰ってから、内田勉君が始める競馬予想のHPのために、
グッドファーザーというハンドル・ネームで、安田記念の予想を書いて
送信する。今週から毎週、1レースを選んで、単複の勝負馬を予想する
ことになる。主として午前中のレースから狙い馬を選ぶつもり。

滅ぶなら滅んでしまえはじめから冷めてるスープ口に含ませ/村上きわみ


[259] 自分を少しは正しくする 2001年05月31日 (木)

雨が降っている。ここのところ、一週間に一日は必ず雨が降っている。
雨は嫌いではないのだけれど、雨の日はバスが遅れるのが困るなあ。

バスの中で、寺山修司短歌賞と河野愛子賞の選考委員の選評を読む。
選考委員は岡井隆、篠弘、馬場あき子、佐佐木幸綱、河野裕子、樋口覚の
六人。
受賞は寺山修司短歌賞が山田富士郎『羚羊譚』。
河野愛子賞は久々湊盈子『あらばしり』と大滝和子『人類のヴァイオリン』。

実を言うと私は『東京式』が寺山修司短歌賞の候補になることを期待していた。
この作品は寺山修司の『田園に死す』を強く意識したものであり、
1999年から2000年にかけての東京に生息する私の「田園に死す」と
いうつもりであったのだが、選評を読む限り、候補にもなれていなかったようだ。
受賞歌集のほかに名前があげられているのは、岡井隆氏の選評の中での
吉川宏志『夜光』だけである。
歌集としての価値判断は、結果としてしかたがないとは思うが、実験精神を
あらわにしたつもりであった私としては、その意図さえどうやら受けとって
もらえなかったらしいことは残念でならない。
寺山修司の短歌への志の継承といえば、仰々しいが『東京式』にはその意図
があるということだけは作者として明言しておきたい。

午後、夕刊プロレスという日刊メールマガジンの2000号記念イベントの
依頼状を届けに、ディファ有明の2階にある、プロレスリングNOAHの
事務所に行く。イベントの意図を説明し、ギャランティを提示し、検討を
お願いしてくる。

新役員が発表になったので、社内がなんとはなしにざわついている。
朝刊にこの名前が載ったので、関係会社や金融関係、建設関係等などの
会社の総務部や業界紙やアナリストから取材の電話が色々と入ってくる。
マルチシアターで「恋はハッケヨイ!」の試写会をやっているが、まあ、
総務部員としては、見に行くわけにもいかない。
夕方、けだるさを感じながらバスへ乗って、帰途につく。

沈黙は相手にわからせないが
自分を少しは正しくする
そう信じてこらえる   永塚幸司「木琴を汲む」部分


[258] ふるえていたり首都なる街に 2001年05月30日 (水)

午前中は特別職会で、ずっと会議。
午後は東証に行くグループが居るので、私は会社で留守番。
伝票整理などをしながら、秋山巳之流著『魂に季語をまとった日本人』を
ひろい読みする。
正岡豊さんもこの本を読んだようだ。
俳句雑誌「河」に連載された詩歌時評風の文章なので読みやすいし面白く
はある。
角川の「短歌」の編集長の時代に「短歌そしてピープル」という別冊を
つくった編集者でもある。
俳壇、歌壇のウラ話は面白いし、毒舌も読み物としては冴えているが、
本人に文学観がないので、中井英夫の『黒衣の短歌史』とはくらべものに
ならない。
「すでに何人もの才能を見い出したことは、英語圏における
 エズラ・パウンドを起想させる」という辻井喬の推薦文の帯がついているが
これは、書くほうも書かれるほうも、本気とは思えないが、本気なのかな。

全日本女子プロレスの今井さんが、夕方、フジテレビでの「格闘女神アテナ」
の打ち合せの帰りに、会社へたずねてくれたので、一件、お願いをして
あとは、最近の女子プロレス事情など雑談を展開。
女子プロレスを久しく見ていないのを反省する。

夜、高瀬一誌さんの作品とプロデューサーとしての偉大な才能に関する
短い文章を書く。高瀬一誌という存在がなければ、かなりの数の歌人が
その潜在的な才能を開花させられなかったかもしれない、と思う。

23時頃に書き終わったので、ネットにつなごうとすると、パスワード無効
の警告が出て、つながらない。しかたがないので寝る。

死者生者へだつるうすきうすき膜ふるえていたり首都なる街に/崔龍源


[257] レントゲン写真にいつもうつる 2001年05月29日 (火)

明日が役員会なので、その資料をつくるチームが一日中、集中力を発揮
して頑張っている。それを横目でみながら、私と上村さんは、社内インフラ
関係の打ち合せ。午前中の定例ミーティングで、具体的にすぐやらなければ
ならないことを確認しあう。午後、さらにその続きを、別の会社のスタッフ
を入れてやることになっていたのだけれど、なぜか、その人が約束を忘れて
いたらしく、流れてしまう。

夜、8時前に帰宅。
日刊のプロレス・メールマガジンのUプロの発行者の桃太郎さんに電話して
八月に開催するイベントのお手伝いをしますよ、と伝える。
イベントを進行させるのはなかなか難しい。
まあ、トラブルは必ず生じるものだから、それを如何に最小限にとどめるか
というのが、イベント実施運営のコツだと経験的に思う。

史比古が録音しておいてくれた「伊集院光 深夜の馬鹿力」を聞きながら
原稿を書こうと思ったが、結局、テープは聞き終わったものの、原稿は
一行も書けなかった。高瀬一誌さんの歌集『レセプション』を聞きながら
眠ってしまう。

レントゲン写真にいつもうつる魚のごときかたちはなにか/高瀬一誌


[256] 娘よ、泣くんじゃない、これはお芝居なんだよ 2001年05月28日 (月)

夏にシネマ・ライズでレイト・ショーとして上映されるという
「ビヨンド・ザ・マット」という映画の試写会に行った。
試写会で映画を見るのは「シンプル・プラン」以来、2年ぶりくらいかな。
場所は元の東邦生命ホールのクロスタワーホール。

この映画はアメリカン・プロレスのドキュメンタリー。
WWFの内幕をプロレスの象徴として描きつつ、スーパースターの
ミック・フォーリー、ベテランの有終の美を飾るべき存在としての
テリー・ファンク、そして元の大スターでありながら、現在はおちぶれて
ドサ廻りをして糊口をしのいでいるジェイク・ザ・スネーク・ロバーツの
三人の生活を家族とのかかわりのなかで描いたドキュメンタリー。

リング上のレスラーを家族の側から描くというのが、まず新鮮。
ミック・フォーリーの家族もテリーの家族も、みんな、プロレスを辞めて
ほしいと思っているのが、リアルにスクリーンから伝わって来る。
ジェイク・ロバーツは離婚していて、大学生の一人娘と巡業の途中で
会うのだが、そのあと鬱状態におちいって麻薬を吸引してしまう。
カメラはその酩酊状態のジェイクの姿をも映し出してみせる。

ジェイクは、母親が十八歳の時に、グリズリー・スミスというプロレスラー
にレイプされてできた子供なんだ、と語り、その直後に、その父親が出て
きて、「望んでできた子供ではなかったが、ジェイクはいい奴だ」と語ったり
するのも、日本人の感覚では驚きだ。

この映画の最大のウリは、スポーツエンタテインメントとして現在のアメリカ
で大ブレイクしているWWFの裏側を見せてしまうことだろう。
もちろんWWFも承知して、レスラーへの演出家の指示やレスラー同士の
打ち合わせ風景を撮影させているわけだ。
1999年の伝説的なミック・フォーリーVSロックの「アイ・クィット・
マッチ」がこの映画のひとつのクライマックスになるのだが、あの凄惨な
試合の前に、ロックとフォーリーがどんなふうに場外乱闘をするか打ち合せ
をしている。
その二人の前には、ミック・フォーリーの妻と男の子と女の子が一緒に居る。
子供達はまだ幼稚園児くらいの年齢だ。
打ち合せしながら、ロックは子供達が「ディズニーランドへ行ったのかい。
よかったね。何に乗ったの?」と話かけたり、
とおりかかったストーンコールドが、ミックの妻に「久しぶりだな」と挨拶
したり、つまり確かに芝居の舞台裏ということなのである。
そして、試合が始まり、フォーリーとロックは殴り合い、階段やPA卓に
叩きつけ合い、椅子で滅多打ちに殴り合う。
それを見ていて、絶叫するミックの妻子たち。絶えきれずにバックヤードへ
もどってしまう。
大観衆を最高潮に興奮させて、妻子のもとに戻ってきたミック・フォーリーは
パックリ割れた頭部の裂傷から噴出す鮮血をタオルでおさえながら、
まだ泣きじゃくっている娘にこう告げる。

「泣くんじゃない、パパは大丈夫。これはお芝居なんだよ」

椅子に座って、医師に頭の傷を縫ってもらうミック・フォーリーに
隣の椅子で、やはり、傷を縫合してもらいながらWWFのオーナーの
ビンス・マクマホンが話しかける。
「ミック、これがショウビズだな」

と、いうわけで、私にとっては「ゆきゆきて神軍」以上にショッキングな
ドキュメンタリー映画だった。


・なぜプロレスを見るかと問われぬばたまの夜あるゆえと答えたことも/藤原龍一郎


[255] 鬱々と五月の花野 2001年05月27日 (日)

雨の日曜日。
ダービーデイで雨なのは、1985年のシリウスシンボリが勝った年以来だ
そうだ。そういえば、あの年が私が現在の勤め先に再就職した年だった。
もう16年かあ。
たまっていた歌集の礼状を書く。
昨日の出版記念会でお世話になった方達への礼状も書く。

ダービーはすんなりとジャングルポケットが勝ち、二着もダンツフレーム。
馬券も本線だったので、気分的には余裕がある。
先週、デザーモがオークスを勝ちながら、最終レースも勝つという不人情な
ことをしたので、ボーンキングで5着の今日は、もっと勝ちたいだろうと
思って、最終レースでデザーモのピサノマッカランの単勝を買ったら、やっぱ
り、イン強襲で勝つ。馬券がとれたので、デザーモもなかなかいい奴だと思う
ようになる。

鬱々と五月の花野歩めるはわがいざりうお夢の泥ひき/正岡豊


[254] 詩のボクシングと真鍮の花 2001年05月26日 (土)

「詩のボクシング全国大会」を観戦に水道橋バリオホールへ行く。
楠木かつのりさんが中心に継続している朗読イベントで、今日は全国の予選で
勝ち抜いてきた二十九人が登場する。
くわしくはあらためて書いてみようと思っているので、ここでは簡単にするが
午後2時から6時半までの4時間半の長時間、途中で10分の休息をはさんだ
だけなのだが、私は飽きずに観戦できた。
立ち見もでていて300人以上の客が入っていたことも驚きだが、私以外の客
も、飽きている感じはなかった。やはり、朗読という言葉の力ってのが、確か
にあるってことなんだろうな。

脳天パラダイスで名前を知っていた上田假奈代とか魚村晋太郎とかをナマで
見ることができたのも、まあ、収穫ではあった。
決勝は脳パラ系のフリーターというギミックの群馬代表門倉貴浩と
少女の祈り系の詩の三重代表若林真理子の対決になったが、最後の即興詩で
門倉が意外にもアドリブがきかないことが露呈して、若林が優勝した。

うーん、いろいろ書きたいことはあるけれど、また別の機会に詳しく書きます。

そのあと「牙」所属の菊池豊栄さんの『真鍮の花』の出版記念会のために
青山へとんで行く。
あたたかく、著者をお祝いする雰囲気に、「牙」の石田比呂志に代表される
田舎の宴会の面白さが加わったユニークな会だった。
二次会で、石田比呂志氏と初対面。
田中佳宏氏とは二十数年ぶりの再会。真野少氏としゃべることができたりと
非常に有意義な夜だった。

食欲をはた性欲を満たしめて夫眠らせ淋しさびしも/菊池豊栄


[253] 薔薇とその季節に生きて 2001年05月25日 (金)

会社のふたつの生放送スタジオと報道部に地震計が設置されているのだが、
その機材の年一回のメンテナンス。
フロア的にはこの3つとも24階にある。
さらにこの機械に連動する放送時計は12階のフジテレビの報道センターに
ある。そして、震度計自体の大基の機材は一階のフジテレビ車輛部の奥の扉
の中にあるのだということを初めて知った。
実際にフジテレビの施設管理部の人に見学しながら説明してもらった。
しかし、大型ビルにはわからないことが多い。

けだるい午後をやりすごし、神楽坂の「かつ田」という店へ向う。
駄句駄句会に出席するため。今回で5回目の出席になる。
山藤章二、玉置宏、吉川潮、立川左談次、高田文夫、島敏光、中村粕利の
諸氏に私の8人が出席。
席題は「蛇」と「すててこ」各2句ずつ。

私の句は
蛇使い蛇出す前の口説かな
兄が逃げ弟が逃げ蛇が逃げ
物干しにすててこの白暮れ残り
すててこの寝姿父もその父も

天、地、人を各自が選ぶのだが、今回は大爆発で、私をのぞく7人のうち
5人の「天」をとれた。
兄が逃げ弟が逃げ蛇が逃げ の句が三魔こと山藤章二さんの「天」で
短冊をもらえた。あの独特の書き文字で、自分の句を書いてもらえるのは
やはりうれしい。

句会の場は、要はこのメンバーの人達のおしゃべりの場で、私はその会話を
聞くのがおおきな楽しみなのだが、吉川潮さんが、オール巨人阪神が、先週
の「生活大百科」で演じた、
「ぼくは最近、これに凝っててねえ」とパソコンのキーボードを打つ手つき
から、「おお、大正琴やな」と受けて、二人で大正琴の口演奏に入るネタが
抜群だったという話をした。実は私もこの番組を見ていて、さすが巨人阪神
だ、と感心していたので、嬉しかった。
キーボードから大正琴を連想するだけでもすごいのに、そこだけで終らせず
大正琴の音の口真似で、さらにひっぱる強引さが、上方漫才の真の味なのだ。

と、いうような話を聞きつつ、昂揚した気分で帰宅した。
手紙の整理とメールチェックをし、何人かの人にメールして、
天藤真の「鉄段」というショートショートを読んで、寝てしまった。

薔薇とその季節生きてもろともにほろぶ時間の水際に立てり/正岡豊


[252] ああ父が眼鏡をふきはじめたり 2001年05月24日 (木)

会社の健康診断を受ける。
三十五歳以上の社員は会社の費用負担による半日人間ドッグを受けられる
ので、こちらを受けていれば、春の健康診断は受診する必要はないのだが
今年は、私はまだドッグを受けていないので、健康診断をあえて受ける
ことにしたのだ。
体重は昨年の秋より3キロへっていたが、まだまだ、重過ぎる。
身長はなぜか、1センチ縮んでいた。
そして、ひどかったのが、採血。
私は肘の裏側の通常の採血場所に静脈が浮いていないので、注射針が刺さり
にくいのだけれど、今回はアトピー性皮膚炎がおこっていて、よけい血管が
見えにくくなっていた。そのため、何度か針をさしても静脈にあたらず、結
局、左の手首に針を刺して採血した。これは痛い。手首から血が抜かれると
いうのを見て居ると、自殺するんじゃないんだからなー、と気が遠くなりそ
うだった。

社長室のドアが木製部分の膨張で開きにくくなるとか、テープ編集室の椅子
のキャスター部分に切ったテープの屑が巻き込まれて、車が回らなくなると
か、館内清掃を委託している業者さんの掃除時間が約束とはちがって、執務
時間にくいこんでいるとか、西武球場近くのハイヤ会社ときちんとした契約
書をかわさなければならない、とか小さな仕事はたくさんある。

帰宅後、テレビチャンピオンの大食い女王コンテストを見る。
角川「短歌」6月号に高瀬一誌さんの遺作「レバノンかなし」10首が
掲載されている。
短い原稿をひとつ書く。
大村彦次郎の『文壇挽歌物語』を読みながら眠りにおちる。

形状記憶シャツでああ父が眼鏡をふきはじめたり/高瀬一誌


[251] 連れてゆくのは面倒かしら 2001年05月23日 (水)

朝からなまぬるい雨が降っている。
雨のお台場は倦怠がただよい、温気にゆがんでいるように感じられる。
人間の心理はむずかしいな、と思わされる小さなトラブルに直面し
午前中はずっと気が滅入っていた。

午後は社内インフラ整備に関する資料をつくり続ける。
夕方、会社の土地に関する会議。税理士の先生も出席する。
結論は出たような出ないような。

雨の日比谷マリオン前で辰巳泰子、森本平、松原一成氏と待ち合わせ。
七月一日の朗読会のミーティング及び練習をおこなう。
夜9時過ぎに、なつかしの木屋でうどんを食べ、10時半頃解散。

いつかしら廃墟めぐりにわたくしを連れてゆくのは面倒かしら/松原未知子


[250] 眠れば別れ別れぞ 2001年05月22日 (火)

高瀬一誌さんが亡くなって、初めての「短歌人」編集会議。
池袋芸術劇場の会議室へ向うが、さびしい雨が降っている。
在京のメンバーは全員集まる。
いつもどおり、まず、会費のチェックと封筒の照合をおこない、
半年以上の会費滞納者に、納入のお願いのハガキを出す。

6月号が完成し、その一頁目に挟み込みで、高瀬さんの訃報が入っている。
ぎりぎり間に合ったのだが、これを入れられてよかった。
8月号、9月号の企画の進行状況の確認。
高瀬さんの追悼号に関しては、拙速ではなく、来月の編集会議で、きちんと
企画を練ってから決定することになる。

編集委員システムということで、仮に一人、二人が欠けても、実務は進む
わけだが、表面に浮かんでいる仕事以外のところで、高瀬さんがおこなって
いた、会員や同人へのこまかい励ましは、想像以上のものがある。

会議が終ると、もう、池袋は雨がやんでいた。
全員で楼蘭で食事。
やはり、話題は高瀬さんのことになる。
「短歌人」の掲示板に、みんなが書き込んでくれた高瀬さんへの追悼の言葉を
プリントアウトしたものを、蒔田さくら子さんたちに見せる。

小池光さんが掲示板に書いた
「高瀬一誌は「短歌人」という作品を創った」という言葉が実感される。

・旨き茶があり 旨き茶もなし眠れば別れ別れぞ/高瀬一誌


[249] この世の外のまたその奥に 2001年05月21日 (月)

ああ、また月曜日ね。ということで、イヤイヤ会社に行ったのだが、
中央線の飯田橋駅で飛び込み自殺があったそうで、中央線沿線組が
みんな来ない。

伝票処理などをこなした上で、上村さんと有楽町の旧社屋の備品や什器の
捨てる物と台場へ運ぶ物の選別に行くことにする。
東京駅行きの高速バスに乗っていたら、いつのまにか眠っていた。

什器、備品をひととおりチェックして、日通の営業の人に見積もりを頼んだ
あとで、こんどは、旧役員室に残されているアート系の備品をチェック。
短時間で終ると思っていたら、意外と時間がかかる。
床に置いておいたオブジェが倒れかかって、膝にぶつかる。
痛いと思ったら、ズボンに鉤裂きが出来ていた。
しかも、皮膚からも血が流れている。えらい目にあってしまった。

結局、お台場には戻れず、本社に電話を入れて、このまま帰ることにする。
五時半前だったので、そのまま、神保町へ行く。
東京堂書店の2階の詩歌コーナーに正岡豊歌集『四月の魚』新版があった
ので、平積みの『鈴木真砂女句集』の上に積んでくる。

安藤鶴夫の『わが落語鑑賞』と大村彦次郎著『文壇挽歌物語』を購入。
大村彦次郎さんは、講談社の「小説現代」等の名編集長だった人だが
短歌研究社の社長をしていたこともあり、私が一九九〇年に短歌研究新人賞を
受賞した時の、表彰状と賞金はこの大村さんからいただいた。

・性愛の夜の虚ろをただよへばこの世の外のまたその奥に/影山一男


[248] 見えざる銀河 2001年05月20日 (日)

日曜日。高瀬一誌さんが亡くなって、一週間が経ったことになる。
「短歌人」の掲示板に、小池光さんが「川のほとり」という文章を書いて
くれている。↓現実をみつめなければならない。
http://www5.airnet.ne.jp/~ttsc/bbs/tankajin/tankajin-bbs.cgi

天久卓夫歌集『流亡』の書評を書く。
プリンタの調子が悪いので「掌」の神信子さんに電話してfaxで
送信させてもらう。

昼は残っていたご飯にカレーライスとハヤシライスのルウを半々にかけて
一気に食べる。当然、胃袋に負担がかかり、もたれてしまう。
かの子と自転車に乗って、西葛西の井上眼科病院へ義母の見舞いに行く。
東陽町駅前に自転車を置き、東西線で西葛西へ。
面会許可時間まで30分くらい余裕があったので、また、本屋と古書店を
のぞいてしまう。かの子は古書店に入りたがらないので、ジュースを飲んで
店の外で待っていてもらう。
邑書林の句集文庫が一冊100円で10冊ほど並んでいる。
定価900円なので、これは買わねばならない。
大野林火の『海門』とか山田みづえの『手甲』とか福田甲子雄『白根山麓』
とか、普通なら買わないものばかりなので、かえってありがたい。

病院に入ると、すでに義母の目はほとんど腫れがひいていた。
火曜日には順調に退院できるだろう。
かの子と一緒に東陽町へもどり、文化センターのホールへ行く。
グループ合歓という合唱団の発表会で、家内がピアノ伴奏しているのだ。
合唱団の方には、史比古が勉強を見てもらっている岡本先生とかの子が
お習字を習っている玉井先生が参加している。
プログラムで面白いのは、大木惇夫の詩に曲をつけたもの。

途中で会場をちょっと抜け出して、ラジオでオークスを聞く。
デザーモ騎手のレディパステルが勝つ。
外人騎手として初めてのオークス制覇ということになる。
最終レースもデザーモの騎乗するダイワサイレンスが勝つ。
日本人騎手の場合、クラシックレースを勝ったら、次のレースは遠慮する、と
いうのが常識だったが、外人はそうはいかない。

帰宅して、また、本の整理をする。週末の夜が更けて行く。

言葉より心は重し 心より言葉は重し 見えざる銀河/影山一男『空夜』


[247] 見返しにあるは血紅の蔵書印のみ 2001年05月19日 (土)

また、本の整理をする。休日になると本の整理ばかりしている。
というより、本の整理しかしていないのかもしれない。
とにかく、昨日、みかけた本が今日はもうどこにあるのかわからない、という
状態が、何年も続いている。
今も、田上伸一の『魂の辺境から』が、まったく姿を消してしまっている。

原稿がたまり始めているので、まず、産経新聞のコラムの「芸能直言」を
書き上げる。今回は爆笑問題や浅草キッドや藤井青銅さんの本の面白さを
書く予定でいたので、案外、てこずらずに、書き終えることができた。

次に書くのは、どの原稿にすべきか考えながら競馬中継を見る。
目黒記念はなかなか当たらない。相性が悪いのか、ほとんど当たった
記憶がない。
歌集の礼状も書かなければならないし、明日のオークスの予想もしなければ
ならない。本も読みたい。結局、何もできずに夕方だ。

五時近くなったら、急に雨が降り出した。
西葛西の井上眼科病院に月曜日から、家内の母親が入院しているので
雨の中を家内と一緒に見舞いに行く。
木場駅で東西線に乗ったときは、土砂降りだったのに、南砂町を過ぎて
電車が地上に浮かんだら、もう、西葛西は雨がやんでいた。

403号室という三人部屋の真ん中に義母は入院していた。
火曜日には退院できることになっている。
病院を出たところに、ブックオフ系の古本屋ができていたので、
またまた、のぞいて、本を買ってしまう。
・宇野信夫著『芸の世界 百話』廣済堂文庫
・山藤章二著『アタクシ絵日記 忘月忘日』文春文庫
二冊で440円。また本が増えてしまう。

帰宅後、史比古が買ってきていた、かわぐちかいじの『ジパング』を
読みながら寝てしまう。

「善の研究」求め来つその見返しにあるは血紅の蔵書印のみ/塚本邦雄



[246] どの順番で読み終わる 2001年05月18日 (金)

実質的には会社には三日間しか行ってないのだが、長い一週間だった。

会社から林和清さんに電話した。
社内情報インフラ関連の会議に2時間出て、昼食。
席にもどると「短歌研究」の押田編集長から電話がかかってきた。
そのあと、「ありがとう有楽町旧社屋」の企画会議に1時間半。
また席にもどると、椅子やデスクを洗濯する業者さんが、デモンストレー
ションに、椅子を洗濯してくれるというので、コーヒーのこぼれあとが黒
ずんでいる椅子を会議室から選びだし、一階の駐車場へ運ぶ。
フジテレビの駐車場で、勝手にこんなことをしていて、怒られるのもイヤ
なので、カードマンさんを通じて、施設管理部に連絡して、いちおうOKを
もらう。
小1時間で、椅子が綺麗に洗濯されて戻ってくる。
では、検討して、今後、一括して什器の洗浄をお願いするかどうか
考えてみます、と言って、業者さんと別れる。

昨日、寝るのが遅かったので、やたらに眠い。
帰りのバスに乗っても、ディフア有明のあたりで眠り込んでしまい、気がつ
いたら、豊洲駅前にとまっていて、あやうく乗り越すところだつた。

田中槐さんが、「一度読み出した本は必ず最後まで読む」と言っていて、
この言葉にはおおいに啓発された。私も本を読み終わる努力をしている。
ただし、私の場合は同時進行で何冊もの本を読んでいるので、読み始めても
かなりの期間、途中で放りだしているものもあり、かなり経ってから、その
本をまた読み始めて、読了するというパターンが多い。
それでも、槐式読書態度を知ってから、読了する努力はするようになった。

いちばん最近に読了した本。
佐野眞一『だれが「本」を殺すのか』プレジデント社
この本は新聞にもさんざん書評が出たが、現在の出版不況の原因を、版元、
流通、書店、編集者、地方出版社、ブツクオフ、オンデマント出版などなど
の関係者に徹底的にインタビュー取材して、「本」の現在をあぶりだしてみ
せるエキサイティングな本。なにより文章が読みやすく、説得力がある。
本が好き、読書が好きという人なら、刺激を十分に受けるはずだ。

今、読みかけの本
矢野誠一『落語家の居場所』文春文庫
米田利章『歌人・津田治子』沖積社
池谷伊佐夫『書物の達人』東京書籍
福島泰樹『寺山修司の墓』彩流社

ということで、どの順番で読み終わることになるのだろうか。

母ちゃんまた泣いているのかそんな瓶の底で/ギネマ


[245] その凡庸が重要だから 2001年05月17日 (木)

夜7時にJR新橋駅の銀座方面出口で待ち合わせ。
まず、横断歩道をわたってくる岡田幸生さんと出合う。
次に改札口の方から田中槐さん、佐藤りえさん、大井学さんがやってくる。
今夜は「マラソン・リーディング・連鎖する歌人たち」のスタッフの打上げ
なのである。
槐さんが携帯電話で、店に確認を入れると、すでに村井康司さんは店に居る
とのこと。日経BP社の佐々木さんも合流して、早速、店に向う。

石井辰彦さんの行き付けの店で、ワインがおいしいのだそうだ。
石井辰彦さんも、すぐにやって来る。村井さんをまじえて、まず、乾杯。
錦見映理子、玲はる名、日経BP社の高橋さんたちが次々に到着。
そのたびに白ワインで乾杯する。口当たりが良いので、私のような下戸でも
ついつい、飲み続けてしまう。顔が火照ってくるのがわかる。
錦見さんに「NHK歌壇」をわたす。

エスカルゴ、ソーセージ、チーズなどなど、なかなか美味。
打上げということで話もはずむ。
石井辰彦さんが「ネイクド・ボーイズ・シンギング」というニューヨークの
ミュージカルの話をしてくれ、全員、大爆笑だ。
村田馨さんが遅れて到着したところで、出席予定者は全員集合。

村井康司さんが、宮崎二健さんが主催するもののふの会の俳句朗読会の
パンフレットを見せてくれる。
ここに出演している、ぎねまさんという女性は、昨年おこなわれた
福島泰樹朗読賞の入賞者である。
さまざまな世界で、朗読という試みが同時多発しているのが、とても興味
深い。短歌の世界での朗読シーンを石井辰彦さんがリードしたのは、ニュー
トラルな存在で、しかも、現代詩とのブリッジになれる人であるという点で
とても良いことだったと思う。

石井さんに「三蔵」や「円卓」の話を聞く。
くわしくは書かないが、屈折した事情があるものだ。
現代俳句についても、あれこれと話し合う。おおむね、私の考えを石井さんが
肯定してくれたので、ここ1年ばかり、ずつと胸にわだかまっていたもやもや
に、ひとつの決着がついた気がした。

11時過ぎに、まず、玲はる名が帰り、私も30分過ぎに店を出る。
タクシーに乗って、春海橋から左手方向の夜景を眺めると、やはりそこには
ブレードランナーの光景があった。

・凡庸に過ごす日々いつだってその凡庸が重要だから/藤原龍一郎


[244] 蒼穹に巨大な空白がある 2001年05月16日 (水)

土、日、月、火と四日間、会社に行かなかったので、さすがに雑事が
溜まっている。
伝票、書類関係、プロジェクトの答申案の作成と根回し。
先週、撮影してもらった旧社屋の写真、36枚撮りのフィルムで14本分も
紙焼きにして、整理しなければならない。

午後になってからはLF会というOBの人達の会の幹事会がある。
私はこの会の会社側の担当なので、一緒に会議に出席することになっている。
今日は、デジタルコンテンツ部長のNさんにも出席してもらって、BS放送
について説明してもらう。
当然、現在の幹事の人達の現役時代にはBS放送などはなかったのだから
興味は大きいようだ。
解説を聞いたあと、実際のスタジオに行って、上柳アナウンサーの生放送の
姿を見る。さらにBSテレビで、その音声と映像を実際に確認してもらう。
見学のあとの結論は「オレたちはOBで良かったな」というホンネ。
事実、放送の仕組みは煩雑になり、稼ぎはさほど増えていないのだから
確かに早くOBになっている方が正解だろう。

帰宅後、「短歌人」七月号の編集作業を少しだけする。
高瀬さんがおこなっていた作業を今後はどのように分担するのだろうか、と
現実的な問題に直面することになる。

五月だというのに世界はモノクロで蒼穹に巨大な空白がある/藤原龍一郎


[243] 大いなる不在の日々を 2001年05月15日 (火)

10時ちょうどに祥雲寺に行くと、すでに、「短歌人」のスタッフの人達
は、かなり集まっていた。
昨夜、お夜伽をしてくれた西王燦さん、石川良一さん、倉益敬さんも元気な
顔で、受付の準備をしてくれている。

風が少しあるが、晴天なので、弔問の方達にとっても、天候的な迷惑はかか
らないだろう。
今日は弔辞があり、弔電披露があるので、昨日から今日にかけて届いた弔電
を、もう一度読みなおし、披露してもらう5通を選ぶ。
高瀬さんの生前からの考えで、弔問で来てくださっている人の前で、来てい
ない人の弔電をえんえんと紹介するのは変だ、という方針で選択する。

今日も私は受付の担当なので、昨日のスタッフの他に、今日手伝ってくれる
佐藤りえ、服部みき子、永田吉文、永井淑子さんたちと、記帳、香典集計の
手順を確認する。
11時近くになると、すでに、弔問、参列の方達が集まり始める。

予定時間の正午より、5分ほど早く、読経が始まる。
弔辞は千代國一、石黒清介、蒔田さくら子の三氏。
喪主の三井ゆきさんがお礼の挨拶をして、お別れから出棺へと進む。
涙を流している人、呆然としている人の数が、とても多いように見える。

親族と編集委員の人達と、私もマイクロバスで落合斎場へ向う。
今の斎場は施設的にも最も近代的な建物だと思う。
短いお経があり、最後のお別れとなる。
別室で小1時間待つ。どういう葬儀でも、この時間はやるせない時間だ。
骨上げということになり、私は西王燦さんと組んで、お骨をあげる。
また、バスで祥雲寺に戻り、初七日の法要に入る。

親族と手伝ってくれた「短歌人」スタッフとともに座敷で精進落し。
お香典の金額を再確認したり、弔花代金の精算など、きちんとすまして
おかなければならないことを、今井千草さんや小門則子さんたちと行う。

祥雲寺を出たのは、もう、5時半過ぎだったろうか。
5月の夕暮は妙に明るい。
ゆっくりと地下鉄の落合駅へと階段を下る。
大いなる不在との永い日々が始まる。


[242] 一団はかたまりてから歩き出したり 2001年05月14日 (月)

高瀬一誌さんのお通夜のために池袋の祥雲寺に向う。
有楽町線の要町駅から3分とのことだったが、もし、順路がわかりにく
かったら、誘導員を何人かたてなければならないだろうと思っていたが
地下鉄の5番出口というのを出ると、そのまま直進するだけであり、す
でに、葬儀社が出した「高瀬家葬儀会場」という立て看板が二枚出てい
たので、迷う人は居ないだろうと判断する。

三井ゆきさん、蒔田さくら子さんは奥に居る。
すでに中地俊夫さんが到着していたので、弔花の名札の文字のチェックを
する。やはり「十月会」が「十日会」と誤記されていたので、すぐに書き
直してもらう。
事前にお願いしておいたスタッフをしてくれる人達が続続と到着。私は受付
担当なので、十月会の武市房子さん、沢口芙美さん、古谷智子さん、短歌人
の池田裕美子さん、関谷啓子さん、村田馨さん、今井千草さん、高澤志帆さ
ん、宇田川寛之さん、西王燦さんに集まってもらい、段取りの説明と確認を
おこなう。

通夜は午後6時開始だが、5時をまわったころから、参会者の方々が集まっ
てくる。
涙を流している人が多い。呆然とした表情の人も多い。
葬儀とはそういうものなのかもしれないが、やはり、高瀬一誌という人の
突然の喪失は、信じるまでに時間がかかる。私自身、まだ、本当の意味で
納得できているわけではないだろう。

読経が始まり、焼香が進み、それでも次々に会葬者がやってくる。
七時を過ぎても、「短歌人」の若いメンバーがやってくる。
仕事を終えて、とるものもとりあえずかけつけてきたという表情だ。
柚木圭也も七時過ぎにやって来た。彼の「歌壇」の50首を高瀬さんは
読むことができたのだろうか。

香典の計算を、検算をふくめて、何度かくりかえし、8時半近くに、ス
タッフも、お清めの席に参加する。
お清めの席にはまだたくさんの人達が居てくれて、にぎわっている。
宇田川寛之さん、小池光さんと、明日の告別式で紹介する弔電を選ぶ。
明日、スタッフとして、手伝ってくれる人達に集合時間の確認をする。
西村美佐子さんが「私は高瀬さんに言われたことにさからってばかりいた」
と言う。そういうものだと思う。私も同じ気持ちである。
今夜は西王燦さん、石川良一さん、倉益敬さんが、お寺に泊まって、真の
意味でのお通夜をしてくれることになっている。

すでに十時近くになっているので、三井ゆきさんと蒔田さくら子さんに、
帰っていただくようにする。
お二人が帰ったのを確認し、しばらく時間をおいてから、中地俊夫さんに
終了する旨の挨拶をしていただく。
松原一成さんと要町まで一緒に行き、有楽町線で帰る。

バスを待つがに見えし一団はかたまりてから歩き出したり/高瀬一誌


[241] 短歌を武器として戦う 2001年05月13日 (日)

朝、中地俊夫さんから電話。
「土曜日の夜、高瀬一誌氏逝去」とのこと。享年71。
高瀬さんは私の結婚の媒酌人であり、今の会社に入るときの保証人でもある。
ちょっとボーっとしたまま、史比古と南砂町のジャスコまで自転車で、PC
用のラックと椅子を買いに行く。
やはり、精神的な虚脱状態になっていたのか、途中で一度、赤信号に気づか
ず、道路を横切ってしまい、ヒヤリとする。

帰宅後は自宅待機。何ヶ所かと電話連絡をとる。
会社の上司の自宅に電話して、事情を説明し、月、火の二日間の休みの了解
をもらう。
たまたま、今日は「短歌人」東京歌会なので、歌会の冒頭で蒔田さくら子さ
んが、出席者に高瀬さんの逝去について報告するとのこと。

心がさわだっておちつかないまま、佐野眞一の『誰が本を殺すのか』と立花
隆の『旧石器ねつ造事件を追う』の二冊を交互に読みつづける。
無理矢理、ほかのことに意識を集中させようという試みながら、しかし、
高瀬さんのことのあれこれが、本を読みながらも、頭の隅に浮かんでは消え
ている。
高瀬さんと初めて会ったのは一九七二年の4月くらいの歌会だったと思う。
30年間、公私ともにお世話になりっぱなしだったわけだ。
考えてみると、初対面の時の高瀬さんは、現在の私より若かったのだ。

高瀬一誌さんの言葉を最後に引いておく。
「あなたは現代短歌の何を否定して作品を書いているのか、それが見えない。
いつから新人は短歌を武器として戦うことを忘れたのだろう」

この精神を高瀬さんから徹底的にたたきこまれたと思う。


[240] 航空機発達以前 2001年05月12日 (土)

汗をかく季節になったためか、また、アトピーが出てきたので、
Tクリニックへ朝から行く。身体のふしぶしが、風邪っぽくて痛い
のも、ついでに診てもらうことにする。
アトピーはいつもの薬。風邪の方は点滴。ちょうど、電車の中で読んで
いた「噂の真相」の「仙台筋弛緩剤混入事件冤罪説」なる記事を読みな
がら、点滴を受けるのはなかなかドラマチックなものがある。

クリニックを出て、新宿へ行く。
先日、びゅう商品券というのをいただいたので、小田急百貨店にある三
省堂書店で、この5000円分の本を買おうという魂胆だった。おつり
が出ないというので、5000円ちょっきりか、それより上の額の本を
買わねばならない。というわけで、以下の本を購入。

川名大著『現代俳句・上』ちくま学芸文庫 1500円
城昌幸著『怪奇探偵小説傑作選・城昌幸集』ちくま文庫 950円
天藤真著『遠きに目ありて』創元推理文庫 720円
天藤真著『死角に消えた殺人者』創元推理文庫 860円
別役実著『もののけづくし』ハヤカワ文庫 540円
別役実著『道具づくし』620円

これだけで消費税込み5449円。現金449円でこれだけ買えたと思えば
なかなかうれしい買い物になった。

都営新宿線で神保町に出て、K豚餃子の昼食を食べ、久しぶりに古書店
めぐり。一誠堂で、ここ1年ほどずっと探していたブロンズ社の『女優グ
ラフィティ』を発見。即購入。この本は川本三郎と小藤田千栄子の共著で
一九六〇年代から一九七〇年代にかけてスクリーンで活躍していた外国人
女優に関する一種のエッセイ風の事典。姉妹篇に『傍役グラフィティ』と
いう本もある。この二冊、かつては持っていたのだが、一九七九年頃に
家にある書籍類を売りながら1年間生活しなければならなかったので、手
放してしまったもの。川本三郎の文章がまだ初々しくてとてもいい感じだ。

帰宅して、競馬を電話投票で少し買って、昼寝をして、夜になる。
講談社コミックス『泣くよ!うぐいす』全七巻を読む。面白い!
「爆笑オンエア・バトル」を見る。つまらない!

・航空機発達以前雨の朝巴里に死すなどを客死といふ/小池光


[239] 7月1日朗読バトルのお知らせ 2001年07月01日 (日)

7・1朗読バトル「辰巳泰子VS藤原龍一郎」
 7月1日(日)三鷹市芸術文化センター
       「星のホール」午後7時開演
 (JR三鷹駅からバスか、徒歩15分)

 最新歌集である「東京式」(藤原龍一郎)、「恐山からの手紙」(辰巳泰子)からの朗読が中心。異ジャンルにも挑戦します。辰巳は新作「風を待つ人に贈る歌」(恋の歌)さらに自作の童話を朗読します。
 石井辰彦さんがゲストとして駆けつけてくださいます。
 「空想対談 寺山修司vs中城ふみ子」もお楽しみに。現役放送作家のシナリオによる、劇的対談です。
 寺山役は森本平。中城役は辰巳泰子。藤原龍一郎は本人役です。
 「短歌人」所属の異才松原一成作・演出、おまけに出演です。


[238] ほのかな闇をすり抜けるように 2001年05月11日 (金)

やっと週末になった。今週は月曜から風邪っぽかったこともあるけれど
一週間が長かった。
6月と7月の特別職宿直のローテーション表をつくる。
大地震が夜中に発生した時にそなえて、管理職が毎晩一人づつ泊まることに
なっているのだが、そのローテーションを私がつくっている。
どうしても連休とかは、みな泊まりたがらないわけで、やむなく私自身が
宿直に入るということも多くなる。
実際、「オールナイトニッポン」のスタッフたちが夜中でも生放送をして
いるわけなので、首都圏直下型大地震が起きても、放送が途切れることは
ないし、すぐに、特別報道体制には入れるので、宿直者はほとんど何もす
ることはないと思うが、いちおう、責任者として居なければならない。

昼休みに「噂の真相」と「ファミ通」を買う。
「噂の真相」に岡田斗志夫が離婚という記事が出ている。ふーん。
吉田照美の不倫報道はQR社員のリークとの一行情報も。ふーん。

「「マッツ」の今月号に藤原さんの名前が出てますよ」と郵便室のアルバ
イトの男子学生に教えられる。おぼえがないのだけれど、と不思議な気持
ちで読んでみると、向井ちはるさんのミニ・エッセイに私が『嘆きの花園』
を、お送りしたことが書かれていたのであった。彼女は今、コラージュを
製作中なので、『嘆きの花園』の勝本みつるさんのコラージュがとても参
考になった、という展開。有用な歌集ということで、私もうれしい。

帰宅すると「かばん」と「パピエシアン」が届いていたので、ぱらぱら見る。
きちんとよみたくなるページが毎月ある歌誌というのは貴重である。
「短歌人」のエリさんに、今月の月例歌会には欠席する旨の電話をする。
彼女が作詞した、益田宏美のテイチク移籍第一弾「うちくだかれて」は
すでに発売になり、ちょうど、NHKの「ふたりのビッグショー」で
歌われた直後だったとのこと。しまった。見ればよかった。かの子と一緒に
「ワレワレは地球人ダ」を見ていて、気がつかなかった。

・その笑みにかすかに星を見たようなほのかな闇をすり抜けるように/向井ち
 はる


[237] サイドカーに犬を読む 2001年05月10日 (木)

「恒信風」の同人の長島肩甲こと長島有さんが「サイドカーに犬」という
小説で文學界新人賞を受賞された。
私は長島さんとは面識はないが、なぜか、うれしい気分になってしまった。
「サイドカーに犬」は語り手の姉が久しぶりに弟と会うあいだに、小学生
時代のある夏休みに体験した、母が家出した日々のあれこれを回想すると
いうものなのだが、語りくちのバランスが良く、読んでいて気持ちがよい。
洋子さんという、父の愛人らしい女性の存在感がくっきりしていて、とても
魅力的に描かれている。
私は読みながら、つげ義春の作品のイメージが頭に浮かんで、つげ風の
ヴィジュアルイメージを頭に浮かべながら、読み進んでいた。
もちろん、つげ義春と似ているというわけではなく、私にとっての心地よさの
ベクトルに同質なものを感じさせてくれるのかもしれないが。
ともあれ、この小説はおすすめできる。

もう一作、吉村萬壱「クチュクチュバーン」という受賞作も読んだ。
こちらは一転して、グロテスクきわまりないシュールな世界を描いたもの。
こちらも実は面白かった。
選考委員の批評では初期の筒井康隆や山田風太郎や深沢七郎に似ているとの
意見が出ているが、私はむしろ椎名誠の『武装島田倉庫』とか『水域』とか
に描かれた、奇怪な世界を連想した。まあ、原点はオールディスの『地球の
長い午後』なのだが。ただ、描写にはかなり劇画の影響がありそう。

選考委員は辻原登、浅田彰、島田雅彦、山田詠美、奥泉光の5人。
「文學界」を買ったのは25年ぶりくらいだろうか。
選評を読むと、文學界新人賞というものも変わったなあ、としみじみ思う。
戦前の同人誌だった頃の「文學界」には文學界賞なるものがあって
中原中也も例の「六月の雨」で候補になったことがあるそうだ。
でも、そのときに受賞したのは岡本かの子の小説「鶴は病みき」。
これは北川透の『詩的スクランブル』に書いてあった。
でも、その頃の文學界には、岡本かの子が資金的バックアップをしていた
ということは、伊藤整の『日本文壇史』に書いてある。
とはいえとはいえ、「鶴は病みき」は私の好きな小説である。


[236] 世界は笑っているだろうか 2001年05月09日 (水)

有楽町の旧社屋の内部を写真に撮って記録しておこうということで、産経の
写真報道局のカメラマンに依頼して、屋上から地下の電機室まで撮影する。
もう、警備員以外、人のいない建物なので埃っぽく、不健康な感じが漂って
いる。人間でいえば、瀕死の状態ということだろうか。

結局、午後3時過ぎまでかかってしまう。
埃のアレルギーのために、目が赤く充血してしまう。
浜松町のブックストア談で「恒信風」の長島肩甲さんが新人賞を受賞した
作品が掲載されている「文学界」6月号を買う。
会社へもどると、また雑事がたまっていて、七時過ぎに会社を出る。

夜、昨日、半分だけ見たWWFのレッスルマニアのビデオを見る。
ビンス、リンダ、シェーン、ステファニーのマクマホン・ファミリーが
リングで血の確執をくりひろげる様が、今回の大きな見せ場なのだが、
つまり、ここまで恥も何も捨てて、客に見せるのがアメリカのエンター
テインメントなのか、と驚かされる。
ドラマで演技しているのだと思えば、すんなり、理解できるはずなのに
巧みに虚実皮膜のフィルターを目にかけられてしまうので、ついつい、
ショックや驚きが倍増してしまう。

正岡豊さんが自分のHP「天象俳句館」に4/28のマラソンリーディング
5/3の「詩人・山本陽子」に関するシンポジウム、5/6の「たった今覚
えたものを」と「路上の果実」の批評会のレポートを一気にアップしている。
このエネルギーに驚くと同時に、黄金週間最終日の新幹線の混雑と北川透の
『詩的スクランブル』の中の言葉と自分の批評会レポートをフラッシュバッ
クさせていくような表現方法の照れのあるケレンがやはり面白い。
こういう人が居ると自分の属する世界が豊饒になる気がする。


[235] 身のおきどころなきさまに立つ 2001年05月08日 (火)

砂子屋書房から出た『石田比呂志全歌集』を石田比呂志さんが送って
くださった。
この本の読みどころは、第一歌集『無用の歌』以前の初期作品564首が
収録されていること。
私は石田比呂志短歌に関しては、かなり好きで読み込んできているが、も
っと大きな評価を受けるべき歌人だと思っている。
通俗性が嫌われるのかも知れないが、表現においての方法論的通俗性であ
り、本質的な俗物根性ではないということが理解されていないようだ。

・夕映えの中にをりしがつひにして身のおきどころなきさまに立つ/
 石田比呂志「初期歌篇」

九州の熊本市在住のこの歌人がなぜ若山牧水賞の受賞者にならないのか
不思議でならない。


[234] みづとりはおのれの白に 2001年05月07日 (月)

連休あけはやっぱり会社へ行きたくない。
私の場合、連休あけに限ったことではないが。
会社へ行って見ると、やはり、雑事が山積。うんざりしながら一日過ごす。

「かばん」に所属している塩谷風月さんが中心になってつくった声の同人誌、
CDの二枚目と三枚目を聞いた。
これは、予想以上に面白く聞くことができた。
録音を前提とした発声表現というのは、この前の朗読会とはちがって、
一回性ではないわけで、くりかえし聞かれる、いろんなシチュエーションで
聞かれるという前提があるのと、失敗した場合、やりなおせる、というのが
あるためか、朗読会のとき以上に、個々の表現者の個性が感じられるような
気がする。
単純にみんな「読み」は巧いと思えるのも、そういうことが理由だろう。
遊羽さんという男性が、英語の詩を奥秩父山中の封鎖されたトンネルの中で
録音したというのがあったが、かすかにバックに風の音が入っていたり、
あえかな残響がきこえたりして、いわゆるレコーディングした音声表現と
いう面白さがある。
それにつけても、正岡豊さんの京都駅階段上シャウトというのは、やって
ほしかった。
あとの人達も、技術的には巧いと思えるものが多い。
「声の同人誌」の試みに参加させていただけたことを感謝したい。

みづとりはおのれの白に狂はずか/宮入聖


[233] ゴールデン・ウィークの終焉 2001年05月06日 (日)

朝、かの子と一緒に自転車でイトーヨーカ堂へゲームボーイアドバンスを
買いに行く。確か三月までは、日曜の開店時間は9時だったと思ったので
家を出たのだが、本日の開店は10時だった。
一度、家にもどり、10時になってから、こんどは歩いてでかける。
ゲームボーイアトバンスとソフトは「くるくるくるりん」というのを買う。

もう一度、家にもどり、「たった今覚えたものを」と「路上の果実」の
出版記念会へ行くまでの時間を、歌集の礼状などを書いて過ごす。
途中で書留が来たので、何かと思ったら、塩谷風月さんがつくった
「声の同人誌」だった。これは待ちわびていたもの。うれしい。
CD3枚組の大作である。
私は「柴田千晶作品「一九九九年秋、ヴィーナスフォートの空」を主題に
した声のコラボレーション・作品@」という3分57秒の作品で参加して
いる。正岡豊さん、沼谷香澄さん、片野晃司さん、田村葡萄さん、白糸雅樹
さん、茂泉朋子さんたちが参加している。私とは黄昏詞華館でおなじみの
北村秋子さんが参加しているのも嬉しい。田中庸介さんの詩を荒島美幸さん
と有野美香さんが朗読しているのも収録されている。
これは、あとで、じっくり聞くことにして、新宿モノリスへ。

『短歌21世紀』関係の人と他のラエティティアのメンバーが半々くらいで
約七十人強の出席者。私は小川優子さんの『路上の果実』のパネリストを
加藤治郎さんと木戸京子さんと一緒におこない「自己浄化と鎮魂・再生の
物語」である、との意見を言った。
立食パーティになって、屋根裏の散歩社のあら川さんに会えたのがうれし
かった。正岡豊さんが無頭鷹さんを紹介してくれる。子供さんづれのぽっぽ
さんと飯田有子さんと初対面。これもうれしい。
伊津野重美さんとも朗読掲示板の月岡道夫さんの書き込みに関して話した。
伊津野さんがブディストホールで朗読の時に指にはめていた楽器は
フィンガー・シンバルというトルコ方面の楽器なのだそうだ。
私が朗読をやろう、と思ったのは、伊津野さんが「イグレク」という雑誌に
書いていた、詩人の朗読会のレポートを読んだことが大きなきっかけだった
ので、彼女の朗読実践及び批評にはとても興味がある。

二次会になって、「短歌21世紀」の伊藤邦明さん、神山卓也さんと話す。
佐藤さんは事故で中途失明しながら、ピースボートに乗って、世界中の
写真を撮っているという方。中途失明を克服するのがいかにたいへんかを
多少は知っているので、こういう人の存在は救いである。
神山卓也さんは、政治のことを真剣に考えている人。短歌にもまた真剣で
あるというのが面白く貴重といえる。

中澤系さんからWWFのマニアッアーのお土産としてオフイシャル・マガジ
ンとレッスル・マニアの公式パンフレットとビデオをもらう。
これは貴重でうれしい。帰りの地下鉄でパンフを見ながら、もう、ゴール
デン・ウィークも終わりだなあ、とうんざりする。


[232] 緑蔭の蛇口を性とみて帰る 2001年05月05日 (土)

今日も外出の予定はなし。一日、本の整理と読書ですごすつもりでいるの
だけれど、なかなか集中力が出なくて、本が読めない。
床に直接置いてある短歌、ミステリ関係の本だけでもかたづけないと、
まもなく、かの子の担任の先生の家庭訪問があるので、みっともない。
と、いうわけで、なんとか、床上の本だけは、ボール箱に詰め込み、ベラ
ンダに出す。

午後、ちょっと横になったら、昼寝してしまう。
起きたのが夕方四時半過ぎ。気分転換に自転車で洲崎方面へ行く。
何か、身体がふらふらとして力が入らず、自転車もよろよろしてしまうので
小1時間で家へ戻る。

夜になってようやくしゃきっとする。
新日本プロレス中継。
前回のテレビ中継がいきなり乱闘から入って、一般視聴者にはわけがわから
ない、と評判が悪かったので、今回はきちんと獣神サンダーライガーと
エル・サムライ組VSドクター・ワグナーJrとシルバー・キング組の
いかにもプロレス的なタッグマッチから見せたのは正解だろう。
とはいえ、メインエベントの小川、村上VS長州力、中西学組はつまらない
展開になってしまった。
四月十八日の武道館でNOAHの三沢光晴、力皇猛組がプロレスラーの強さ
をあざやかに見せつけて勝っているので、長州、中西が負けられないのはわ
かっていたが、それゆえ新日の二人が勝ちにこだわってしまっていた。
長州も中西も、警戒しすぎて、なかなか小川のふところにとびこめない。
三沢はエルボーでガンガン小川を攻め込んだのに。
結局、中西が村上をチキンウイングアームロックでしとめたものの、これも
中西らしくない。ここはアルゼンチン・バックブリーカーをきめて見せてく
れなくては。それがプロレスラーのプライドというものだろう。

現在の新日本プロレスのダメさ加減を見せつけられたメインだった。

夜更け、ようやく、一冊、本を読み終わる。
矢野誠一著『戸板康二の歳月』文藝春秋刊 1600円
弟子筋にあたる矢野誠一が書いた戸板康二の評伝。
戸板を東京山の手生れの気質の体現者としてとらえた視点は面白い。
下町生まれの久保田万太郎や福田恒存との比較など、かなり面白い。
東宝のプロデューサーから堤清二に請われて西武セゾンに移籍したものの
結局二年足らずで鉄道自殺をとげる大河内豪が登場するあたりから、内容
は、戸板康二を巡る点鬼簿の様相を呈してくる。
新劇の内幕など、まったく知らないことばかりなので興味深く読んだ。

・緑蔭の蛇口を性とみて帰る/宮入聖『K彦』


[231] 敗戦投手高頬のゆめ薔薇色と 2001年05月04日 (金)

今日は一日、家にいる休日。
本の整理をしたり、原稿を書いたり、電話投票で馬券を買ったりしてすごす。
京都新聞杯のテンザンセイザの単賞と複勝を買っておいたのが良かった。
こんなに人気がなかったとは思わなかった。ラッキーだね。

塚本邦雄の『されど遊星』までの歌集をぱらぱらと読みなおす。
やはり、自分の短歌の原点はこの時期の塚本邦雄短歌にある、ということを
再確認する。

・うなだれて敗戦投手高頬のゆめ薔薇色となど言はざれど『されど遊星』

この歌は初出の雑誌で読んだ記憶がある。
「敗戦投手」というようなスポーツ新聞的単語が、みごとな詩語に昇華され
ているのを見て、興奮したものだ。

史比古はゲームボーイアドバンスを買ったのでずっとそれをやっている。
かの子と夕方、自転車に乗って、東陽町の文教堂へ行く。
『365日のバースデーテディダイアリーブック』を買ってやる。
古本屋の東陽書房をのぞくと
ウディ・アレン短編集『これでおあいこ』300円
バックウォルド傑作選『そしてだれも笑わなくなった』200円
というのをみつけてしまい、ついつい買ってしまう。また本がふえる。


[230] ハンニバル音頭でひと騒ぎ 2001年05月03日 (木)

「短歌人」の拡大編集委員会。
朝10時前に池袋の芸術劇場5階の会議室へ行く。
すでに長谷川富市さんが来ている。
久しぶりの西王燦、小池光、山下雅人が来る。
午前中の議題を終えて、2階のバイキングの店で昼食。
ここは、年2回食事をしているわけだが、年々まずくなる。

午後の部は2時からなので、一度解散して、私は一階の古本大学へ行く。
ここは本がよく入れ替えられているので、いつのぞいても収穫がある。
横溝正史の角川文庫版『恐ろしき四月馬鹿』、石川淳のちくま文庫版の
『新釈雨月物語・新釈春雨物語』を買う。二冊で780円。
横溝の方は30日に買った「山名耕作の不思議な生活」の姉妹篇。
横溝の初期短編のうち大正時代に書かれたものが『恐ろしき』にまとめられ
昭和初期のものが『山名耕作』の方にまとまっている。
もともとみつかりにくい本だったのだけれど、片方がみつかると
もう一冊も今日のようにみつかる。
こういうシンクロは古書を集めているとよくあることなのだ。

午後は他の編集委員が集まって、山積の議題を次々に討論して
結論を出して行く。
会議を終えて、東武の14階の田屋という店で夕食。
食事中に小池光さんが、漢字が縦書きなのは、硬い筆記具のペンではなく
柔らかい毛の筆で書くから、縦の線に力が入るので、結局、縦書きになった
のだという説を考えついた、と披露する。
9時前に解散。

帰宅してから、史比古が録音しておいてくれた「伊集院光の深夜の馬鹿力」
の録音を聞きながら、短い原稿を2本書く。
伊集院光のラジオは毎週、こうやって録音で聞いている。
今週は「ハンニバル音頭」というネタが秀逸。

・鏡花犀星なまぐさかりし五月闇/宮入聖『月池』


[229] 青葉若葉のここそこあそこ 2001年05月02日 (水)

昨日に続いてバスがすいているし道もすいている。
会社の仕事は連休の前にすまさなければならないものと
連休明けに終らせればよいことにわかれるわけだが、
結局、連休に休日出勤したくなければ、連休明けに終らせるべき仕事も
きちんとやっておかなければならない。
こういうことは、当然なのかもしれないが、私はナマケモノなので
休みの前だからといってバタバタと動きたくないし、休日出勤もしたくない。

放送やイベントの現場に居た頃は、ゴールデンウィークなどはまったく
関係なく、仕事をしていたのだが、一昨年、企画開発部に居ながら、
黄金週間のイベントがまったくなく、暦どおりに休んで以来、昨年、
今年と総務部での勤務で、完全に暦にしたがって休んでいる。
こういうふうになりながらも、まだ休みの使い方がヘタで、
集中して何かおこなうとかいうことができないでいる。
せめて、今年は本を集中して読みたいなどと思ってはいるのだが。

彦書房というネット通販の古書店から、注文しておいた
矢野誠一著『戸板康二の歳月』が届く。
戸板康二の評伝。戸板康二の文章の上手さにひかれて、現在は戸板関連の
本を集めているのだが、これはその中の一冊。
戸板康二は折口信夫の弟子筋で、「鳥船」会で短歌をつくっていたこともあ
るのだそうだ。

・青葉若葉のここそこあそこ指紋だらけ/宮入聖『月池』


[228] わたしはその憎しみを 2001年05月01日 (火)

昨日の日記が4月2日づけになっているのは30日のまちがいですから。

ウイークデイなのに連休のはざまということで道がすいている。
しかし、急激に気温がさがったので、身体の節々が痛い。
午前中、医務室で風邪薬をもらって呑むが、まったく効かない。
昼は新生舎の沖喜さんが来てくれたので、石原さんと三人で食事。
しかし、風邪はひどくなってきたようで、食欲もへっている。

午後、石原さんと水上警察へ行く。
生活安全課の課長が4月に新しい人になったので挨拶する。
タクシーでレインボーブリッジを往復したのだが、警察に居た時間も
ふくめて45分で行って帰ってきたことになる。

防災プロジェクトの会議の最中、急に風邪薬が効いてきたらしく
猛烈な眠気が襲ってくる。
終ったらすぐに、新入構証の外部スタッフ分の分類を手伝う。
18時になったので、あわててかたづけて、新経理システムの会議。

19時半のバスで豊洲まで帰り、豊洲図書館の夜間返却ボックスに
ずっと借りっぱなしになっていた生野籟子の『二百回忌』を放り込む。
身体はどんどんだるくなっている。
帰宅、入浴、就寝。

結城昌治の「紺の彼方」という俳人を主人公にした短編ミステリの中に
「わたしはその憎しみをたいせつに育てた」という一節があり、印象に残る。

・朝顔の紫紺の帯のしどけなき/宮入聖『鐘軌沼』


[227] 四月の雨を挽歌と聞けば 2001年04月02日 (月)

詩人の和合亮一さんから電話をいただいた。
『AFTER』『RAINBOW』と詩集は読ませていただいているが
実際にお話するのはもちろん初めて。緊張する。

雨の休日なので、本を一冊読み終わろうと午前中に決心したのだが
結局、夜になったら、数頁しか読めていない。

午後、胃がもたれるので、洲崎の薬屋まで胃薬を買いに行く。
すぐそばの、あづま書房という古書店に寄ってしまう。
何も買わないつもりでいたのに、また、大量に100円文庫を買ってしまう。
読まずに買うばかりの日々である。
とはいえ、北村薫の創元推理文庫版の『空飛ぶ馬』を買ったら、サイン入り
だったり、いいことももちろんある。

あと、横溝正史の角川文庫の珍しいところが、どっと出ている。
誰かがまとめて処分したのだろうか。
『山名耕作の不思議な生活』とか『花髑髏』とか『血蝙蝠』とか
現在は絶版になっていて、その手の専門書店では、そこそこの値段が
ついているものが100円なので、ついつい買ってしまうのですね。

・東京都二十三区に降りしきる四月の雨を挽歌と聞けば/藤原龍一郎

出産を間近にして急死した、元シュガーのモーリへの挽歌。
彼女は古舘伊知郎さんの番組のアシスタントをしてもらっていたのだが、
産休前の最後の出演をしてもらって、とても元気な笑顔で別れたのに
翌週の番組の本番中に訃報が入ってきた。信じられなかった。
芸能人でも、こんな死に方をするのだ、と思った。
不可解な日々を重ねてゆく。


[226] 無言電話のむこうから 2001年04月29日 (日)

史比古と一緒に新宿へ行く。
南口側にまわって、紀伊國屋書店へ行く。
『めちゃイケ大事典』と『爆笑問題・時事少年』を買う。
こういう本はバカにせずにちゃんと買うことにしている。

雑誌コーナーで、買いそびれていた「週刊ゴング」を立ち読みする。
三沢光晴のインタビューがおもしろい。
当然、十八日のゼロワンのことにふれているのだが、
アレキサンダー大塚とNOAの杉浦の闘いのあとで、ほとんど
いいとこなしでいながら、一瞬の関節技でやっと杉浦を倒した大塚が
「デビュー4ヶ月の奴とやらせるな!もっと強い奴をつれてこい!」と
マイクアピールしたことに対して
「池乃めだかじゃないんだから、あれだけ新人にやられて、あのアピールは
ないよね。今日はこれくらいにしといてやらあ、だ」
と言っているのには笑えた。

帰宅して、天皇賞・春でテイエムオペラオーが圧勝するのを見る。
ナリタトップロードはテイエムにやはり勝てずに2着か、と思った瞬間、
2着指定席のメイショウドトウが外から差して、ちゃんと2着になった。
この3頭の力関係にはせつないものがあるなあ。

夕方から夜にかけて原稿を一本書く。
これで、連休中にはあと「NHK歌壇」の時評を残すのみ。
せめて、本を5冊くらいは読みたいのだけれど。
今、読み終わりそうになっているのは
ゴールドストーン夫妻の『旅に出ても古書店めぐり』ハヤカワ文庫。

・午前二時 無言電話のむこうから小さくスワンソング流れる/村上きわみ


[225] 朗読というイリュージョン 2001年04月28日 (土)

いよいよ「マラソンリーディング・連鎖する歌人たち」の当日。
朝10時にきちんとブディストホールへ行ったら、まだ、誰もいない。
楽屋と調整室の位置だけ確認して、あと、客席で待っていたら、
喫茶室でお茶を飲んでいたという槐さんと大井学さんがやってくる。
続いて、岡田幸生さん、錦見映理子さん、佐藤りえさん、玲はる名さん、
村田馨さん、村井康司さんたちが次々に。

石井辰彦さんがアメリカ土産のチョコレートをもってきてくれる。
五賀祐子さんが、早速、食べる。
準備をしているとあっというまに時間が過ぎてしまい、精神的にもあせりが
出てくるのだが、今回は槐さんと佐藤りえさんの実務的なてきぱきした動き
が、私には心強いものだったので、わりと平静な気分でいられた。

私はトップに出ておいて、いろいろな意味でよかったと思う。
全員の朗読を聞けたわけではないのですが、
そらの咲さんのシュプレヒコールとか山下雅人の怒りを叩きつけるような
発声には、心の燠火をかきたてられるような刺激を感じた。

田中庸介さん、宮崎ニ健さん、阿部日奈子さんたちに初めて、お目に
かかることができた。
二次会もこれだけの大人数をよく入れる店をみつけられたものだ。
槐さんのそういう能力はスゴイ。こういうことがきちんと仕切れるのも
プロデューサーの重要な要素なのだから。

正岡豊さんがきてくれたこと、踊ってくれたことは、私にはとても嬉しい
ことだった。夛田さんが正岡さんに寄り添っている。

朗読というイリュージョンをたくさんの人達と共有できたかもしれない土曜日。


[224] むらさきの傘の下にて 2001年04月27日 (金)

昨日、星新一の「鍵」を久しぶりに再読したら、精神が急に過去へ向って
吸引されていくような気がして、こんどは半村良の「虚空の男」を、会社
へ行く途中のバスの中で読んでしまった。半村良の初期の短編だが、彼の
本質の奥底にあるペシミズムが色濃く匂う佳作。なんど読んでも心がしめ
つけられる。

会社についたらモニターからジュディ・オングの「魅せられて」が流れて
いた。この曲は1979年のヒット曲。この年のレコード大賞を西城秀樹
の「YMCA」とあらそった曲だ。私がフリーライターとして野心と傷心
の谷間でもがいていた年でもある。この曲を聴くと、当時の絶望的な心情
がよみがえり、鼓動が速くなってくる。1979年から1984年までの
フリーランスの時期、私は自分の才能に関して疑いを持たぬ日はなかった。
たとえば、漫才師の中田軍治の自殺も他人事とは思えなかった。そしてそ
の疑いに対して判断を停止したまま、私は再びサラリーマンに戻った。そ
れが、正しくないかもしれないが、おとなの結論だったことは今なら解る。

ゴールデンウィークをひかえての月末ということで、伝票作業が前倒しに
なっている。煩雑な作業で午前中を過ごし、上村さんと佐々木さんと一緒
にFM東京へ行く。総務的な情報交換ということだ。もちろん、おとなの
サラリーマンたちもそれなりのウンザリせざるをえない状況に閉じ込めら
れていることを実感する。

夜は神楽坂で駄句駄句会。
席題は「柏餅」と「夏めく」。

私が「天」に選んだのは

・夏めいて老婆の目玉流れ出す

亜鯛こと漫画家の高橋春男さんの句だった。
高橋さんは大喜びだったが、山藤章二さんはこの句を「虫(無視)」に
選んでいた。
私の句は玉置宏さんと高田文夫さんと「小説現代」の宮田さんが「天」に
選んでくれた。でも、ここにはどんな句かは書かないの。

面白い句は
・本気柏餅好きさ大好きさ
・和菓子バカよねおバカさんよね柏餅

どちらも風眠こと高田文夫さんの句。

帰宅後、明日のマラソンリーディングの練習をちょっとだけする。

・海彼はるかなマリリン・マンソン むらさきの傘の下にて火を打つわれは
 /高島裕


[223] ああ、そんな日々もあったね 2001年04月26日 (木)

なんだかけだるい日々が続いている。
会社でも、組閣情報などだらだら時間をつぶしている感じがする。

「SFマガジン」の6月号は「日本SF全集第一期普及版」と銘うって
日本人作家の初期の作品を再録している。
ここのところ河出文庫やハヤカワSF文庫で、海外SFの初期の作品の
アンソロジーが出ているし、懐古的なムードが強い。
と、いうより、温故知新ということなのだろう。
その「SFマガジン」に星新一の「鍵」が再録されている。
初出は「ミステリマガジン」1967年3月号ということなので、
私は中学三年生だったと思うが、この作品はこの雑誌で読んでいる。
中学生の時から「SFマガジン」や「ミステリマガジン」を買っていたらしい。
いちばん熱心にSFを読んでいたのは1960年代の後半、つまり、中学生
から高校生にかけての時期だったのかもしれない。

当時、私はSFファンダムに首を突っ込んでいたので、けっこう、SF作家の
ところをたずねたことがある。
星新一、筒井康隆、豊田有恒といった方々のところには、SF大会のパンフ用
の原稿をいただくということで、自宅をおたずねしたおぼえがある。
なにか本当に遠い遠い昔のような気がする。

最近、さっきのアンソロジーで古き良き時代のSF短編ばかり再読している
ので、精神的に退嬰的になっているのかもしれない。

・バイオレンス・ジャックでかつて見たような廃墟・虚無そののちの暗黒

今日は自作で失礼します。


[222] 25日分・追記 2001年04月26日 (木)

昨日の日記の引用歌

・死にてよき生きてよきいま何ほどの残ありや 氷がとざしゐる靴/高橋正子

作者名を書き忘れるというミスをしてしまった。
高橋正子氏は1980年代の終わりに自裁されている。


[221] いま何ほどの残ありや 2001年04月25日 (水)

●月末の定例会議。
 政局が動いているので編成、報道、制作関係者はあわただしく動いている。
 私は比較的エアポケット状態。
 留守番部隊というイメージで終日デスクにはりついていたが、結局、こと
 もなく過ぎてしまった。

●今日、古書店の通販で購入した本。
 高橋愁歌集『石よ未明を』
 現代短歌・北の会編集『北の会76』

 高橋愁氏の歌集は書き下ろしで1970年に刊行されたもの。
 氏は現在も一貫して反体制の姿勢を持続し、厳しく引き締まった文章や
 作品を発表し続けている。
 『北の会76』は北海道在住の歌人のアンソロジー。
 菱川善夫氏が中心になって編纂したもののようだ。
 西勝洋一氏や細井剛氏も参加している。
 高橋愁氏の作品も載っている。
 高橋正子、賀村順治、浅野志のぶ、といったなつかしい名前も見える。

・前進か死か百年の刑はかの思想犯のみ 夕あかね恋う/高橋愁『石よ未明を』

・死にてよき生きてよきいま何ほどの残ありや 氷がとざしゐる靴

●歌葉の入選作を読んだ。佳作もふくめてどれも面白く、言葉の感覚も
 優れている人が登場してきた、と思う。
 とはいえ、私の原点は上にひいた1970年代の短歌、その切実な
 自己表白にあるようだ、とあらためて確認する。


[220] からだあづけて沼のやさしさ 2001年04月24日 (火)

・最後までパパには振られ続けたの しかもシメ鯖アレルギーなの/玲はる名

●こんな短歌があった。
 ところで、しめ鯖アタル、ヒカルって漫才コンビが居るのをレイハルさんは
 知ってるかな。
 かれらの前の芸名は、雨空トッポ、ライポ。その前は北枕。さらに前は水呑
 百姓。たけし軍団出身で浅草キッドの弟分。漫才の力はかなりのものなのだ
 けれども、ボキャブラ・ブームにも乗り遅れて、今もまだぱっとしない。
 あまり名前を変えるのも、なんだかなーって感じかな。
 
●会社は何かとあわただしいが、私は取り残されている。まあ、いいけど。
 連休前にやっておかなければならないことがほとんどないというのも変
 な話ではあるが。
 錦見映理子さんが、短歌の新人賞に応募するための作品をつくるために
 仕事を休んで、どこかの温泉地にこもったというのは、最近、珍しく感
 銘深い話。非日常的な集中力をどのようにして生み出すかということな
 のだが、こういう転地しての気持ちの集中というのは、近代作家などは
 よくやったらしい。現代では簡単なようでいて、なかなかできない。
 良い結果が出てくれればいいな、と思う。

●28日のマラソンリーディングのために、ベテランのディレクターの萩
 田さんに協力してもらう。聞いてもらって、タイミングを調整する。テ
 キストを読み込んで、イメージをたかめる。しかし、トップというのは
 案外、気楽でとにかくやるしかない、とわりと簡単に割りきれる。
 他のメンバーの朗読をゆったりとした気分で聞けるのもいい。

●会社の帰りに歯医者に寄る。治療椅子の上に一時間以上、座らせられて
 いた。顎が疲れる。

・客去りしのちの舞台の暗闇にからだあづけて沼のやさしさ/小田部雅子


[219] 初期消化に失敗し油田全体に 2001年04月23日 (月)

●朝、一度出社してから大手町の産経新聞社の写真報道局へ行く。
 有楽町の旧社屋の記録写真を撮影してもらうための打ち合せ。
 すぐに、お台場の社に戻る。
 昼食をとり副部長たちに個人所有のPCに関するアンケートを配布。
 そのあとまた社を出て、丸の内警察に向う。

●丸の内警察で署長から、「ひと声運動推進員」の委嘱状を貰う。
 おお、あこがれの「ひと声運動推進員」。
 これで、去年から、一級防火管理者、安全運転管理者と、世の中の
 役に立たねばならぬものばかりに任命されている。

●交通会館の古本市をのぞいて時間をつぶしてから「短歌人」編集会議。
 小池光さんが珍しく休み。
 食事は失礼して帰宅。
 池袋芸術劇場の一階にある古本大学という店で、丸谷才一の『遊び時間』
 を180円で手に入れたのが収穫か。

・初期消化に失敗し油田全体に火がひろがるがごとしなべては/小池光

 


[218] 苦いばかりのコーヒーを飲む 2001年04月22日 (日)

●富岡多恵子著『釋迢空ノート』を読み終えた。
 迢空=折口信夫モノは、弟子筋の人の本は通俗的興味もあって何冊か
 読んできたが、それ以外の人が書いたものはとても読みにくく感じられる。
 藤井貞和や松浦寿輝の本など簡単に挫折してしまった。
 しかし、富岡多恵子の場合は、一章を一視点というかたちで、「法名」
 「大阪」とか「父と子」とかポイントがしぼってあるので、かなり読み
 やすかった。

●夕方、かの子と一緒に自転車で東陽町の文教堂書店へ行く
 集英社文庫の新刊の皆川博子の『ゆめこ縮緬』が平積みになっていた
 のだが、私は一瞬、「ゆ」を「お」と読み違えて、絶句してしまった。
 岩井志麻子ならともかく皆川博子がそんな題名の本を出すわけがない、
 と思い、ちゃんと見なおしたら『ゆめこ縮緬』だったので安心した。

●夜、内田君がおくってくれたWWF
 の「NOWAY OUT」のビデオを見る。
 RAVENが登場すると会場にちゃんと「NEVERMORE」と書か
 れたプラカードが立つのが、さすがにWWFの客である。
 ポオも日夏耿之介もまさかこんなことになっているとは、思いもよらな
 いことだろう。

●ビデオのあと、福本伸行原作、かわぐちかいじ作画の『生存』という
 コミックを読む。娘殺しの犯人を父親が探すというストーリー。
 時効とダイイング・メッセージがメイン・トリックで、なかなか読み応え
 がある。福本伸行は現在もっとも凄みのある表現者だと思うが、こういう
 本格ミステリ風のものも書けるということなのか。
 こんどは同じコンビの『告白』というのを読んでみよう。

・やみくもに心やさしい人といて苦いばかりのコーヒーを飲む/村上きわみ
 
 
 


[217] 風がこたえる約束を 2001年04月21日 (土)

●中央競馬の馬主制度の中に一口馬主というシステムがある。
 これは共有馬主というのとはちがって、不特定の人数でお金を供出して
 一頭の馬を100人なり300人なりで共有し、預託料も共同で払う。
 その代わりに、賞金も分配されるというシステム。
 私はこの一口馬主歴は20年以上になるし、かつては色々なクラブに
 入っていたのだが、現在はヒダカブリーダースユニオンというところ
 一本にしぼって入っている。
 このクラブは私と相性が良く、実は初年度にサンドピアリスという
 ハイセイコーの子供の牝馬で、エリザベス女王杯を勝ったこともある。
 この時は100分の1の賞金だけで50万円近い賞金が分配された。
 忘れもはない、私の第一歌集『夢みる頃を過ぎても』の出版記念会の
 前日の日曜日だった。この時は馬券の方もささやかに単勝と複勝を買って
 いたので、初めて単勝の万馬券というのをゲットした。

●と、いうことで、現在はこのヒダカブリーダーズユニオンでサプレマシー
 という四歳の牡馬を100分の1所有している。
 柄崎厩舎所属で父ヤマニンゼファー、母キャロルレディー、母の父キャロ
 ルハウスという血統。スタミナ系の母系にスピードのある父系という配合
 で、いちおう出資するときに、考えぬいたものだった。
 この馬がダートで2勝して、やっとテレビに映るレースに出てきた。
 900万下秩父特別芝2000メートル戦である。
 一枠一番で田中剛騎手騎乗だがまったく人気はない。
 私は東京競馬場の芝の2000メートルは内枠有利だと思うし、厩舎が芝で
 も通用するからこそ、このレースに出してきたのだと思うので、ひそか
 に穴をあけるのでは、と期待していた。
 もともと中盤から差す競馬ばかりしていたこの馬が、何と先行どころか
 ハナをきって逃げている。みごとにスローペースにもちこんで、直線に
 なり、あと200メートルのハロン棒を過ぎてもばてない。
 結局、柴田善臣騎乗のグロリアスドータに首差だけ差されてしまったが
 みごとにこのクラスの芝で通用することを証明してみせてくれた。
 馬番連勝は三万円台の大穴。ただし、今回も私は単複しか買っていない。
 とはいえ、おおいに興奮と刺激と若干の金銭を与えてくれた。
 ありがとう、サプレマシー。もっと勝ってね。

●このレースを見たあと六本木のコモワイズ・イガワという美容室に
 行って、朗読会のために髪をカットし、ターークブルーのヘア・マニュ
 キュアを入れる。スポットライトがあたるとかすかに紺色に見えるはず
 なのだが、はたしていかがなものなのか。
 
●夜、枡野浩一さんが出演したTBSの短い番組を見る。
 正岡豊歌集『四月の魚』の旧版と新版がアップで全国に写されるという
 快挙。気持ちの良い短歌シーンのひとつである。

・風に問わば風がこたえる約束をまもれはるかなライト兄弟/正岡豊


[216] 汗をかく白紙ことばはうちからくる 2001年04月20日 (金)

●午前中、在京の放送局の会議があり、四谷方面へ行く。
 ラジオ局関係者にとっては、吉田照美と小俣雅子の醜聞はどうしても
 避けてとおれない話題になるのだが、結局、
 「マスコミの敵はマスコミだ」ということなのだろう。
 吉田照美は「女性自身」のゲラが出た月曜日の早朝にQR内に入って
 水曜日の放送終了後くらいまで、社屋から出なかったそうだ。
 帰途、タクシーの中で「やる気マンマン」を聞くが、吉田照美も小俣雅子も
 なにごともなかったかのようにいつもの調子の放送を続けているのが
 痛々しく感じられる。自業自得とはいえ、タレントというのはつらい稼業
 だ、と思う。

●夜は「プロレスを熱く語る会」と新生舎との懇親会のダブルブッキングに
 なってしまったので、しかたなく懇親会を選ぶ。
 神田の裏通りにあるとんかつ屋なのだが、はまぐり鍋が隠しメニューとし
 てあるという変な店。たしかにはまぐり鍋は美味しかったが、調子にのり
 貝類を食べ過ぎると、いつも、腸の調子がおかしくなるので、ほどほどに
 する。
 夜九時半に解散。タクシーで清洲橋を渡って帰る。

・汗をかく白紙ことばはうちからくる/普川素床『考梨集』


[215] 偽物たちのあたたかさ、あるいは東京の秘密 2001年04月19日 (木)

●有楽町の旧社屋に行って、お宝メモリアル・グッズ系のものがないか
 どうか、8階から3階まで一部屋づつ見てまわる。
 「ON AIR」のプレートとかユーミンらしいサインが入っている
 木のボードとかが出てきた。

●電気ビルの地下で、牛舌とろろ定食を食べてから、DODのセミナーを
 受けに行く。
 そのあとで、ある場所であるシステムを見学。
 うーん、東京にはさまざまな秘密が隠されているものだ。

●昨日のプロレスの結果がまだ気分の良さをもたらしてくれている。
 ノアの相撲出身の大物といえば田上のことを忘れていた。
 村上一成と小川直也が田上に喉輪落としで叩き伏せられるのを見たい。

●八重洲ブックセンターに寄ったら、浅田次郎がサイン会をおこなっていた。
 四年くらい前に神保町の三省堂で高村薫がサイン会をやっていたのを見て
 以来、流行作家むの顔を見た。
 高村薫は髪振り乱して鬼気迫る形相でサインをしていたが、浅田次郎は
 余裕たっぷりに笑顔など見せながらサインをしていた。
 雑誌コーナーで週刊プロレスの別冊の「アメリカーナ01」を買う。
 アメリカンプロレスの特集号で、もちろんWWFスーパースターズが
 グラビアで特集されているわけだ。
 表紙はストーンコールドとロック。
 TAZIRIのインタビューが載っている。
 彼が大仁田厚がいちばん好きだというのは、いかにも新世代のプロレス
 ラーという感じがして好感を持つ。

・しみじみと偽物たちのあたたかさ/普川素床『考梨集』


[214] 武道館に「ノア!」コールが湧きあがる 2001年04月18日 (水)

●午後、だらだらとワープロで報告書みたいなものをつくっていたら、
 ジュピターというテレビ製作会社の柴田君から電話。
 「今日の武道館のZERO−ONEの切符があるので生きませんか?」との
 こと。
 ここのところプロレスに情熱を失っていたので即OKする。

●武道館についたのは夜7時ちょっと前。ダフ屋の数が異様に多い。
 印象的には1993年の5月5日の川崎球場の天龍VS大仁田の電流爆破
 マッチの時のダフ屋の数に匹敵する感じ。
 柴田君と、いつもWWFのビデオを送ってくれる内田君と3人で観戦。
 3000円のチケットなので、武道館の上の方の席になる。
 ただ、武道館はかなり傾斜のきつい擂り鉢型なので、上の方でもリングは
 はっきり見える。それに、この席は後楽園ホールの2階席と同じく、強度
 のプロレス者が集まっている。今日も後ろの列に居た女性の3人組が、か
 なり最近のプロレスを見込んでいる会話をかわしていた。

●アンダーカードでは、ノアの丸藤VSゼロワンの高岩の試合が抜群。
 丸藤はルチャリブレの動きができるので、どんな選手にも対応できるし
 何よりスピードがあるのがいい。最後は高岩のキャリアに敗れたが、
 大会場の第一試合にふさわしい、きちんとした試合だった。
 あとはノアの杉浦とバトラーツのアレクサンダー大塚。
 杉浦はアマレス出身のルーキー。昨年12月の有明コロシアムでデビュー
 した若手だが、自分のアマレスのテクニックに自信をもっているので、
 まったく相手に臆するところがない。
 前半はアマレス、途中からいかにもプロレス式の頭突き合戦を挑み、大塚
 を流血させる。これも最後はアレクのキャリアに負けたが、プロとしての
 たたずまいは抜群の杉浦、おおいに株を上げた。

●そしてメインエベントは三沢光晴、力皇猛組VS小川直也、村上一成組。
 小川、村上は4月9日の新日本プロレスで、私をうんざりさせたアント
 ニオ猪木一派。
 ここで三沢にプロレスラーの強さと凄みを見せつけて欲しいというのが
 今日、私がここに来た大きな目的。
 そして結論は「やはり本気になったプロレスラーは強い!」
 この試合、実は月曜日になって、急遽、三沢光晴のパトナーが力皇猛と
 発表されたという、異例のものだった。ただ、相撲出身の新人の力皇を
 つれて武道館に乗り込むという三沢の思いを知って「本気だな」と思った
 プロレス者は多かったと思う。

●力皇抜擢は三沢の思惑どおりの成果をあげた。
 プロレスには力道山以来の相撲最強幻想があるのだが、アマレス出身の
 三沢と相撲出身の力皇との組合せは、柔道出身の小川直也と空手の村上
 一成のコンビよりも確実に上だった。
 村上のいつもどおりのツッコミを力皇も三沢もまったく問題なく受けきり
 実力差をみせつける。小川に対しても、力皇はまったく引かない。あせっ
 た小川がいきなり必殺技のSTOを出してしまったほど。
 代わった三沢は余裕しゃくしゃくに、小川に対峙、エルボーバットで追い
 こみ、圧倒的に有利な展開。小川は払い腰で三沢を倒し、マウントポジシ
 ョンになる。
 ここで、力皇を起用した意味が出て来る。力皇はいきなりコーナーから
 とびだし、小川の背後から相撲式のぶちかまし。そのまま、リング下に
 もつれあって落ちるほど強烈なカットだ。私はプロレスを長年見ている
 が、タッグマッチでこれほどすさまじいカットプレイは初めて見た。
 リング上では三沢がとびこんできた村上をつかまえて、軽がるとバック
 ドロップ3連発。
 一方、リング下では小川がのしかかる力皇をはらいのけることができずに
 もがき続けている。通常のプロレスなら、村上がスリーカウントをとられ
 る寸前に小川がリングにとびこんでカットするはずなのだが、本気の力皇
 を銀メダリストの小川がどうにもできないのだ。
 そして、三沢は失神した村上を楽々とフォール。
 武道館いっぱいにプロレス者が溜飲をさげる音が聞こえた瞬間だった。

●小川がやっとリングあがり、三沢につかみかかる。
 ノア勢もいっせいにリング・イン。小川は多勢に無勢でひきはなされる。
 橋本真也が飛び込んできて、ノア勢にキック。
 ところが、ここからがすごい。ノアの泉田が笑顔のまま橋本のミドルキ
 ックを腹で受け、そのまま、片手で橋本の足をホールドしてしまう。
 泉田はノアでは中堅。相撲出身で、廃業後は相撲教習所の教官をしてい
 た異色の経歴のレスラーである。通常のランクでは橋本よりずっと下の
 はずだが、今夜のようなセメント状況ではランクは関係ないということ
 が、一瞬にして証明されたわけだ。相撲最強幻想が目の前で証明された。
 ノアにはまだノーフィアーの大森と高山、そして秋山準と小橋健太も居る。
 格闘技者には絶対に負けないと決めたノアのプロレスラーたちの危機意識
 を大いに評価する。新日本プロレスの選手たちもこの危機意識をぜひ共有
 しなければならない。
 いったい、いつまで、アントニオ猪木の呪縛にとりつかれているのか?

●こうして、武道館には私を含むプロレス者の「ノア!」コールが響きわ
 たり、みんなたまりきったストレスを発散させ、アドレナリンを全身に
 みなぎらせながら、帰途についたのであった。
 


[213] ラジオスターの醜聞 2001年04月17日 (火)

●朝、ちょっと風邪気味で節々が痛いので、会社には午後から出社する旨の
 連絡を入れて、ちょっと一服する。
 昨日、大阪からペリカン便で送っておいた書籍類が到着する。
 
・きさらぎ連句通信
・現代川柳・点鐘
・点鐘雑唱
・墨作二郎作品集『伐折羅』
・矢本大雪「現代川柳をつくる」
・矢本大雪編「動詞別川柳秀句集 かもしか篇」
・野沢省吾川柳句集『ぽん』
・野沢省吾川柳評論集『極北の天』
・「かもしか」2000年9月号
・「宇宙船」2001年2、3、4月号
・季刊「狼」

これらをこれから読んでゆくことになる。

●東京三菱銀行と住友信託銀行に寄ってから浜松町へまわり、バスで会社へ。
 ちょうど、昼休み中に到着。
 フジサンケイ・クラシックのチケット関係の仕事がけっこう溜まっている。
 元ホリプロの門馬さんがきて、ソニー生命の保険の話を聞く。
 サウンドマンの事業部の吉川さんと杉山さんが来て、簡単なイベント実施
 のミーティング。
 防災プロジェクトの会議。
 本日のラジオ局的な話題は「女性自身」がスクープした吉田照美と
 小俣雅子の不倫スキャンダル。この二人はラジオ的には大スターなので
 こういうスッパ抜きには、ラジオ関係者としては無関心ではいられない。
 誰かがリークしたのかもしれない、との意見もある。そんな気もする。
 でも、照美、雅子というのは恥ずかしいというのが率直な感想。


[212] 新幹線で帰京した、あと、いろいろ 2001年04月16日 (月)

●ホテル・アウィーナ大阪を朝7時10分に出て、新大阪8時10分発の
 ひかり号で帰京。

●昨夜、三次会のカラオケボックスに一緒に居た人は大井恒行さん、
 荻原裕幸さん、村井康司さん、なかはられいこさん、倉富洋子さん、
 黒瀬珂瀾さんだったと思う。黒瀬さんは途中で帰り、村井さんは
 カラオケボックスを出たあとタクシーで新大阪駅近くのホテルへ。
 残りの五人でホテルへ戻ると玄関には鍵がかけられており、結局、
 非常口から入って、それぞれの部屋へ入る。

●昨日、田村葡萄さんの「岸和田のだんじり」の話というのは、岸和田の
 地元の人達が、いかに、だんじりに情熱をそそいでいるか、ということ。
 以前、泉佐野の市役所の職員に、だんじりの時、町中ぜんぶが熱狂する
 こと。十字路でだんじりが激しく回転するが、その時に角の家にぶつか
 って、家が壊れることがあるが、文句はいわない。ケガをするのは当然
 で、むしろ誇らしいのだ、というようなことを聞いたことがあった。
 それで、あらためて、田村葡萄さんにうかがってみると
 「だんじりで家がこわれても、その家の方が悪いんですよ」というニュ
 アンスのことをさらりと言われたので、やはりそうか、と思いつつ、驚
 いたという次第。ちなみに田村葡萄さんは、生後半年ですでにだんじり
 を見せにつれていかれたのだそうです。

●昨日のレジュメで私がすぐれた現代川柳としてあげた作品。
 ★金築雨学
  犬を洗って犬の臭いを嗅いでいる
  傘を置くところを探す他人の家
  湖がしずかに嵩を増してくる
 ★海地大破
  鳥籠を洗い人生とは何か
  缶詰をあける哀しいボクだった
  執念でいっぽんの縄立ちあがる
 ★普川素床
  月の暗がり神輿のような便器のような
  暗い箱が暗いとは限らない
  なんと長い足だろう 夜は

最後の普川素床さんの作品など岡田幸生さんの自由律作品にも通じている
面白みがあると思う。

●新幹線の中で読了した本。
 桑原稲敏『往生際の達人』新潮社

●夜、星野敬太郎が僅差の判定で負けてしまった。
 ボクシングはなかなか難しいと思う。
 


[211] 川柳ジャンクション2001の日 2001年04月15日 (日)

●川柳ジャンクション2001の当日。
 南海電車、近鉄電車と乗り継いで上本町のアウィーナ大阪に到着したのは
 午前11時30分すぎ。
 内容に関する詳細なレポートは下記のURL↓

 http://www3.justnet.ne.jp/~masa-0606/sen1.htm

 ↑正岡豊さんが書かれたレポートを読んでください。

●大本義幸さんとは25年ぶりの再会。
 大本さんが東京を去るので送別会をしたのはハードバージが勝った皐月賞
 の前日の土曜日だった。期せずして今日は皐月賞の当日。感慨無量。
 堀本吟さんには初対面。藤田踏青さん、富岡和秀さんたちも名前のみは
 知っていたものの今日が初対面。

●川柳作家のかたたちとはなかはられいこさん、畑美樹さんをのぞいて
 もちろん初対面。
 樋口由紀子さん、石部明さん、石田柊馬さん、倉富洋子さん、倉本朝世
 さん、広瀬ちえみさん、佐藤みさ子さん、金筑雨学さん、野沢省悟さん
 はじめたくさんのみなさま。
 川柳作家の男性が声が大きいのは、選句の発表をするからなのか。
 変わった号をつけるのも呼名の時、同じ名前がないようにするというこ
 となのかもしれない。

●私が現代川柳の特に男性作家の特徴としてあげたのは次の5点
 @世界を批評する姿勢
 A日常に陰翳を発見する姿勢
 B季語的な既成のイメージに依りかからない表現意志
 C定型への疑い
 D洗練を自覚的に拒否する文体

 シンポジウムでは長くしゃべり過ぎたかもしれない。

●終了後の二次会で「かばん」の江村彩さん、田村葡萄さんと同席。
 田村葡萄さんの、岸和田のだんじりに岸和田の者はみな血が騒ぐ
 という話が圧倒的に印象が残る。
 あと、熊野古道を歩いた時に小動物の白骨を見た話も。


[210] 関空から和歌山へ 2001年04月14日 (土)

明日の「川柳ジャンクション2001」へ参加するために、一日前に
和歌山にある家内の実家へ行く。
関空ができたので、和歌山方面には圧倒的に早く到着できるようになった。

あまり早く着きすぎても時間をもてあますので、和歌山市内のブックオフに
寄ってみる。
旅行中だというのに、またまた、けっこう多量の文庫本を買ってしまう。
角川文庫の矢野徹の『折り紙宇宙船の伝説』とか『地球0年』とかの
中短編集。ついついなつかしくて買ってしまった。
空港から飛行機の中、および南海電車の中で丸谷才一著『男もの女もの』を
読み終わる。今月の文春文庫の新刊で解説は川上弘美。
蝶には音読みしかないのだが、本当は「カハヒラコ」という訓読みがあった
ということをこの本でおぼえた。丸谷才一の本はいわばそういう本だから。


[209] 13日の金曜日というトリック 2001年04月13日 (金)

●ずっと懸案になっていた「歌壇」の原稿がやっと終った。
 そしてちょうどタイミングよく「歌壇」五月号が到着。
 今年の新企画の「新世紀 歌の饗宴50首」の今月号は
 佐佐木幸綱と大口玲子。まあ無難だけれど新鮮な感じはしない組合せ。
 来月号の予告を見ると、小池光と柚木圭也となっている。
 この組合せは、実に新鮮だと思う。
 柚木圭也の底力をぜひフルスロットルでみせつけてほしい。
 歌集をまだだしていないし、綜合誌の新人賞も受賞していない
 柚木圭也が50首の作品を発表できるのは、嬉しくもあり、
 うらやましくもある。
 この組合せを考えた「歌壇」編集部には感謝したい。
 ぜひ、来月の「歌壇」で、柚木圭也の50首を、
 読んでほしいと思う。

・トランペットが朝から悲鳴をあげていたここに国立音大ありき/佐々木史子


[208] ああと声あげて覚めたる 2001年04月11日 (木)

●会社のOB会の幹事会が有楽町の蚕糸会館の会議室で開催され
 現役社員側の担当者として出席。
 OBのKさんが年賀状のお年玉籤で一等のBSテレビが当選したとのこと。
 二十年くらい前にも同じく一等で自転車が当たったとか。
 運のいい人もいるものだ。

●夜、長男が録音してくれていたTBSラジオの
 「伊集院光の深夜の馬鹿力」を聴く。今週はレーティングの期間なので
 特番風になっているが、文句なく笑える。
 この番組が伊集院光の面白さをもっともひきだしている。
 裏番組には何をもってきても当分は勝てないだろう。

●古本屋の東陽書房に筏丸けいこの『パプリカ・ブリーカー』がある。
 八重洲古書館にあったのを買ったばかりなので、不思議な気分。
 そんなに刷り部数が多いわけはないはずなのに、なんで二度も
 でくわしてしまうのか。思潮社の本なので、ゾッキということも
 ありえないのに。

・ああと声あげて覚めたる井手老人「赤紙がきたのかと思った」/岡田幸生


[207] 突然に春の小川が 2001年04月10日 (水)

● 「ユリイカ」4月号に中原中也賞の発表と選考委員の批評が掲載されている。
受賞者はアーサー・ビナード。詩集は『釣り上げては』。
選考委員は荒川洋治、北川透、佐々木幹郎、佐藤康正、中村稔の五人。
「現在」の見えていない現代詩人か選考委員の中に居る。これも老害ということ。

● 会社では防災プロジェクトの会議と副部長会。
風邪が流行っているようで、咳き込んでいる人が多い。


・突然に春の小川が出てきたり/樋口由紀子

本当はこの句は昨日引用すべきだった。
大阪ドームに突然登場して長州力とやりあった小川直也のことということで。


[206] アントニオ猪木という毒 2001年04月09日 (月)

●会社から東京駅行きの快速バスで銀座まで行く。
 銀座のくまざわ書店、近藤書店、数寄屋橋の旭屋と書店めぐり。
 目的は会社で講演依頼をすることになっている弁護士の枝美江さんの
 新刊書『ITビジネスの法律知識』の購入だったのだが、結局、自分
 のための本をたくさん買ってしまった。

●「ユリイカ」4月号
 「文藝別冊・水上勉」
 「高橋順子詩集」
 J・K・シャローム「ボートの三人男」
 山田太一編「土地の記憶・浅草」

 と、いうような本。文藝別冊は水上勉と車谷長吉の対談が載っているので
 つい買ってしまったもの。

●帰ってきて待望の1年ぶりの新日本プロレスのゴールデンタイムの生中継。
 藤田和之対S・ノートンのIWGP戦と橋本真也対佐々木健介戦の2試合
 のノールール・マッチというのがよくわからない。結局、猪木にひきずり
 まわされただけじゃないか。
 藤田がノートンに勝ち、橋本が健介に勝ったが、これで、プロレスがプラ
 イドに負けたということになってしまうのか。
 純粋に観客として見ていて、私はこの2試合より、永田対中西の試合がお
 もしろく思えた。T2000対BATTの6人タッグのほうがやはりおも
 しろいではないか。それはプロレスのスペクテーター・スポーツとしての
 魅力をレスラーも観客も十分にわかっているからだ。
 村上一成に激怒した獣神サンダーライガーも同じ思いを抱いたのだろう。
 プロレスは様式美を内臓している。そこにアントニオ猪木は毒を混入して
 こういう結果をもたらした。これが5月5日の福岡ドームへのアングルだ
 としても、この夜の結果はプロレスとして私にはおもしろくないものだ。
 本当にいつになったらアントニオ猪木という毒をプロレスが征することが
 できるのか?
 自己顕示しか考えていない老獪なベテランにひきづりまわされる弊害はプ
 ロレスの世界だけのものではない。うんざりするが闘わねばならない。
 


[205] 一族が揃って鳥を解体す 2001年04月08日 (日)

●桜花賞の日曜日。
 勝ったのはティーエムオーシャン。ダイワルージュは3着だった。

●ちょっと、やらなければならないことが溜まってしまいパニック気味。
 短歌人の月例歌会の司会の当番にあたっているので、朝、鎌倉千和さん
 に電話して、前半を担当させていただき、後半は帰らせてもらうという
 了解をとる。わがままばかりお願いしているようで反省する。

●歌会の場所は台東区民会館。地下鉄銀座線の浅草駅で降りて、徒歩で
 5分。同じフロアで「スクエア・ファン2001上映会」とかいうイベント
 が開かれていて、コスプレした男女がロビーにたまっている。
 いつもなら、中をのぞいて取材するのだが、今日は時間的にも精神的
 にも、そういう余裕がないのが痛恨。

●歌会前半で失礼して、四時頃に帰宅。
 パソコンのモニターをにらみ続ける。
 7時から『笑う犬の冒険』のスペシャル・バージョンを見るが、ゲスト
 を入れたりして、水増し気味。昨日の「めちゃイケ」のスペシャルの方
 が、正直なところ、ずっと面白かった。

●10時過ぎに寝床に入り、眠ってしまうが、夜中に目がさめる。
 山口瞳の『単身赴任』という短編集から、「三宅坂渋滞」と
「逃げの平賀」という短編を読む。どちらも巧いなあ、と感嘆する。
 初版本のあとがきというのが巻末に載っていて、著者が「三宅坂渋滞」を
 短編集の題名として希望したのに、講談社の会議でそれが拒否されて
 結局、「単身赴任」になったという経緯が書いてある。このエピソードは
 読んだ記憶があったので、初版が出た頃に立ち読みでもしていたのだろう
 か。それにしても、山口瞳ほどの作家でも、自分の短編集の題名が自由に
 ならないというのは、変な話だ。

・一族が揃って鳥を解体す/石部明


[204] 無題 2001年04月07日 (土)

●長男の高校の入学式に出席のため、久しぶりに新宿へ出る。
 帰りにサザンシアターがある方の紀伊國屋書店に行き、本を物色。
 本当は、もう、本を買っても置く場所がないにもかかわらず、つ
 い、現物を見ると欲しくなってしまう。
 「東京人」「ユリイカ別冊 田中小三昌の世界」などの雑誌のほ
 かに、いままであえて買わないようにしていた森まゆみの本を買
 ってしまう。

●「読書人」の雁書館の広告に米川千嘉子歌集『一葉の井戸』とい
 うのが載っていた。川野里子さんの一葉の短歌に関する文章が掲
 載されたり「かりん」の中では一葉がブームなのかな。

●競馬は完敗。
 メイショウドウサンなんか絶好の狙い目だと思っていたのだが
 直線でまったく伸びない。
 ペーパーオーナー・ゲーム、あとは本日の桜花賞のダイワルージュ
 に賭けることになる。
 最終レースもはずれたので、気晴らしに自転車で、東陽町の文庫系の
 古本屋を覗きに行く。
 うすむらさきいろのたそがれの空気が馬券でささくれた心にゆとりを
 もたらしてくれる。
 まったく読まれた様子のない三島由紀夫の『春の雪』と『奔馬』が
 200円ででていたので、ついつい買ってしまう。

●夜は長男の入学祝いにスキヤキを食べながら「めちゃイケ」のスペシ
 ャル番組を見る。台湾ロケで、「めちゃイケ」をパクった番組に抗議
 に行くというもの。面白い。深夜に「爆笑オンエア・バトル」を見て
 眠ってしまう。

・記録には飛べない鳥として残る/なかはられいこ『脱衣場のアリス』


[203] 心理テストの中の樹だ 2001年04月06日 (金)

●防災マニュアルのページ差替作業はえんえんと続く。
 この作業をやりながら、定例会議などもこなす。
 会社の中でパソコンに触っている人とアレルギーの人にどんどん
 大きな差が出てきている。
 当然、一人一台のPCという状況は実現できていないわけなので
 個人所有のノートパソコンなどを会社に持ってきて、仕事に使っ
 ている人も少なくない。
 小人数の企業でも、仕事に新しいツールを全面的にとりいれると
 いうのには、精神的にもさまざまな手続きがいる。

●高橋和彦著『完全現代語訳・樋口一葉日記』やっと読み終わる。
 半井桃水との恋情は有名だが、平田禿木、川上眉山、斎藤緑雨、
 上田敏等などの文学者たちが、一葉に恋心を抱いていたことを
 知った。現在の視点から考えると、上田敏あたりと結婚するの
 がいちばん良い選択だったのかもしれない。
 渋谷三郎という婚約者も居たようだ。何で結婚しなかったのだろうか。
 私はいつも思うのだが、タイムマシンがあったら、明治二十年代では
 一葉を助け、明治四十年代では啄木を助けてやりたいとの妄想を持っ
 ている。二人とも多少の金銭でなんとかなりそうなのに、くやしいこ
 とだから。

●「かりん」に川野里子さんが一葉の短歌について書いている。
 川野さんはきっと原文で読んでいるのだろう。
 私はレンタル・ビデオでも日本語吹替版を見るタイプ。
 川野さんの文章の結論は、一様は短歌の語彙において時代をとりこむ
 ということで与謝野晶子のような鮮烈さをもちえなかったが、歌の底
 に志のようなものがあった、と指摘している。そうかもしれない。
 志が戸主、家長としての意識に通じていたために、自らの結婚という
 ベクトルをもちえなかったのだと思う。

・ぼくたちは心理テストの中の樹だ/なかはられいこ『脱衣場のアリス』


[202] 地下鉄の少女は無敵 2001年04月05日 (木)

●今週の「週刊プロレス」の表紙はWWFのビンス・マクマホンと
 ストーンコールド・スティーブ・オースチン。
 コピーは「アメリカン・プロレスの光と影」。
 増刊号以外でアメリカン・プロレスが表紙になったのは、おそらく、
 週プロ史上初めてのことなのだろう。
 WCWをWWFが買収したというニュースは先週、すでに報じられて
 いたが、WCWの最後のテレビ放送にWWFのオーナーのビンス・マ
 クマホンが登場して、ファンと古顔レスラーを挑発したそうだ。
 一方、WCWの会場にはビンスの息子のシェーン・マクマホンが登場し
 父親に対抗する宣言をする。つまり、ありていにいえば出来レースなの
 だが、本当にここまでやるの!という過剰さがムーブメントを巻き起こ
 しているわけなのだ。中澤系さんは、いちばん良い時期にWWFを見に
 行ったことになる。こういうのが歴史の証人なんだよなあ。

●午後、あいかわらず、防災マニュアルのページの差替え作業。
 こういう単純作業のBGMとして、AMラジオ放送はぴったりだなあ。

・地下鉄の少女は無敵ニガヨモギ/なかはられいこ


[201] キウイの種に負けている 2001年04月04日 (水)

●決算期なので伝票の束が会社をとびかっている。
 午後はアルバイトの学生二人と会議室にこもって、防災マニュアルの
 差し替え用のページの袋詰。
 去年もこの作業をしていたら、有珠山の爆発のニュースが伝えられた
 のだっけ。

●なかはられいこ句集『脱衣場のアリス』が届いている。
 「WE ARE!」の創刊に続き、旧来の川柳句集のイメージを
 やぶったこの句集の出現で、現代川柳のイメージは劇的に変わる
 だろう。
 なかはられいこさん、倉富洋子さんの志の持続におおいに期待したい。

●NHK第一放送の「ラジオ名人寄席」。
 今日は姿三平・浅草四郎のコンビの漫才。もちろん初めて聴くもの。
 浅草四郎は岡八郎とのコンビで、四郎・八郎として何度もテレビで
 みたことがある。しかし、その前のコンビであった三平・四郎は、
 残念ながら間に合わなかった。玉置宏、沢田隆司両氏のトークによると
 このコンビの録音テープは唯一のものなのだそうだ。
 四郎・八郎もあれだけテレビに出ていたのにビデオも録音も今のところ
 発見できていないのだそうだ。いかにイロモノの扱いが軽かったか、と
 いうことなのだろう。

・げんじつはキウイの種に負けている/なかはられいこ
 


[200] いにしえの魔術 2001年04月03日 (火)

●珍しく長い文章を書いたのに、コピー&ペーストしようとしたら消えていた。
がっかり。

だから近作一首。

・猿の手と柳と上段寝台と炎天といにしえの魔術と/藤原龍一郎


[199] わが窓星を獲てしづかなれ 2001年04月02日 (月)

●新入社員が今年は9人。
 入社式のあと研修を受けている。
 私は三十三歳のときに中途採用で入社したのだが、当時の役員から
 いちおう、研修らしきものを受けた。
 そのとき、現社長が当時は編成局長だったのだが、研修の最中に
 ユーミンの事務所から電話がかかってきて、ぽんぽんと小気味の良い
 やりとりがあり、聞いていた私は、いかにも業界だなあ、と感心した
 ことがあった。
 しかし、今、冷静になって考えてみると、あの電話はやらせだった
 可能性もあるなあ。
 それくらいのことは平気でやる世界だしなあ。

●今日買った本
 中村苑子『俳句礼賛』富士見書房
 高橋源一郎『もっとも危険な読書』
 文藝別冊「追悼特集 須賀敦子」

・遠きところに情事をうつす窓はありわが窓星を獲てしづかなれ/荻原裕幸